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W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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上州名物 かかあ天下とからっ風

12/06/27 コンテスト(テーマ):第九回 時空モノガタリ文学賞【 群馬 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2454

時空モノガタリからの選評

最終選考

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ついに戦いの火ぶたは切って落とされた。

昔からかかあ天下とたとえられる群馬の女たちと、その亭主たちが、きっちり二手にわかれて、火花をちらすにらみあいがはじまったのだ。

正確にいうと、これまで女房の尻に敷かれっぱなしになっていた亭主族が、もう我慢ならんとばかり、なんとか一矢報いんものと、決起したのがこの戦いだった。

とはいえこの現代、いかに相手が気の強いかかあたちといえども、暴力をふるって危害をあたえるなんてことは、まちがってもゆるされるものではなかった。

亭主たちは銘々、女房にかくれてこっそり、携帯メールでやりとりして、かかあたちをぎゃふんといわせるにはなにをすればいいかを、いろいろ話しあった。

そんななかで、杉田幸一という男が仲のいい五人に、こんな提案をした。

「かかあたちが一番苦手にしているものをもちだして、こわがらせて、ちぢみあがらせたあげく、ころあいをみてわれわれ亭主族が出ていって、かばってやれば、いくらあのかかあたちといえども、自分たちの亭主を見直すんじゃないだろうか」

彼はそして、女たちがこわがるものとして、ヘビ、カミナリを例に出した。

「そんな子供だましみたいなこと―――」

小山田という杉田の家の隣人が、小ばかにしたようにいったが、すぐに彼は先日、自分の妻がゴキブリ一匹に青ざめて、すくみあがったことを思い出した。

「なるほど、あんがい名案かもしれないな」

そんなわけで、杉田たち5人は、切り札となるゴキブリ集めに精を出すことにした。

他の亭主たちにそのことを秘密にしていたのは、へたに騒いで、かかあたちに勘付かれるへまはしたくなかったからにほかならない。それに女房たちがゴキブリにきりきり舞いする姿を、まえおきなしに見せて、手ばなしにかれらを喜ばせてやりたい気持ちもあった。

一軒に一匹いれば、その数十倍は家の中にひそんでいるといわれるゴキブリを集めるのは、造作ないことだった。
最終的に、ミカン箱5杯分のゴキブリが集まった。
きょうそれを、女たちが集会場所にしている丘の上の広場にもっていき、いっきに彼女たちの上にぶちまけようという作戦を立てた杉田たちは、はやく女たちの恐怖にゆがむ顔がみたくて矢も楯もたまらなくなった。。

杉田は、午後になるのをまってから、丘の下にある公園に、この地区の亭主族たちを終結させた。

「われわれ亭主族の、勝利のときがついにおとずれようとしています。。かかあたちはきょう、恐怖のどん底にたたきおとされ、われわれ亭主たちの庇護をもとめて頭をさげることでしょう。みなさん、これまでながいあいだいうにいわれぬ辛い境遇によく耐え忍んでこられました。それもあとすこしの辛抱です。さあ、みんなでこの丘をのぼりましょう」

彼の話に耳をかたむけていたみんなは、なんのことかとおたがい、怪訝そうに顔をみかわした。
がいまの杉田の、目に涙をうるませた呼びかけは、かれらを励まし、勇気をもたらさずにおかなかった。

あの中には女房たちをやりこめるなにかが詰め込まれているにちがいない。

まえをゆく杉田たち5人が肩にしている箱をみるみんなの顔に、ふいに希望の光が宿りはじめたのは、そのときだった。

丘のはずれの、広場に集まる女たちをみおろす崖の上に、亭主たち全員がこっそり上りつめるのをみとどけた杉田は、

「みなさん、女たちに気取られないよう、ふせて」

みんなは一様にその場にうずくまった。
すぐ目の下には、かれらの女房たちの、毅然として胸を張る姿がながめられた。
あの連中もまた、反旗をひるがえした亭主族をやりこめんがために、あれこれ算段しているところにちがいなかった。

「いるぞ、いるぞ。いよいよだ―――」

杉田の声が興奮にうわずった。

彼の合図に、五つの段ボール箱のふたをとめているテープが、いっときにはがしとられた。

たちまち箱の中からいっせいに、ゴキブリたちがくろぐろと舞い上がったかと思うと、ブォーンという不気味な音をたてて、丘の上の、女たちのいるところめざして、飛んでいくかにみえた。

そのとき、丘の反対側から、ビュッとからっ風が吹きつけた。

とたんに全部のゴキブリたちが風の勢いにおされ、百八十度方向を転じて、もといたところに舞いもどりはじめた。

「キャー」

崖の上に響きわたったその無数の悲鳴は、男たちの口から出たものだった。

なにごとかと、血相かえて崖をかけあがってきたかかあたちの目に、無数のゴキブリを前に色をなくして逃げ回る、わが亭主たちのあわれな姿がとびこんできた。






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