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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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叔父さんの話

14/09/22 コンテスト(テーマ):第六十七回 時空モノガタリ文学賞【 秘密 】  コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1261

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 僕がまだ小さかったころに、叔父さんがこんな話をしてくれた。叔父さんは絵描きで、会社勤めの僕の父親とちがい、ずいぶん気ままな暮らしをしていて、平日でもなんでも気がむいたら僕の家をたずねてきた。
 そのときも、叔父さんはふらりと家にやってきた。読書中だった僕は、本より叔父さんを相手にしているほうが楽しかったので、居間に顔をだした、
 お母さんはこの叔父さんが苦手で、お茶とようかんを出すと、さっさと買い物にでかけていった。
「ツトムくん、元気そうだな」
 叔父さんは、僕にもようかんをくれた。室内は、叔父さんの煙草の煙が早くももうもうとたちこめていた。お母さんが退散したこれも理由の一つだった。
 はじめのうちは、とりとめもない話を交していたが、なにかの拍子に僕が、叔父さんはいつも、いいものを身につけているねという話になった。
 服装もそうだし、靴や、帽子も、いつもぱりっとしていて、よくテレビのドラマに登場する小汚い身なりの芸術家とはおおちがいだった。
「そりゃ、私の絵は、人気があるからね。はは、冗談、冗談。名の知れた画家ならともかく、こっちの絵なんか、個展をやってもせいぜい五・六点しか売れやしない」
「え、でも………」
「絵がうれないのに、どうしてそんな贅沢な恰好ができるのだといいたいんだろ。よし、それじゃこれから、その理由を話してあげよう」
 僕はなんだか、胸が高鳴った。叔父さんの話はいつも、まるで冒険物語を読むように、楽しかったからだ。僕は残っていたようかんを頬張ってから、耳をそばだてた。
「ツトムくんの検便は、どんなふうだ」
 いきなり検便のことをきかれて、僕はようかんを喉につめそうになった。
「検便ってあの、でたものをパックでうけて、棒のさきにちょこっとつけて、細長い容器にいれてふたをするあれのこと?」
「いまのはみんな、そんなやりかたか。私の子供のころは、マッチ箱にいれたもんだ」
「マッチ箱」
「マッチぐらい知ってるだろ。そのマッチのちっちゃな箱につめて、学校にもっていくんだ。私が小学生のとき、やっぱり検便があって、朝おきると、便所に入って、マッチ箱にうけようとしたんだ。その日はなんだか、おなかの調子が変で、下痢でもしたらどうしょうと、ずいぶん気をもんだが、とにかく便器にしゃがんだのさ」
 その話をきいた僕は、便器にしゃがむというのが、いま一つぴんとこなかったことを覚えている。
「なにか、コロコロと固い感じのものが、マッチ箱をもつ私の手に伝わってきた。なんだか小石のような感じだった。私は箱の中をのぞきこんだ。そこには、小指の先ぐらいの大きさの塊が二個入っていて、しかもその二個とも、黄金色にまぶしく輝いていたんだ」
「それって、なんだったんですか」
「純金の塊さ」
「まさか」
「いや、ほんとなんだ。私はそのとき以来、三月にいっぺんぐらい、便のかわりに金を排泄するようになった。おかげで、大金持ちにはなれないが、いまきみがみているような、身なりだけは人から笑われないものをそろえることができるようになったんだ。すぐには信じられないような顔をしているね。―――なんなら一週間ばかり、私の家に泊まって、こちらの排泄物を毎日観察したらいい。運がよけりゃ、金の塊を拝むことができるだろう」 
 僕は眉をひそめた。一週間の間、叔父さんの排泄物とつきあわされるのだけはごめんだった。
 その後、叔父さんのことはときどき、両親の会話をとおして僕の耳にも入ってきたけれど、会うことはなかった。売れない絵ばかり描いて、よく食べていけるわねと、母は叔父さんの話がでるたびに、心配半分でつぶやいた。
 いまでは僕は、あのときの叔父さんの話を、頭から信じるようになっていた。
 なぜかというと、あの話をきいた一か月後に、僕もまたトイレで、二個の金を排泄していたからだ。
 座っている下から、コツンとなにかの当る音がして、のぞきこんだところ、水の中で光っているものがあった。僕がためらわずに、便器に手をつっこみ、平気で金をつまみあげることができたのも、あのときの叔父さんの、パリッとした姿がとっさに思いうかんだからにほかならない。僕の中にも、叔父さんとおなじDNAが組み込まれていたのだ。
 この金のおかげで、僕の未来は、あくせく働くことなく、じぶんの流儀で生きていけることができる、叔父さんのように―――僕は確信に似た気持ちでそう思った。
 僕はこのことを、ただひとり、叔父さんにだけ電話で話した。叔父さんは、おめでとうと祝福してくれ、このことは二人だけの秘密にしておこうといった。
 僕の懸念は、もしかしてだれもが純金を排泄するようなことになって、金の価値が下落することだったが、そのことを叔父さんにいうと、いまから取り越し苦労するなよと、いつものように豪快に笑い飛ばされた。


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