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黒糖ロールさん

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パイロットフォルム(羊飼いとシープドッグ)

14/09/21 コンテスト(テーマ):第六十五回 時空モノガタリ文学賞【 守る 】  コメント:8件 黒糖ロール 閲覧数:1372

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 ステンドグラスの中で斜めにうつむく天使を、燭台の光が照り浮かびあがらせている。火の揺らめきで天使の顔が和らいで見えるので、ミアは夜の教会が好きだった。
 ステンドグラスは教えてくれる。外から差し込む昼の日差しを通すとき、また、夜、屋内に耀う火を反射するとき。光、その内にある本質が多彩であること。散らばった本質の欠片を集めて敷き詰めれば、神性が宿り見えること。
 採光用の窓に近づくと、満天の星が広がっていた。地上よりも、空中都市にいるほうが、星の気配を近しく感じる。
 星々の囁きを子守唄にして、羊たちは眠っていることだろう。
 ミアは十字を切ると、祈りを捧げた。
 主よ、悪しきバクゥーの牙から、彼らをお守りください。
 重ねて、祈った。
 やすらかな気持ちでいられますように。
 祈ることで、息づく邪な気持ちが鎮まり、心の平安が訪れる。たとえ仮初でも構わない。ミアはずっと祈っていられたらと思う。
 扉の軋む音がした。振り返ると、誰かが教会に入ってくるところだった。
 姉のアウルだった。パイロットの制服に身を包み、革製のショルダーバッグを肩にかけ、酒瓶を持っている。大股でミアのところまで歩み寄ると、アウルは酒瓶をつきだした。ミアは受け取りながら、唇の動きで感謝を伝えた。祭壇の上にあるグラスに酒を注ぎ、アウルに差し出した。自分のグラスも満たすと、ミアも少しだけ口をつける。
 美味しかった。修道服を着て、ロザリオを首から下げながら酒を嗜むとき、空中都市の教会にいることを実感する。
 いつものように、アウルが飛行場の仲間たちのことや、最近のフライトについて話しはじめた。ミアは、頷いたり、首を傾げたり、酒を口にしたりしながら、黙って姉の話を聞く。姉の声は心地よくて、優しくて、ふいに泣いてしまいそうになる。
 姉の話の行き着く先は、いつも決まっていた。
「ここはやっぱり曖昧だ。戻っておいで」
 姉の言葉通りだと思う。前触れもなく、ミアは空中都市に来てしまった。理由さえわからない。肉体は地上で無事なのか、それも定かではなかった。
 この空中都市は、亡霊や幽霊の住む町なのだろうか。町の住人たちに尋ねてみたが、誰も確かな答えは知らないようだった。
 思い出したと呟くと、アウルは鞄を開けた。白い塊を慎重に取り出す。手の平に乗るほどの子羊だった。
「こいつ寝てやがる」
 アウルは呆れたように言った。
 アウルの両手の上で眠る子羊がとても愛らしく、ミアは微笑んだ。
 空を飛んでいると、ときおりコックピットに迷い込んでくるのだという。メエメエうるさくて勘弁してほしいよ、とアウルが愚痴をこぼす。その瞳から慈しみが溢れだしているようで、ミアはたまらず顔を伏せた。


 二人で飲み進め、酔いが少しまわりはじめた頃だった。
「ミア。あいつ、誰だ」
 硬いアウルの声に、ミアはふわふわした気持ちで姉の見ているほうに顔を向けた。
 黒いスーツ姿の男が、回廊の中ほどで佇んでいた。男の周囲だけ暗がりがさらに凝縮したように、闇が濃くなっている。酔いが消え、肌が粟立った。
 ――吸夢鬼(ヴァンパイア)だ。
「そちらの羊、渡していただけますね」
 耳心地のよい爽やかな声。その分、声色に含まれる冷酷な響きに寒気を覚える。教会の結界を踏み越えてきているところを見ると、かなり力が強い。
 今にも掴みかかりそうなアウルの袖を、ミアは強く引っ張った。首を大きく横に振る。ミアは眠る子羊を拾い上げ、アウルに渡した。
「勇ましいシープドッグさんだ。羊飼いさん、どうしますか」
 ミアは困ったふうに首を傾げた。主に謝った。嘘をお許し下さい。
 アウルの前に出て、男の正面に立った。
 男が近づいてくる。
「羊飼いも、私たちにとっては美味なものです」
 男は舌をだすと、なまめかしく動かした。距離が近づくにつれ、男から漂う瘴気に気分が悪くなる。
「もしかして口がきけないのですか」
 ゆっくりとミアは頷いた。男はくっくと笑い声を漏らした。私が怖いんですね、という言葉を聞き終えるか否か――。
 ミアの体は、迷わず動いていた。懐に手を入れ、一気に飛び込む。引きぬいた銀の短剣を両手で握り、男の胸を力いっぱい突いた。男とともに倒れこむ。
 隠していた拳銃を引き抜き、男の額に銃口を押しつけた。顔を歪める男の両の瞳を見つめながら、一発撃った。
「ミア……」
 背中で受けたアウルの声を振り払うように、男の顎を銃口でこじ開け、ねじ込み、さらに一発。
 息絶えた吸夢鬼を見下ろしながら、ミアは呼吸を整えた。
 立ち上がり、振り返ってアウルに向き直った。
 悲しげな姉の瞳を見つめ、ミアは語りかけた。届きはしないとわかっていたけれど。
 ――私、やっぱり戻らない。シープドッグの聖なる本能だけが、美しく私を機能させてくれるから。


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このストーリーに関するコメント

14/09/22 夏日 純希

拝読いたしました。
ぬぅぅ、羨ましい。どうやったらこういう発想にいたるんですか?
(特に前半部分)
どういう小説を普段読んでるのか教えていただきたいくらいです・・・。

掌編であるせいで語りつくせないのが残念ですが、
壮大なものが裏に隠れている感じが僕は好きでした。

14/09/22 泡沫恋歌

黒糖ロール 様、拝読しました。

なんとも不思議な世界観ですね。
黒糖ロールさんの独自の世界が展開されていて、読み終えて呆然としてしまった。

もっと長い話で読んでみたい、これを掌編小説では勿体ないお話です。

14/09/22 そらの珊瑚

黒糖ロール 様、拝読しました。

冒頭のステンドグラスの描写に魅惑され、一気に読んでみれば
これが2000字なんて信じられないほどの世界観に圧倒されました。
空中都市は迷路のようにいろんな話が巡らされていて、つなげればきっと長編になりそうな、そんな気がしました。

14/09/22 黒糖ロール

夏日 純希さん

前半部分はイメージを連ねただけでして(汗)
小説は基本流行りものを、雑食してまする。
基本イメージの連なりです。ぼやっとテーマが見えてきたらいいな、ぐらいの。壮大なものが裏に隠れてるんでしょうか。私にもわかりません(笑) 

あと、受賞おめでとうございます!


泡沫恋歌様

タイトルが「パイロットフィルム」のもじりでして、イメージボードのように、断片を書き連ねている状況です。
いつかきちんとまとめて、長編にしたいものです。
読んでみたいとはありがたきお言葉です。感謝感謝です。


そらの珊瑚様

このシリーズ、なぜか最初だけ描写気合入ってます(笑)。
舞台作りを無意識にしてるのかと。
ちょくちょく書き続けると思いますので、温かい目で見てやってください:-)
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

14/09/23 草愛やし美

黒糖ロールさん、拝読しました。

壮大な物語に、凄いキャラクターたち、どこかの別世界に紛れ込んでしまったかのような錯覚に陥りそうな世界観ですね、映像化できれば素晴らしいものになるのではと期待します。パイロットフォルムの世界はどこまで広がり、誰が住んでいるのでしょうね、面白かったです。

14/09/23 黒糖ロール

草藍さん

挿絵とかたまに欲しいなと思ったりはします。
イメージが浮かんでくる間は、まったり続けようと思います。
作品の雰囲気は意識してるところではあるので、別世界とのお言葉、嬉しいです。

14/09/27 黒糖ロール

OHIME様

おひさしぶりです。お元気されてましたか:-)

お手本だなんて恐縮でミジンコになってしまいます(汗)
OHIME様の作品からは、既に美しさが滲み出てると思いますっ。

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