島中充さん

性別 男性
将来の夢 墓の下で生きる
座右の銘 天は人の上に人を作らず 人の下に人を作らず

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蓑虫

14/09/20 コンテスト(テーマ):第六十五回 時空モノガタリ文学賞【 守る 】  コメント:0件 島中充 閲覧数:1104

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     蓑虫
                          
妻はゆっくり狂い始めた。階下から甲高い声で私を呼ぶのだ。
「アナタァー」 また始まる、始まってしまった。

開け放たれた窓から、花冷えの寒気がなだれ込み、投げ出された掃除機の横で、妻は床の上にスフィンクスのように、両手、両膝を着いて、目を据え、開かれた昆虫図鑑を睨んでいた。
「アタシ、蓑虫じゃないわ。蓑虫なんていや、大嫌い。」
蓑虫の雌は一生を蓑の中で暮らす.雄のように蛾に成ることもなく、蓑の中で交尾し、産卵し、死んでいく。
「あなたの世話をし、子供を育て、台所に閉じこもって、死んでいくのはいや。よそにおんながいるんでしょ。アタシを抱かないのは、よそにおんながいるからでしょ。」いつもの詰問を、妻はまた始めた。
「ほらごらん。」私は昆虫図鑑の、蓑から半身を出している蓑虫を指さし、
「五十をとうに過ぎ、私の性器はこの蓑虫のように萎えているよ。あなたを抱いても、あなたの性器のまわりを這う、半身を出している蓑虫になるだけだよ。」私は懸命に説明するのだった。

「違うのよ、優しく、ただ抱いて欲しいだけなの。」と妻は言った。
私は妻の肩を抱き、優しく抱き起し、
「さあー行こう、蓑から出よう、散歩に行こう」と誘った。

住宅地をぬけると斎場が在り,斎場から山頂に向かって、満開の桜の広い公園墓地があった。桜の木の下を、手をつないで、私たちはゆっくりゆっくり歩いた。あちこちの木陰から私たちをじっと見つめるものたちもいた。ここは捨て犬のメッカだった。不意に交尾する二匹の犬が木陰から眼前に現れた。犬たちは私たちを睨んでいた。妻は私の腕にしがみつき、私はぎょっとして妻を守りながら、踝をかえした。
「こうして守ってきたんだ」と私は嘘をつき、家路についた。

交尾する二匹の犬の姿が頭から離れない。犬の交わるペニスの赤が、目に焼き付いていた。

「アナタァー」、階下からまたあの声がした。私は階段の上から覗き込んだ。妻は飼い犬を仰向けにし、腹を撫でていた。仰向けのまま飼い犬は尻尾を振っていた。妻はふぐりを掴み、しきりに赤いペニスを出そうとしていた。仰向けの姿勢では、犬はペニスを出すことは出来ない。妻はそれがわからないのだ。すがりつくような目で、大きな目で、どうしてなの、どうして出ないの、妻は私を見上げていた。私が答えないでいると、妻は急に目の色を変え睨みつけた。つり上げた目で、また始めるのだ。
「他所におんながいるんでしょ。白状なさい」
「いないよ 」 私は、大きな声で嘘をついた。



      


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