高松塚さん

高松塚と申します。年齢不詳性別不明の妖精さんをRPしている変人です。

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14/09/18 コンテスト(テーマ):第六十五回 時空モノガタリ文学賞【 守る 】  コメント:0件 高松塚 閲覧数:1018

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 甲高い鶏の声が響き渡る。
 われらが畜産学科のボスの声。耳を澄ませば「やめろよぉ」などと告げる声も聞こえて来る。
 きっと、また「奴」だ。

「マイのことは、ボクが守る」
 格好よく告げた幼なじみは、その数分後に繋がれた犬に吠えられ、全速力で逃げた。
 12年来の腐れ縁である彼が、口ばかりの超ヘタレであることは、そんな昔から知っている。

「何やってんの。山下」
 気性の激しい雌鶏、その名も「ボス」の嘴攻撃から逃げているのは、案の定、山下徹だった。
 ちなみに、なんでそんな凶暴なニワトリを放し飼いにしているか。それが我が畜産学科の伝統だからだ。
 畑で自然飼育されているニワトリは雌雄合わせて六羽。雌鶏が毎日さまざまな場所に産み落とす卵を探し、記録した後で調理やら加工やらする事だって、畜産学科の学生にとっては大切な研究だ。
 かく言う私も、「ボス」の卵を使った卵かけごはんを頂いた事がある。とても味が濃くて美味だった。
 故に、ボスを始めとするニワトリの放し飼いは、この大学では「素晴らしい伝統」なのだと思っている。たとえ少々凶暴であろうと、あんなに美味しい卵を産む事が出来るボスは、畜産学科の宝なのだと。
 そんな感慨にふけっていると、
「助けろよ、木崎!」
 山下徹が、私に駆け寄って来た。ばか。ボスに背中を見せたりしたら……。
「うぎゃぁぁぁ!」
 ほら、背中に乗られた。そして、爪と嘴との二段攻撃。
 ボスに背中を見せたら血を見る事になることぐらい、覚えておけよ。
「ボス、そんなの美味しくないよ」
 私の言葉に、ボスは動きを止める。そして、何事も無かったかのように、背を向けて去って行った。
 そう。実は、私はボスに一目置かれている存在らしい。多分、私の愛情がちゃんと伝わっているのだと思う。
「助かった。あいつ、しつこいよ」
 そう言いながら背中に手をやり、顔をしかめているのが、山下徹。
 私の12年来の腐れ縁は、また、どんなちょっかいをかけたのだろう。想像がつくけれども。
「何だよ、その、人を見下したような目は」
 おや、そう来ましたか。憐れみの目を向けたつもりだったんですけれども。
「どうせまた、ボスの卵を狙ったんでしょ? 懲りないよね」
「それは、木崎が至福の味だとかって……」
「マジで美味しいよ。でも、卵を狙って、ストーカー行為を働くとなると、やっぱり制裁は覚悟しないとねぇ。ヘタレのくせに、何を血迷っているんだか」
 私としては、忠告のつもりだった。
「お前、ほんっとうに、生意気だよな」
 あーあ、言いやがったよ。
「『お前』って呼ぶな。このトリ頭」
 私が、食いつくって知っていてやっているんだ。このヘタレは。
「あーあ。これだから女は面倒くさいんだ」
「『これだから女』とか言うな」

 山下徹は、口先ばかりの臆病者で。だから、ゴキブリ一匹、殺せやしない。
 でも、プライドだけは高いのか、私の事を「お前」と呼び、「女のくせに」という言葉を口にする。面倒くさくてかなわない。
 そんな言葉で武装しなくても、彼は男だ。力では、絶対に私が叶わない事ぐらい、解っている筈なのにね。それなのに山下徹は、わざわざ言葉で揶揄するのだ。
 まあ、12年来の付き合いだから、自分が大人になるしかない事は解っている。所詮、男よりも女の子のほうが先に大人になるものなのだ。
 そう、大人の気持ちで。
「卵を喰ったぐらいで、いい気になるなよ。ぶす」
 無理だった。
 背中は可哀そうだったから、後頭部を、掌ではたく。
「用事がないなら、帰るよ」
「おう」
 私たちが一緒に帰るのは、ただの習慣。「用がないなら、帰るか?」「用事ないの? だったら帰ろう」。くされ縁にはお約束みたいな言葉だった。
 
 車道に出ると山下徹は、いつものように私の左側を歩く。
 これも、実は面倒くさい。左手に持った私の鞄と、右手に持った彼の鞄がぶつかって歩きにくいのだ。
「山下、なんであんたいつも左を歩くの?」
「……え?」
 まさか、意外そうな顔をされるとは思わなくて。
「え?」
 そのまま、返す。
「その反応って、もしかして覚えてない? 俺が……てゆか車道側、平気なわけ?」
 そうだ。左側は、車道側。
「平気じゃないけど……え?」
 思い出した。

 白線が引いてあるだけの、歩道。
 そこを歩いていたら、前から来た車が、ものすごい速度で通り過ぎて行った。
 徹ちゃんがとっさに手を引いてくれたのだけど、それでも左手に持っていた袋を飛ばされた。怖くて怖くて、涙が止まらなくなった。
「泣くなよ。こっち側に来たら大丈夫だろ?」
 徹ちゃんが、車道側に回ってくれる。
「これからは、マイの事はボクが守るよ」


 犬が大の苦手で、ゴキブリも殺せない山下徹は、律儀に守ってくれていたらしい。
 


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