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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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舞い降りてきた阿修羅

14/09/08 コンテスト(テーマ):第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1092

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 いまのあたしをとめることは、神様にだってできはしない。
 武器はといえば伝家の宝刀、どんな相手もあやまたず突き刺す、一撃必殺の楔。
 あたしは上空から、音もたてずに忍びやかに舞いながら、感度抜群のセンサー機能を研ぎ澄ませて、どこかにターゲットはいないものかと、執拗に追いもとめる。
 仕留めるのは、できるだけ、活きのいい、斬ればそこから熱い血潮がビュッと噴き出すような相手―――ああ、考えただけで、全身がエクスタシーにうちふるえちゃう―――。
 相手からつたわるわずかな熱気もけっしてみのがさない。熱だけじゃない、においにもまた、あたしはとびきり敏感なんだから。
 あたしの仲間たちによって、これまで血祭りにあげられた連中は数知れない。
 この地上の、もっとも獰猛な肉食獣が殺傷した人の数よりもまだ、あたしたち一族のほうがずっと上回っているというから、どう、すごいと思わない?
 それもそのはず、この完全無欠な我々の先祖がはじめて地上に姿をあらわしたのは、想像を絶するはるかな昔、あの恐竜が地上をのし歩いていた、ジュラ紀の時代にまでさかのぼるってさ。
 そうよ。恐竜たちはとっくに滅び、他の生き物たちも多くが淘汰されてこの世から退場していくのを尻目に、あたしたち一族はしたたかに生き延び、さらにしぶとく勢いを増して、その純粋な血を絶やすことなく次から次へと引き継いできた。
 あたしたちが暗闇を好むのは、闇のなかの神秘に満ちた静かさにひたっているとそんな、脈々と体内に息づきつづける誇り高きDNAのつま弾くメロディーに、恍惚と耳を傾けられるからにほかならない。
―――そのときだった、あたしのセンサーに、あの得もいわれぬ香りが、ねっとりとまつわりついてきたのは。
 とっさにあたしは意識をこらすと、ひたひたと、まだかすかだがしかしたしかに伝わってくる、獲物が発散する熱気にも、注意をこらした。
 いっせいに、あたしの全神経がはげしくおののき波うった。
 まちがいなく標的は、この下にいる。
 あたしは確信して身をひるがえすと、獲物のいるあたりに見当をつけて降下をはじめた。
 あたしのなかから、いっさいの雑念がそぎおとされてゆく。アドレナリンがこんこんと脳のなかにみちみちてゆくのがありありとわかった。
 だが、真正面からの攻撃は、避けるのが賢明というものだ。
 あの残忍凶暴なサメでそえ、獲物とまともに顔をつきあわせたら、ひるんでためらうというじゃない。
 あたしは、じれったいほどゆっくりと、ターゲットの背後に慎重にちかづいていった。確実に仕留めるには、なにより根気と辛抱が必要よ。必殺の楔を打ち込んだときのあの快感と、その後につづくゾクゾクする愉悦をおもえばこそ、気の遠くなるような辛抱にも耐えられるというものだ。
 だけど、いたずらに時間をくいつぶすのは得策ではない。
 ある程度の妥協はやっぱり必要だ。定規で線を引くように、先を予測することなどだれだってできはしないのだから。
 脇目もふらず、つっぱしってこそ、開ける道もあるというもの。
 あたしは決心した。決めたこのときこそ、絶好の瞬間だ。
 いちど大きく息をして、胸いっぱい空気を吸い込むと、あとはまっしぐら急降下をはじめた。
 ヒューンとうなる心地よい風音に肌をさらしながら、あたしはひとり、標的むかってまっしぐらに突き進んだ。
 じぶんでさえ、臨戦態勢にはいったいまのあたしの、まるで阿修羅のような鬼気迫る姿を思うと、なんだか怖いぐらいだ。
 もしも第三者がこのときのあたしの姿を目の当たりにするようなことがあったらきっと、一生のあいだその気迫みなぎる映像は、心に深く刻みこまれていることにちがいない。
 すでに標的は、眼前にまでせまった。
 あたしはここでいったん速度をゆるめると、垂直に離着陸する飛行機さながら、相手に気づかれることなくそのうえに、静かに、静かに、舞い降りていった。。



 パチン。
「お母ちゃん、蚊、ころしたで。あーあ、こんなにいっぱい血すわれてるわ。お母ちゃんがはよ、蚊取り線香だせへんからや」
「こっちかて忙しいんや。香取ぐらい、あんたじぶんで出しいや」
「そんなことゆうて、うちがデング熱にかかったら、どうすんねん」
「あんたは心配いらん。ウィルスのほうが逃げてゆくわ」
「ほんまに、ようゆうわ」
 娘は、ぷりぷりしながら、まだてのひらにくっついている蚊に、視線を落とした。
 するととたんに、叩き潰したとばかりおもっていたのが、いきなり羽をひろげて宙にとびあがった。
「まだ生きとった。なんちゅうしぶといやつや。あっ、お母ちゃんのほうへいったで」
「えー、どこや、どこや」
 母と娘はそれから、一匹の蚊を追いかけて、どたどたと家のなかを走りまわった。



 





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このストーリーに関するコメント

14/09/08 夏日 純希

バンパイアか何かかと思いきや、あいつらでしたか。
落差が秀逸な作品でした。
察しが悪い僕は、最後の段落まであいつらと断定できていなかったので、
最後まで読んでいて楽しかったです。

14/09/08 W・アーム・スープレックス

夏日純希さん、コメントありがとうございます。

なるべく正体はわからないよう書きましたので、最後まで断定できなかったといわると、大変うれしいです。
このテーマをしったとき、いまもっとも世間をにぎわせている話題が頭に浮かびました。パンパイヤ―――ある意味、そのとおりですよね。

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