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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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言葉は嘘ばかり

14/09/02 コンテスト(テーマ):第六十五回 時空モノガタリ文学賞【 守る 】  コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:1051

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「優貴君、負けちゃダメだよ。僕はいつも君の味方だよ」黒部正輝が目を見つめながら言った。
優貴は目に涙を浮かべながら頷いて、小さく微笑んだ。
秋の日没はもうそこまで来ていて、ブルーな1日がやっと終わることに優貴は安堵した。
「イジメる奴らは可哀想な人間だと思って、逆に心の中で笑ってやりなよ。アイツらは仲間でつるんでいないと何もできない幼稚な人間なんだ。僕はじっとイジメに耐えている優貴君の方が、よほど心の強い人間だと思うよ」
校庭に設置してある自販機で買ったコーラを握り潰し、黒部は空き缶を「アイツら僕が許さないぞ!」と叫んで、空き缶カゴに叩き入れた。昨日から自販機の半分はHOTに入れ替わっていた。
「黒部君って、本当にいい人だよね。親身になって困っている人の相談にのってあげたり、人の嫌がることを自分から率先してやるし、学級委員長を任されているのも頷ける。それに比べて俺なんか、イジメの標的になって毎日メソメソしてるし、同じ16歳とは思えない。羨ましい」
「なに言ってんだよ。僕なんて不出来な人間さ。不出来だからこそ人の3倍、勉強や人生を努力しなくちゃいけないだけさ」
「黒部君、あのさ……」
「なんだい?」
「ありがとう」
「んん?」
「黒部君が同じクラスにいるだけで、毎日イジメられてても不登校にならないんだ」
「僕は、優貴君をアイツらから守ってみせる」
涙がこみ上げるのを必死に堪えて、優貴は黒部に別れを告げて新宿第一高校から人混みを縫うように新宿南口改札に向かって歩いた。ゲームセンターの前を通り過ぎた時、中から同じクラスの峯山知美が現れた。
「あっ、山本君じゃん」
「どうも……」優貴が会釈をして過ぎ去ろうとすると、知美が笑顔で肩を叩いた。
「お金持ってる?」
「少しなら」
「マック奢ってよ。チーズバーガーとポテトが食べたいの」
財布を取り出し中を確認すると「じゃあ、チーズバーガーとポテトだけ奢ってあげる」と言った。
駅前のマックで知美の分のチーズバーガーとポテトそれにコーラを2杯注文し、それを持って2階に上がると、知美と向かい合うようにテーブルに座った。
知美はよほどお腹が空いているのか、大口でチーズバーガーとポテトを口につめこんだ。
咀嚼しながら知美が言った。「黒部と仲良くするの止めた方がいいよ」
「えっ?」
「私、アイツと同じ中学だったんだけど、中学の時の黒部って、弱いクラスメイトをイジメてばかりいたんだから」
「嘘だ!」
「本当だよ。アイツ、私が知っているだけでも4人はクラスメイトを不登校にしたからね」
優貴はコーラに突き刺さっているストローの飲み口を瞬きをせず無言で見つめた。先ほどまで自分を励ましてくれていた黒部の顔に、偽善的な面影は見えなかった。しかし知美の顔も嘘を言っている風でもなく、だからこそ優貴は動揺した。
「アイツ、高校に入学してから変わった。すごい優しい人になった。何でだと思う?」
「優しさに目覚めたのかもしれないよ」
「まさか……」知美は微笑んだ。
「じゃあ、なぜなの?」
「アイツの親父、都議会議員をやってるの。それでね、アイツが高校に入学する少し前に教育委員会に関わる委員になったのよ。まさか親父が教育委員会に関わる仕事をしているのに、子供がクラスメイトをイジメていたらスキャンダルになっちゃうでしょう。中学とは真逆の人間になったから、黒部がキモチ悪いのよね私」
知美と別れて家に着くと、制服のままベッドに仰向けに寝そべって黒部のことを考えた。黒部がイジメる奴らから自分を守ってくれると言った言葉が、頭から消えなかった。そうこう考えているうちに、睡魔が襲ってきて、瞼の重みに耐えられなくなった。

翌日、授業後の休憩時間の度に、イジメグループから消しゴムのカスを投げつけられたり、座っている椅子を蹴られたりした。放課後、いつものように黒部と校庭に設置してある自販機の前で向かい合った。
「ほんと、アイツら調子に乗ってるよな。なんで弱い優貴君をイジメたりするんだよ。許せないよ」と、黒部が言い終わるのを遮って、優貴は言った。
「黒部君って、中学時代どんな生徒だったの?」
「今と同じ。僕って成長してないな」そう笑顔で言った。
「人をイジメた経験とかある?」
「ある訳ないよ。僕は弱い者をイジメたりなんかしないさ。強い者には歯向うけどね」
「どうして教室では俺に話しかけてくれないの? 俺のことイジメる奴らから守ってくれるんじゃないの? そう昨日言ったよね……」
「ごめん、今日ちょっと早く家に帰らなきゃいけないんだ」腕時計に目をやった後、背中を向けて去って行こうとした。優貴は制服のポケットに入れておいたカミソリで黒部の首を切りつけた。
血吹雪を上げながら黒部が校庭に倒れた。
「守ってくれるって言ったよね」優貴は泣きながら呟いた。


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このストーリーに関するコメント

14/09/08 クナリ

一人称で書かれているだけに、主人公の視点の外に何が存在しているのか、見てみたくなりますね。
果たして、知美嬢から聞いた黒部君の話は事実なのか。
黒部君には、ほかの誰も知らない事情や秘密があったのではないか。
学校や親など、ほかの選択肢を与えてくれる存在は関わってくれないのか…。
そうした全ての可能性を、一切途絶させてしまうラストの行為。
裁かれるべきは、誰なのでしょう…。

14/09/08 ポテトチップス

クナリ様へ

コメントありがとうございます。
いつの時代も、作中の登場人物である黒部正輝のような優等生が学校には必ずいますよね。
黒部は同級生達から「いい人」と口ぐちに言われます。

私は自分の学生時代を振り返ってみると、黒部のような『いい人』と呼ばれている同級生を、疑って接してきました。
30歳を過ぎた今でも、人から「いい人」と呼ばれている人をみると、疑ってしまいます。

私個人の意見ですが、お金に困らず・食事に困らず・友人に困らなければ、人は誰でも『いい人』にたやすくなれると思っています。



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