1. トップページ
  2. 閻魔大王に捧げる詩

鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
座右の銘 Do what you enjoy, enjoy what you do.

投稿済みの作品

3

閻魔大王に捧げる詩

14/09/01 コンテスト(テーマ):第六十四回 時空モノガタリ文学賞【 詩人 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:2235

この作品を評価する

 彼は誰時の雷雨で
 冷涼な渓流は真っ黒に

 そんな朝
 夫への
 息子への
 そして屍となった娘への
 私の腐敗した――愛を投げ捨てて

 逃げよう!
 詩人と名乗る男と

 山間で小さな温泉宿を営んでいた父が他界した。宿を引き継ぐため都会から戻ってきた幸吉、遺品整理をしていて、この母の置き手紙を見付けた。

 幸吉が三歳の時だった。母はこう書き残して逃奔した。
 なぜ?

 母が失踪した理由、幸吉は父に辛い思いをさせるのが嫌で訊いたことがない。また父も自ら口にしたことがなかった。そのため今も不明だし、この詩のような文章を読んでも理解できない。
 それにしても、屍となった娘とは…、俺には妹がいたのだろうか?
 そう言えば、赤子の泣き声を微かに憶えてる。
 謎はこうして深まり、幸吉は役場へと出向いた。そして戸籍に目を通し、判明した。
 母は夕月と言い、幸吉が四歳の時に離婚。妹は幸子、だが不幸にも一歳になる前に没。
 そして幸吉は目を疑った。それは二歳の時、〇歳の幸子と共にこの家に養子縁組されていたのだ。
 正直ショック、しかし、どこから?
 幸吉は一文字ずつ確認した。だが縁組み前の情報は何一つとしてない。その代わりに、二文字の漢字だけが目に飛び込んできた、不明と。
 結果、父母は他人だと知った。
 されども父は一所懸命育ててくれた。そしてこの宿まで残してくれた。父への感謝の気持ちは変わらない。
 しかし、俺は一体どこから来たのか?
 そしてなぜ妹は亡くなったのだろうか?
 その上、母は父と俺を捨て、なぜ逃げたのか? しかも詩人と。
 こんな疑問が幸吉の頭を巡り、眠れぬ夜を送ることになった。

 それでも幸吉は生きて行かなければならない。元々こんな山深い温泉宿を訪ねて来る者はそういない。だが幸吉は思い出した、父は奇妙奇天烈なプランを組んでいたと。それは一編の詩を綴った客には滞在費を半額にするというものだった。幸吉は少年時代その真意を尋ねてみたことがある。その時父は、地獄の閻魔大王への御機嫌伺いだよ、と笑っていた。
 幸吉は今もってその意味がわからない。だが、とりあえずそのプランを踏襲してみた。すると半額に魅せられてなのか、詩を壁に飾るだけで客は次第に増え、繁盛し始めた。
 こうなれば町に残してきた愛花と結婚したい。
 そんなある日のことだった、愛花が母と一緒に泊まりに来ることになった。もちろん最高のおもてなしをしなければならない。幸吉は胸を高鳴らせてその日を待った。

「この山峡の地に、ようこそ」
 幸吉が歓迎の言葉で迎えると、目の前で愛花の母が宿帳に名を記した、〈夕月〉と。
「えっ?!」 卒倒するかと思うほど身の震えを覚えた幸吉、ここはなんとか心を落ち着かせ、夕食後部屋を訪ねた。
「お母さんですよね。過去のこと、恨んでいませんから、すべて聞かせてください」
 こう切り出した幸吉に、年老いた夕月は「お前には辛い思いをさせてしまったね」と頭を下げ、ポツリポツリと語り始めたのだった。

 幸吉と妹の幸子は、きっと閻魔さんが現世へと差し戻したのだろうね。川が増水した日に、二人は泥濘んだ川岸に捨てられてたのだよ。私は不憫でね、お父さんに頼んで、身元不明のままで養子にした。だけどまだ子育ての経験がなかったから、幸子を死なせてしまったわ。このままじゃ、お前も不幸になるのじゃないかと不安になってね、そんな時にお父さんが教えてくれたの、地獄の閻魔さんの御機嫌を取れば良いと。
 それは今の暮らしに対し、この世で最も不幸な詩を書き、それを閻魔大王に捧げ、後は実行する。そうすれば大王は喜び、それ以降の不幸には目を瞑ってくれる。これで幸子の死以上の不幸は起こらず、幸吉はすくすく育ってくれる、ってね。だから、その時一番不幸な、妻と宿泊客詩人との逃避行を決行したのだよ。
 だけど奇妙な縁だね、詩人との間に娘が出来て、その恋人が幸吉だとは…。

 この語りで幸吉は、母は俺のために逃げたのか、と謎が解けた。しかし、気持ちは複雑だ。そんな幸吉に夕月が、愛花を幸せにしてやってね、と手を握り締めてきた。

 渓谷の夜はなかなか明けない。それでも朝となり、幸吉は空気の入れ換えのため窓を開ける。明け方に一降りあったのだろう、目の前に真っ黒な川が見える。その瞬間、悪い予感が脳裏を過ぎる。
 すぐに玄関へと。するとスリッパの上に一枚のメモが置かれてあった。いつの間にか愛花が涙を流し、幸吉のそばに。
 幸吉は愛する婚約者を力強く抱き寄せて、目を落とすと、そこには閻魔大王に捧げる詩があった。

 彼は誰時の雷雨で
 冷涼な渓流は真っ黒に

 そんな朝
 愛花の花嫁姿
 それを見る夢に――幕を引き

 身を投じよう
 そして旅立とう!

 ずっと地獄を彷徨ってる……元夫のもとへ


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/09/01 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、拝読しました。

鄙びた宿の不思議なお話。

もしかしたら、夕月さんは誰かを幸せにするために自分は不幸な道を選んで
生きていくのでしょうか?

残された幸吉と愛花が幸せになることを願います。

14/09/02 草愛やし美

鮎風游様、拝読しました。

ひなびた宿の家族には、人知れずの秘密があった。夕月さんは、家族の幸せのために自己犠牲をして、閻魔の喜ぶ不幸を捧げているのだとすれば、あまりにも悲しいと思いました。このご両親は、何も悪いことなどしていないのに……、誰かの犠牲のもとに誰かが幸せを得ると思うと切ないですね。

14/09/03 そらの珊瑚

鮎風 遊さん、拝読しました。

すべては子供のためだったのですね。
何もかも犠牲にしたお母さんだったと思いますが、
娘さんを授かったことだけでも幸せだったと思ってあげたいです。

14/09/14 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。

夕月の自己犠牲、こんな女性がどこかにいるのではと思いました。

14/09/14 鮎風 遊

草藍さん

コメントありがとうございます。

何も悪いことなどしていないのに、
それでも不幸はあるもので、閻魔大王の戯れのようで。

気を付けたいものです。

14/09/14 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

コメントありがとうございます。

そうですね、生が引き継がれて行く。
不幸ですが、娘を授かって良かったと思います。

ログイン