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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
座右の銘 Do what you enjoy, enjoy what you do.

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漢字一文字の旅 連載33

14/08/29 コンテスト(テーマ):第三十八回 【 自由投稿スペース 】 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:1331

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 旅はなにも距離を彷徨(さまよ)うものではない。
 脳の中でも歩ける。

 旅は道連れ、世は情け。 
 皆さまからの熱い情けを受けて、連載10で煩悩の数108漢字を終えました。
 そして、連載11より再スタートさせてもらいました。
 これからも御一緒に、果てることがない旅が続けられたら嬉しいです。 

 この〈自由投稿スペース〉で、お付き合いのほどをよろしくお願いします。

 また、本エッセイは平凡社出版、著・白川静先生の「常用字解」、並びに著・白川静先生/津崎幸博先生の「人名字解」から、漢字解釈について引用させてもらってます。



連載33 水 乱 凛 中 猫 吉

33−(1) 【水】

 【水】は流れている水、真ん中は大きな流れであり、左右に小さな流れの象形だとか。
 確かに、これに異論を挟めない。

 【水】、我々はそれがなければ生きていけない。
 そんな【水】だが、美味しい水、不味い水がある。
 そして1985年、環境庁は日本の名水百選を選んだ。
 筆者の近場では、京都伏見の御香水。軟水で伏見の酒となる。

 ならば日本で一番美味しい水はどこの水だろうか?
 1879年生まれの鳥井信治郎、1906年(明治39年)に寿屋洋酒店から赤玉ポートワインを発売した。
 しかし、どうしても本格的な国産ウィスキーを生産したい。
 そこで大事なのが水。
 美味しい水を求めて日本全国を行脚した。そして京都の山崎、かって秀吉と光秀が戦った大山崎の決戦の地に辿り着いた。

 そこにあったのは水無瀬川の水。
 竹林に覆われた水源から流れ出る水、それはウィスキーに最適であり、工場を建設した。
 それから苦労の末、1929年(昭和4年)にサントリーウイスキー白札(サントリーホワイト)と赤札」(サントリーレッド)を発売したのだ。

 そう言えば、学生の頃、下宿で仲間が集まり、よくサントリーレッドを頂いたものだ。
 あれは結局、秀吉と光秀の決戦の地の美味しい【水】が熟成され、酔っ払う液体に変化したものだったのかと妙な気分になる。

 【水】という漢字、流れの象形だが、そこには時の流れも含まれているのかも知れない。


33−(2) 【乱】

 【乱】、元の字は漢字第二水準、JIS:502Cの「亂」。難しい漢字だ。
 右部は骨べら。これを使って、左部の糸のみだれをほぐそうとしている形だそうな。

 そんな【乱】、秩序や国が乱れることであり、乱心、騒乱、反乱などの多くの熟語を作る。
 反対に言えば、この世はそれだけ【乱】が多いということになる。

 そして最近の【乱】は――鍋の乱。
 この言葉を耳にした時、多くの人は、それって何? と首を傾げたことだろう。

 某牛丼チェーンの○×家、激戦を勝ち抜くため新鍋メニュー「牛すき鍋定食」を発売開始した。
 しかし、店内を一人で切り盛りするワンオペで、客へのサーブをしなければならない。
 とにかく手間が掛かる牛すき鍋定食、注文が重なったりすると、従業員一人では処理仕切れない。
 挙げ句の果てに、客からは文句の言われ放し。
 これで従業員はぶち切れたのだろう、【乱】、つまり大量離職して行った。
 この【乱】により、立て直しの新人の採用もままならず、多くの店が閉店に追い込まれたとか。
 これが「鍋の乱」だ。

 乱れてしまった牛丼屋の秩序、時給は1500円まで高騰したが、未だ【乱】は終息に向かってないようだ。

 ――治に居て【乱】を忘れず――
 こんなことわざもあるが、骨べらで糸のみだれをほぐす形の【乱】、そんなのへらで上手くほぐせるわけがない。
 最初から糸がみだれないようにするか、みだれてしまえば、後は快刀【乱】麻ってことになるのだろうなあ。


33−(3) 【凛】

 【凛】、左部の部首は「にすい」と呼ばれ、「氷」を表す。また右部は「倉」の意味で集めるということらしい。
 ここから【凛】は一カ所に集めて引き締めること、また大変寒いことだとか。
 そこから【凛】は身を引き締める意味にもなる。

 言い換えれば、【凛】はかたくな。そのためか、【凛】は他の漢字とは一緒にならず、作る熟語は「勇気凜々」だけと言っても言い過ぎではない。
 されど、この勇気凜々、昭和31年頃日本中の少年たちが口ずさんでいたのだ。

 それはラジオ放送された「少年探偵団」、江戸川乱歩の作品の怪人二十面相、四十面相、明智探偵、小林少年たちの物語だ。
 主題曲は壇上文雄氏が作詞した。

  ♪ ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団
    勇気りんりん 瑠璃の色
    望みに燃える歌声は
    朝焼け雲にこだまする
    ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団 ♪

 団塊の世代以上の人たちは今でもみんな口ずさめるだろう。
 なぜなら、この勇気凜々のメロディーがしっかり脳に刻まれてるからだ。
 そして、「勇気りんりん 瑠璃の色」とくれば、条件反射し、元気が出てくるから不思議なものだ。

 そう、シニア世代にとっての【凛】、懐かしく、決して忘れられない漢字なのだ。


33−(4) 【中】

 【中】、旗竿の形だとか。
 ならばなぜ真ん中の意味になるのか?
 かって軍は左軍、中軍、右軍で構成されていて、中軍の将は元帥として全軍を統率していた。
 【中】、この形の旗が中軍の旗だったそうな。

 ホツホー、これで長年の疑問、「口」に棒「|」を貫かせて、なぜ真ん中の意味になるのかが解けた。
 中軍の旗ね、なるほどと呟くしかない。

 そんな【中】、使い方は多くあるが、現代では「真ん中」、「十人並み」、「内側」のおよそ三つの意味となる。
 そして【中】が繰り返されれば、「中中」。いわゆる――かなりの様の「なかなか」だ。
 「なかなかのやっちゃ」、「なかなかタクシーつかまらへん」とか……、日常会話の中で滅茶苦茶使ってる。

 しかし、この「中中」、平安時代にも多用されていたようだ。
 源氏物語の若紫に、「髪の美しげにそがれたる末(すゑ)も、なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかな」とある。
 意味は、尼君さまの髪が綺麗に切られてる先も、長いのより今風で、なかなかよろしいね、ってことかな。
 どうも一千年前も、何でも「なかなか」だったようだ。

 しかし、ここで疑問が。
 真ん中の意味の【中】を繰り返した「中中」が、なぜ大したものだの意味になったのだろうか?
 調べてみたが、答えは見つからなかった。
 されども想像するに、【中】は「十人並み」の意味がある。
 これを「中中」と重ねて、「十人並み十人並み」と繰り返し、格上げされて、大したものだになった……のかな?

 ということで、【中】という漢字、繰り返せば、【中中】大した言葉になるのだ。


33−(5) 【猫】

 【猫】、けもの偏に「苗」。
 「苗」は(びょう、みょう)と音読みし、(なえ)と訓読みする。
 【猫】はどうも鳴き声が(みょう)に近いことから成り立った漢字のようだ。

 中国では猫の鳴き声は喵喵(miao miao)だとか。
 そして英語で猫は(mew)、(meow)と鳴く。
 なんとなくわかるような気がする。

 ならば犬は?
 中国では 汪汪(wang wang)。
 英語では(bowwow)。
 日本ではワンワン、英語とはちょっと違うかな?

 さて、夏目漱石は小説「吾輩は猫である」で書き出した。
 吾輩は猫である。名前はまだ無い。
 どこで生れたか頓(とん)と見當がつかぬ。
 何でも薄暗いじめじめした所でニヤーニヤー泣いて居た事丈は記憶して居る。
 吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。
 ……

 さて、このような小説を書くくらいだから、夏目漱石はさぞかし猫好きだったのだろうと想像するが、ところがどっこい、どうも犬好きだったとか。
 事実、ヘクトーと言う名の犬を飼っていたそうな。

 ならば小説の猫は?
 捨て猫だ。
 その猫、追い出しても追い出しても家に入ってくる。ついに根負けし飼ってしまった。
 だがこの猫、とんでもないヤンチャ坊主だった。家の中を駆け回り、爪で物だけでなく、人までひっかく。漱石は頭に来て、モノサシで猫を叩いてやろうと、よく追っ掛け回していたとか。

 しかし、猫は病を患い、明治41年9月13日の夜に死亡した。
 漱石は小説のモデルにしたこともあり、人間並みに扱ってやろうと思ったのか、友人4人に死亡通知を送った。

 辱知猫儀久々病気の処、療養不相叶、昨夜いつの間にか、裏の物置のヘッツイの上にて逝去致候。
 埋葬の儀は車屋をたのみ、みかん箱に入れて裏の庭先にて執行仕候。
 但し、主人「三四郎」執筆中につき、ご会葬には及び不申候。
以上九月十四日。

 しかし、これだけでは終わらなかった。
 この死亡通知を受けた松根東洋城は高浜虚子に電報で、「センセイノネコガシニタルサムサカナ」と知らせた。
 これに虚子は返電する。
 「ワガハイノカイミヨウモナキススキカナ」(吾輩の戒名も無き薄(すすき)かな)と。

 また鈴木三重吉からは「猫の墓に手向けし水の氷りけり」と返信があった。
 さらに寺田寅彦からは句が寄せられた。
 「蚯蚓(みみず)鳴くや冷たき石の枕元」
 「土や寒きもぐらに夢や騒がしき」
 「驚くな顔にかかるは萩の露」

 ということで、吾輩の死亡は大層なことに、というか、仲間内で随分と盛り上がったようだ。
 ただ、妻の鏡子だけは悲しみ、その後猫の月命日に鮭の切り身と鰹節飯を必ずお供えしたそうな。

 ことほど左様に、【猫】、人間の世界と切っても切れない漢字なのだ。


33−(6) 【吉】

 【吉】、「士」と「口」の組み合わせ。
 「士」は邪悪なものを追い払う鉞(まさかり)、また「口」は神への祈りの祝詞を入れる器の形だとか。
 これにより神への祈りの効果を守ることを示し、これを【吉】というらしい。
 そしてこの鉞により願いは実現し、人々は幸せとなる。まさに【吉】だ。

 しかし、ここでやっかいなことが。
 「士」と「口」が組み合わさった 「 士
                   口 」
 これは「さむらいよし」と呼ばれてる。

 だが戦前までは行書が多く、下が長い「土」(つち)と「口」が組み合わされて
 「 土
   口 」
 これを「つちよし」と呼ぶ。

 そう言えば、友達に吉田君がいた。
 彼の「よし」は下が長い「つちよし」だった。

 そして馴染み深い牛丼屋は下が長い―― 「 土
                      口 」 野屋 なのだ。

 言い換えれば、「告」の左肩の「ノ」を取った漢字。
 しかし、この 「 土
          口 」、パソコンで簡単に変換できないのだ。

 ならば、どうすればよいのだろうか?
 「吉 下が長い」、これで検索すれば、その方法が山ほどヒットする。
 だけど、読んでもわからない。

 ということで、今使う【吉】という字は「土」(つち)の「つちよし」に拘らず、邪悪なものを追い払う鉞(まさかり)の「士」、「さむらいよし」で、しっかり【吉】(ラッキー)を授かりましょう。




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このストーリーに関するコメント

14/08/30 夏日 純希

拝読いたしました。以前から、タイトルをみて、
どういうものだろうと興味はあったのですが、
連載ということで途中から読んでもわからないかなと敬遠していました。

途中からでも全然いけますね^^;

猫の話が個人的には一番楽しかったです。
歌の返信があったりする関係とかいいですね。
現代ではなかなか……、いや、変人扱いされるのみでしょうか。

あと、サントリーの工場が近かったのに
周辺知識は全然なかったので、ほうほうと思いました。
真実は定かではありませんが、
あの工場ができたせいで、水が足りなくなって
府営水道から水をひくから水道代が
すごく高くなったと近隣の誰かが言ってました。

漢字一文字からでも、話が広がって、おもしろいですね。

14/08/30 そらの珊瑚

鮎風 遊さん、拝読しました。

「勇気りんりん」アンパンマンのうたでもあるのですが、
もしかしたらやなせたかしさんは「少年探偵団」のファンでもあったのかなあと思いました。
いつもながら読んだあとに、ちょっとだけ頭が良くなったような気が
あくまで気ですが、します♪

14/08/31 草愛やし美

鮎風游様、拝読しました。

水に出てくる御香宮は、結婚するまで実家では氏神様でした。小学校から、写生大会に行って入賞。描いた絵が境内に張り出されていたこと、今でも嬉しく思い出します。あの頃は、名水のことは全く知りませんでした、実家の近くには、酒蔵屋さんがあちこちあり、家にも井戸がありましたが、名水を飲んでいたのだと灌漑深い想いになります。

快刀乱麻というTVドラマを昔見てました、懐かしいなあ。主演は若林豪でした。

勇気りんりん、あったあった。歌いましたねえ、懐かしい。

文人は猫一匹の死も違うんですねえ、凄い話にびっくりしました。へ〜ほぉ〜〜そうにやんだぁ〜〜。

吉と土口、ほんまや、変換できない。( ̄ェ ̄;) エッ? 牛丼屋さんは土なんだあ、さむらいのほうが恰好いいと思うけどなあ。○き家と違って、○野家さんは、土だから、バイトを培っておいてセーフだったのかもですね。

しみじみ考えさせられる内容で、勉強になりました。面白かったです。

14/09/01 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、拝読しました。

猫の話が凄く面白かった!

夏目漱石、高浜虚子、鈴木三重吉などの明治を代表する文化人にも猫の死が話題になって
ある意味、人間や文学に一番影響を与えた偉大な猫かも知れませんね。

私は漱石の「文鳥」も好きです。

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