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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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盆にぎわい

14/08/25 コンテスト(テーマ):第六十三回 時空モノガタリ文学賞【 告白 】 コメント:10件 そらの珊瑚 閲覧数:1319

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 細い山道を上る。右手の沼の水面はさざなみひとつなく、どんより濁っている。地元では底なし沼だと怖がられていたが底はあった。左手には竹林が続き、路に覆いかぶさるようにして風が吹くたびさやさやと笑う。
 奇伝ファンタジーの作家、古御堂(こみどう)先生が住む家としてはいかにも相応しい環境だと、ここへ先生の原稿を取りにくるたびに思った。夜に通れば魑魅魍魎に会いそうじゃないか……何より先生はいわくつきの話が大好物なのだ。こちらの世界とあちらの世界に境界線があるとして、ここはそれがゆるりと溶け合っている。そんな気がする。
 古御堂先生の本はベストセラーとはいかないものの固定ファンがいるため出せばそこそこ売れる。我が弱小出版社とすれば数少ない稼ぎ頭だ。作品のイメージを壊したくないという本人の希望でプライベートは明らかにされていないが、かなりの男前だ。そのせいか出版社の間では先生の担当になった女性編集者のほとんどが深い仲だという噂があった。
 けれどそれが単なる噂だと私は知っている。十年間先生の家に通っているのに、残念かな、先生に指一本触れられたことはない。先生は、幼馴染だったという奥様の事だけを愛しているのだ。
「小学校からの帰り道にね、この人と道草してたらなぜか道に迷ってしまったことがあるの。あっという間に夜になってしまって……満月の夜だったわ。道に目印のように光るものが落ちてて、それをたどっていったら家に着いたの」
 奥様が昔話をしてくれた事を想い出す。そのエピソードを基にした小説「神隠し」で先生は世に出た。
「そのひとつを拾って私今でもお守りのように持っているのよ。ほら……」
 見たところ、それは鱗に似ていた。魚のものにしては大きい。
「もしかしたら蛇の鱗かもしれませんね。白いから白蛇?」奥様は眉をひそめた。
「浅井さんはやっぱり わかる派だなぁ。僕はその時まさに白蛇を見たんだよ」
 先生に言わせると人間は【わかる派】と【わからない派】に分かれるという。もちろんわかる派である先生に言わせるなら、わからない派の人は幽霊などの類を見ることがない分、むやみに怖がるのだという。家の壁のシミが人の顔に見えたりするのは、そうした心理から来る錯覚だと。
「そういう人が僕の小説を読んでくれるんだから有難い人たちっていう事だけど」
 そう言って三人で冷えた西瓜を食べたのが昨日の事のように思い出された。

 玄関チャイムを押す。奥様からの応答はなかったが勝手に上がらせてもらう。
「おう、そろそろ来る頃じゃないかと思ってたよ」
 先生の身体から懐かしい煙草の匂いが漂ってくる。辛気臭い線香の匂いなんかより数倍マシってもんだ。
「先生、私死んでるんですよ」
 勇気を出して告白した。
「知ってるよ。なんせ、わかる派だから」
 生きている時となんら変わりない応対に拍子抜けする。もうちょっと驚いてくれても良さそうなのに。
「それにしても悪かったな。僕が予定通り原稿を書き終えてれば夜にならないうちに君は帰れていたのに。だからあの晩泊まっていけって言ったんだ」
 夜道、街灯もない暗い山道で、私は足を踏み外し沼へ落ち水死した。あの時いただいた原稿はどうなったんだろうか? それが心配で新盆に真っ先にここへ来たのだ。
「大丈夫さ。紙の原稿はおしゃかになったけど、話は頭に入っていたから又書いたさ」
 ああ、良かった!
「すみません。余計なお世話かもしれませんが、これを機にパソコンを導入されたらいかがですか?」
「僕が機械音痴って知ってンだろ。万年筆じゃなきゃ書けないっていう小説家が一人くらいいたっていいさ。それよりどうやってここへ帰ってこれたの? 聞かせてくれ」
「小説のネタにするつもりですね、先生」
「バレたか」
「高くつきますよ」
「幽霊に金が必要なのか?」
「いいえ、お金なんかじゃなくて、私を主人公にして小説を書いていただきたいのです」
「お安いご用だよ」
 既に私の両親は他界していて、結婚もせず子なしで何も生み出さなかった女にとって、私がこの世に確かにいたという証が欲しかった。
 奥様といえば書斎から時折もれてくる先生の笑い声を不審に思いながら、またいつもの独り言だろうと放っておいてくれている。いつの間にか庭の隅に白蛇がいた。
「やあ、久しぶり」と先生は笑った。
 笑うと先生の目尻に三本のしわが出る。ひよこの足跡みたいなそんなたわいのないものも、好き、全部が好きだった。横恋慕を告白したい、と生きているうちは何度思った事か。幽霊になったら不思議とそういう気持ちが失せていく。これが成仏という事なのだろうか?。
 縁側にはキュウリで作った馬とナスの牛がたくさん置かれている。先生の奥様の手作りだそうだ。とすれば客(たぶん横恋慕仲間)はこれからまだ増えるに違いない。
 
 


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このストーリーに関するコメント

14/08/25 そらの珊瑚

画像は「かわいいフリーイラスト集 いらすとや」さんからお借りしました。

14/08/25 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

なるほど、これはお盆向けのお話ですね。
一応、ホラーかも知れないけれど・・・なんか、ほのぼのしちゃって、ぜんぜん怖くない。
案外、幽霊って飄々としてるのかも知れないね。

なぜか、この古御堂先生と京極夏彦のイメージがダブってみえたのは私だけ?

14/08/25 suggino

ひじょうにおもしろかったです。こういうの、大好きです。
わたしも京極先生を彷彿しました笑
神隠し、のエピソードのくだりもすてきでした。

14/08/25 草愛やし美

そらの珊瑚様、拝読しました。

明るいお盆ですねえ、この小説家さん、奥様がよくできていらっしゃること。たいしたものです、わかる派から聞いたお話で人気を得ているのでしょう。白蛇さんもおられることですし。
名前というか自分がこの世にいた事実を残したいという気持ちわかります。きっと、素敵なお話に出来上がることでしょう、楽しみですね。こんな幽霊さんなら、怖くない……かも。わからない派の私は、とても怖いです。汗

14/08/27 夏日 純希

幽霊なのに、ほのぼのする話ですね。
恋愛感情の成仏ってなんか面白い発想だなぁと思いました。

あと、全然関係ないのですが、僕の地域(僕の家?)には、
きゅうりとナスの風習がないので、何のレトリックだろうと
すごい考え込んでしまいました(笑) 興味深い風習ですね。

あ、ちなみに、僕もわからない派ですね。怖や、怖や。

14/08/28 鮎風 遊

そうですか、新盆で戻ってきましたか。
なにかワクワクしましたよ。
結果、横恋慕同志の喧嘩が勃発したりして、とこの先を想像しました。

14/08/30 黒糖ロール

ほんわかした雰囲気、よかったです。
あの世からの告白は、ロマンチックですね。

14/08/30 そらの珊瑚

>泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
はい、怖くないホラーをめざしてみました♪
なんと、大作家さまの御名前ですか? おそれおおくもちょっと嬉しいです。

>sugginoさん、ありがとうございます。
sugginoさんもですか? 実はあんまり京極先生の本は読んでおらず…
これを機に読んでみようかなあ。
神隠し、実は書いてみたいテーマのひとつでして、注目してくださって感謝します。

>草藍さん、ありがとうございます。
私もまったくのわからない派でして。
でも怖がりなくせに幽霊とかちょっと興味あったりして。
奥様はちょっと天然というか、幽霊とか信じないタイプかなあ。

>夏日 純希さん、ありがとうございます。
ほのぼのホラーってなんかいいですよね。
恋愛感情の成仏、なんか自然に出てきた言葉でしたが、注目してくださって嬉しいです。
調べて頂いて恐縮です。精霊馬とかいうそうですけど、そういったものの慣習がない地域のことは考えてませんでした。注をつけるべきでしたね。
考えたら私の祖父母の田舎ではありますが、実家ではやってませんし、若い人は知らない人の方が多そうです。

>鮎風 遊さん、ありがとうございます。
広島の風習で、お盆にはお墓に盆灯篭を供えるところが多く、
いつもはさみしげな墓所もちょっと賑やかになっています。

>黒糖ロールさん、ありがとうございます。
この先(先があるかどうかわかりませんが)彼女が先生に思いを告げることが出来るかどうか……。
そういう感情をこえたものがもしかしたらふたりをつないでいるのかも
とも思ったりします。




14/08/31 ナポレオン

拝読いたしました。
先生の人柄がとても素敵です。
幽霊や白蛇に好かれるなんて先生自身も普通の人じゃないような気がします。

14/09/03 そらの珊瑚

ナポレオンさん、ありがとうございます。

なんというか、いろんなものに対して垣根を作らないというか、
もともと垣根なんかないというか、先生はそんな人かもしれません。
普通じゃないものたちに好かれるって、やっぱり普通じゃないですね。

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