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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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ふかんきょり

14/08/21 コンテスト(テーマ):第六十三回 時空モノガタリ文学賞【 告白 】 コメント:13件 草愛やし美 閲覧数:1692

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「小夜、少しいいかな、話があるんだ……」
 父の様子が明らかにいつもと違う、緊張したその面持ちから、今から何が話されるのか察しがついた。私は冷めた表情を悟られまいと視線を落とした。避けたいだろう話を、どうして父はわざわざ告白しようとしているのか、母に話したので終わりにすればよい、あなたに義務などないのに。むしろ私は育ててもらった恩を感謝しなければいけない身。
「高校の入学手続きで戸籍見たんだってなあ、母さんから聞いた。すまない、隠すつもりはなかった。ずっと、実の父親として生きていければいいと思っていたんだ。これが、父さんの本心だ」
 本心と言う父の声がうわずっているのを感じる。目を瞑っているから、聴覚が余計冴えたのかもしれない。何もこんなことを感じ取らなくてもよいものを、嫌な私。父を苛めているような気がしてくる。父が必死で説明しようとしている姿が耐えられなくて、口を挟んだ。
「どうってことないよ。わざわざ告白してくれなくっても私は大丈夫だから、父さん」
{ずっと前から知っていた。それから、この家で私は私のままでいられなくなった。でもその方がこの家はうまくいくの} 心の呟きを噛み殺し、引き攣る顔に無理やり笑顔を装う。取り繕わなければ、家を飛び出してしまいそうな衝動が怖い。 {あのことは、忘れなければ、何度も繰り返し考え決めたこと……。父は違っても、何も知らない弟まで巻き込み傷つけることになってはいけない。高校を出たら遠方へ就職しよう、そうすれば、この家を出ることができる、それまでの辛抱だ} 言葉が頭の中でリフレインする。
 気取られないように、他人から見れば滑稽なほどの努力をしてきた。小学五年の時、祖父母の家に泊まりにいき話を聴いてしまった。夜遅く階下のトイレに立った私の耳に入った祖母と叔母のひそひそ話、聴くつもりなどなかったのに。
「馬鹿ねえ兄さんそんなこと言ったの」
「かってに気回して馬鹿な子だよ。あれこれ気に病んだってどうだっていうの、息子ながら情けないよ」
「確か、兄さんは結婚させてくれって言った時、小夜ちゃんを幸せにしたいから加世さんと結婚決めたって言ったんじゃなかった?」
「そうなんだよ、だのにさ、洋輔も男ってことかねえ困った子だよ。何の相談かって思ったら、娘が女に見えて困ると言われても、親にどうしろって言うんだい、そんな馬鹿話あたし聞きたくなかったよ」
「娘だから生理があるのは当然わかっていたはずでしょう、だのに……。おお、嫌だ、兄とは思いたくないわ」
「今時の子は成長が早いからねえ、洋輔も娘が女になることはわかってるはずだと思うけどさ、心の準備がまだだっただけに違いないよ」
「でも、初潮で赤飯とか祝い事したんじゃないの?」
「やったそうだけどさ。あの嫁が悪いんだよ、だいたい、生理のパンツを見える処に干すなんて。洋輔は悪くない、あの子は真面目な性格だから、気になってしまっただけだと思うよ。娘をどうこうしようなんてこれっぽっちも思ってないはず……。ただ戸惑ってしまっただけさ」
「ほんとにわかってるのかなあ、怪しいもんよ。兄さんったら、血は繋がってないとはいえ娘だよ。娘の初潮のパンツ見たくらいでドギマギしたことを親に相談すること自体、情けないわよ」
「ほんとに、こんなことなら、再婚の子持ち女と結婚なんかさせるんじゃなかったよ」
「今更、遅いわよ、お母さん」

 叔母は独身で、祖父母の家で暮らしていた。毎年夏休みになると、父に連れられ私達姉弟は、実家に泊りがけで遊びに来ていた。都心から離れた実家には、自然が多く野山で遊べるのはとても楽しみだった。でも、私にとっては、この日で楽しみは終わった。それまで考えたこともなかった嫁姑、小姑の関係を嫌というほど考えさせられた。血縁とはそれほど大事なものなのだろうか? 生まれてきた自分自身を憎むことが情けなく悲しかった。誰にも話せず疑問の日々を過ごすようになり、仲の良かった弟とも、自然に距離を置くようになった。

 告白から三年経ち、ようやく私はこの家から解放される、見送りも断り逃げるように玄関を出た私は、就職先に向かう列車に乗り込んだ。会社へ出かける父から今朝、渡された厚みのある封筒が気になる。今更、何なのだろう。座席に着き無造作に開けると、中からコロリと転がり出たのは革ケースに入った印鑑だった。「小夜」と掘られた印鑑に通帳も添えられている──私があの家にやってきた年に作られた通帳の日付を見つめた。メモ書きに『小夜、困ったことがあった時は、このお金を使いなさい。女性は結婚すれば、苗字が変わるので名前だけの判を作ったよ。いつでも家に帰ってきていいから、待っています……』
 あとは滲んで読めなくなった。

 あれから十五年、結婚し苗字は変わったけれど、今も私はこの印鑑を大切に使っている。


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このストーリーに関するコメント

14/08/22 泡沫恋歌

草藍 様、拝読しました。

こういう話はたぶん世の中にはよくあると思います。
血が繋がらないと、やはり子どもが大人になってから義理の人とは距離を置くように
なってきますよね。

女の子は将来、嫁にいったら苗字も変わりますし、そういう意味でのリセットが利きます。

主人公は結婚して自分の居場所が見つかったと思います。
いろいろ考えさせられるお話でした。丁寧に書かれていると感心しました。

14/08/22 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

血はつながっていなくとも家族といえばそうだろうけど
やはり血というものは大きな意味があるのかなとも思います。

ましてや思春期に渦中にいれば、そのことを悩むのは無理ないけど
時間が経てばタイトルにあるように、俯瞰して考えられるようになって
良かったと感じました。

14/08/23 夏日 純希

女性ならではのリアルさがありました。
僕には書けないなぁ・・・と思いながら読ませていただきました。
どうやったらこういう物語を紡げるもんなんでしょうか・・・。

14/08/23 かめかめ

俯瞰で不堪なのでしょうか。
苗字の変わった主人公はきっと、今は心おきなく実家に戻れているのでしょうね。

14/08/24 黒糖ロール

なかなかデリケートなお話で、少し驚きました。
淡々とした文章でしたが、中身が濃かったです。

14/08/24 滝沢朱音

草藍さん、こんにちは。
久しぶりに時空にログインして、最近の作品を一気読みさせていただきましたが、
バラエティにあふれた作品のそれぞれの違いに、あらためてびっくりさせられました。。。

名前だけの印鑑。親心。

小夜さんの父…義父の、人間としてvs男としての葛藤。
子どもの頃は理解できず嫌悪の対象でも、時が経ち、あらためてわかることがあるのでしょうね。

14/08/24 光石七

拝読しました。
実の親子ではないことを告白するのは私も考えたのですが、話が膨らまず……
細かい事情・心情をきっちり描かれ感動を与える作品に仕上げられた草藍さんを尊敬します。
きっと今ではいい親子関係を築かれ、たまにはお孫さんの顔を見せに帰っているんだろうなと想像しました。

14/08/24 鮎風 遊

印鑑か、なるほど、捺すたびに思い出しますよね。

それにしても、こうなったのも縁、
だけどこうして少し距離を置いて、父を想い、
新しい家族で暮らして行くのが正解かも知れませんね。

苦労があった分、幸せになれば良いですね。
いや小夜はなるでしょう、気遣いがいいですから。

14/08/25 くまちゃん

14/08/25 くまちゃん

初心忘るべからず、男ってしょうがないなぁと思いますが
通帳といい印鑑といい最後まで父親を演じてくれたのですね。
心の葛藤は有ったでしょうが 父親も彼女も相手を思う気持ちを
大切にしているようで最後にホッと致しました。

14/08/26 草愛やし美

>泡沫恋歌様、お読みいただき感謝しています。

時代が進み、一見、血縁の強さは薄れていっているようにも思えますが、まだまだ根強いものがあるようです。先日、タイで代理出産のニュースが騒がれましたが、里子よりも、代理でも血縁の子を望むということでしょう。
神の授かりもの、等しく同じ命とはなかなか思えないのか、難しいようですね。コメント励みになります、ありがとうございました。

>そらの珊瑚様、お立ち寄りくださり嬉しいです。コメントありがとうございます。
家族になればなんとかなるものかもと思うのですが、現実に何かに躓いてしまってということがあるようです。時々、子供への虐待報道のなかで、連れ子に暴行したというニュースを聞くことがあり、悲しくなります。難しいものとは思いますが、どうしてと憤りを覚えます。
タイトルは「父間距離」として、「ふかんきょり」と呼んでいただこうかとはじめに考えて書いていたのですが、「俯瞰」の意味合いや、彼女の真意に気づかない「不感」など、いくつかの意味合いも交じっている内容かと思い、ひらがな書きにしました。

>夏日純希様、いつもお読みいただきコメント書いてくださって感謝しています。
リアル感は実際に小耳に挟んだことから起こした話だからかもしれません。父親の感情は女である私にはイマイチわかりませんが、母親としての自分も戸惑うことはありました。実の息子でさえ、年齢と共に触れてはいけない部分が出てくることは経験しています。大汗 

>かめかめ様、ああ、その不堪もありましたね。「俯瞰」「不感」「父間(当て字ですが)」などと、いろいろ考えていただこうと、ひらがなに。──というより、どの漢字を当てはめようかと悩んだ末の冒険です。苦笑 コメント嬉しいです、ありがとうございました。

>黒糖ロール様、お読みいただき励みになります。コメント嬉しく読ませていただきました、ありがとうございます。
告白というテーマをいただいた時、実子でないことへの告白が初めに頭に浮かび何とか形にしたいと悩みました。

>滝沢朱音様、いつもお読みいただき感謝しています。
毎回テーマに悩まされます。案外、容易に書けそうなものの方が、難しかったりします。告白もその一つでした、ああ、何を書けばいいのかと、なかなか出てこない脳みそを叱咤激励して、何とか捻り出しています。書き終わると、ホッとします。ああ、まだ何か書くことができるのだと、自分に言い聞かせています。いつまで書き続けられるかと思いますが、戴きましたコメントを励みに頑張りたいです。コメントをありがとうございました。

>光石七様、お読みくださりコメントをいただき嬉しいです、ありがとうございます。

告白=実子でなかったこと、私も真っ先にそちらを思いました。なかなか形にならずに苦労しました。
毎回、テーマに七転八倒しています。思ったよりも「告白」は難しかったです。恋の告白はかなり大昔のこと、もはや忘却のかなたでしたので……。苦笑 汗 
親子って戸籍だけではない繋がりがありますから、時間や経験など、いいほうに働けばと願っています。

>鮎風游様、いつもお立ち寄り嬉しいです。コメント励みになります、これからも創作頑張りたいです。ありがとうございます。

小夜は悩んだことでしょうが、その分、大人になっても頑張れる女性になったと信じています。

>くまちゃん、いつもお時間作ってこちらまでお立ち寄りいただき感謝しています。コメント嬉しいです、ありがとうございます。

親子ですから、お互いが悩んだぶん、強くなっているはず……、きっとよい親子関係を築いていることと思います。

14/09/07 ドーナツ

拝読しました。

生みの親より育ての親とはいっても、やはり、血がつながってないと知ると、菅家がぎくしゃくするということも多々あるでしょうね。


でも女性は結婚して家を出て新しい人生をスタートできるので、過去のもやもや切り捨てて 幸せを築いていってほしいです。

14/09/07 ドーナツ

ごめんなさい、タイプミスです。

菅家   ではなく  「関係」でした。ごめんね(ペコリ^^

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