1. トップページ
  2. 蝉時雨

リアルコバさん

拙い文章ですがアメブロにて書くことにより個人的に楽しんでおります 

性別 男性
将来の夢 音楽や書物を趣味に小さな飲食店をやりたい
座右の銘 石の上にも3年

投稿済みの作品

2

蝉時雨

14/08/20 コンテスト(テーマ):第六十三回 時空モノガタリ文学賞【 告白 】 コメント:1件 リアルコバ 閲覧数:1066

この作品を評価する

 盆休みに珍しく故郷に戻ったのは、ご先祖様への義理立てでも何でもない。親兄弟に頭を下げた借金はびた一文返済出来ず、この町に来るにはあまりにも敷居が高い。それでもやって来る理由はあった。

《元気?今年も戻らないの?もし来るんだったら逢いたいな、ちょっと体調崩して入院してます》
メールの主は男女の垣根を取っ払った幼馴染みの親友である。
《どうした 夏バテか?鬼の撹乱ってやつか笑 帰る予定は今のところない》

 彼女に会ったのは三年前だったろうか。にっちもさっちもいかなくなった資金繰りの為とうとう友達にまで頭を下げに行った。
『バッカじゃないの、さっさと潰しちゃいなよ。別に殺される訳じゃ無いでしょ』
後始末後の食い扶持くらいはその時貸してくれると、落ちぶれた社長としての俺に引導を渡したのも彼女だ。

《そう 残念ね、お互い歳だからあなたも気を付けて》
小2の時転校してきてからだからもう40年以上の付き合いになる。確かに歳を取ったもんだ。

 初恋の女であった。男には困らぬ美貌の持ち主には何度か告白して何度もフラれた。互いに結婚して子供を育ていい時も悪い時も事あれば相談できたのは、やはり恋愛対象ではなく友人としての相性だったのだろう。

《此方は逆さに振っても血も出ない事を知ってんだろうが》
こんな皮肉を笑って返せるのも今となっては彼女だけだろう。
《それでも生きてるんだからゴキブリ並みよね笑でも出来たら逢いたいな》
珍しく繰り返された《逢いたい》の言葉は何となく悪い予感を作り出し、なけなしの金をオンボロ車に注ぎ込み記憶も薄れた道を病院に向かったわけだ。


「よう」
ベットを起こした姿勢で微笑む彼女は痩せこけて、ひと目で尋常じゃないと判った。
「元気?」
お陰で大きな目は一層大きく見えた。
「なんだ夏バテにしては仰々しいな」
特別室なのだろうか 立派な個室である。
「いやんなっちゃうね もう2ヶ月よ」
元々細い腕に刺された点滴が痛々しかった。
「店は?」
二度目の結婚をした後、ネイルやまつげエクステ、リラグゼーションの事業が成功していた。
「チーフに任せてるから」
窓から見下ろす故郷は夏の光に溢れ、生き生きと輝いて見えた。
「奥さんや娘さんは?」
気持ちばかりの切り花を大振りの花束のある花瓶に無理に押し込んだ。
「元気らしい。会っちゃ居ないがな」
娘の名前を彫ったと云うタトゥーが萎んでいた。
「しかし元レディースの頭がこんな立派な病室とはな」
彼女は壁に目を移し遠い記憶を楽しむように微笑んだ。
「やめてよ そんな時代を知ってるのはもう俊だけよ」
暫く昔話を淡々と交わした。

「良かったよ。思ったより元気そうで」
精一杯の言葉は皮肉にしか聞こえないだろうか。
「ありがとね。逢えて良かった」
なんて美しい病人なのだろうか、本当にそう思った。
「またな」
「うんまた」

 敷居の高い実家には寄らずになんとなく小学校を見に行った。夏休みの午後、あの頃なら野球少年の俺達が毎日声を上げていたグラウンドは閑散として、名物の垂れ桜のたわわな緑から蝉時雨が降り注ぐ。

《七海》
携帯電話のバイブと同時にその名前は表示された。
《今日はありがとね嬉しかった。俊が居たから今までやってこれたと思う。本当だよ。最初に好きだって言ってくれた時嬉しかったな。でも世界が違うって思ってたからね。離婚するときも来てくれたよね、『したきゃすればいいじゃん』って、『コブ付きでも貰ってやる』って、若かったね。何度も一緒に泊まったのに一度もエッチしなかったね、そんな俊が一番好きだったかもしれない・・・》

 ジージーと鳴り止まぬ蝉時雨に携帯の文字が霞む。少しずつスクロールした。

《今日でサヨナラでいいよ。俊にお別れされたくないから。香典だって大変なんでしょ。もうお金貸せないからね》

(あぁ順番が違うじゃねぇか、彼奴の絶頂期はこれからじゃないのか、死にたいのは俺なんだぞ)

《私ね、俊が初恋だった。愛してたよ付き合った男はみんな。前の旦那も今の旦那も。そして俊はいつも親友で居てくれた。東京で逢った直前に告知されたんだ。転移しなけりゃ大丈夫だけどって、でもダメだった。だからあの時エッチしても良かったのに笑》

(たまには美味しいもん食べようって、リッチなホテルで奢ってくれたっけ。今でも私の事抱ける? そんな冗談に付き合えるほどの精神状態を持ち合わせて無かったんだよ、あん時は)

《ありがとね 花一番綺麗だよ》

(生きてればなんとかなるよ、互いにそう言って来たじゃないか)

瞼の中で七海の顔が歪んだ。
その時、夕暮れのツクツクホウシが一斉に鳴き止んだ。



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/08/24 光石七

拝読しました。
お互い好意を持ちつつも友人のまま、こういう関係も素敵ですね。当人たちには切なさがあるでしょうが。
ラストの一文で彼女の身になにが起きたか連想でき、胸が痛みます。
会話やメールは現代的でからっとしてるのに、情緒的で余韻がありました。

ログイン