リアルコバさん

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初恋

14/08/17 コンテスト(テーマ):第六十三回 時空モノガタリ文学賞【 告白 】 コメント:1件 リアルコバ 閲覧数:1185

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『私もよ・・・でもね・・・今はダメなの』
夏休みの終わり頃、緑色の公衆電話の受話器から七海の優しいその囁きは、はっきりと聞こえた。でもそれは漆黒の闇の中に流れる静かな風のように消えていった。
『そうだよな・・・ゴメン忘れてくれ』
消えかかって点滅する蛍光灯の電話ボックスの中に羽虫が舞っている。折りたたみのドアを足で押さえたまま僕は、闇に浮かぶ星屑を仰ぎ見たが感情は頬を伝った。
昭和56年夏、僕たちは高校最後の夏を我武者羅に謳歌しようとしていた。


8月に入ってすぐ、部活を引退した僕らは海に行った。バスケ漬けの毎日で遊ぶ暇などなく、高校生になってから初めての海だったと思う。就職する者、受験する者、高倉とマネージャーの成田は卒業したら直ぐに結婚すると云う。それぞれが大人になる将来を真剣に考えていた時代、僕は余りにも漠然とした未来しか思い浮かばなかった。

海の家がぼちぼち店仕舞をする頃、爆音とともに暴走族の一団が駐車場を占拠し始めた。
『あれ、佐伯らじゃん』
日章旗を取り付けたバイクから降りた同級生の後部シートから、髪の長い女が降りてきた。
『七海・・・』
『ヨシムラじゃん、金掛けてんなぁ』
それは仲間たちの大声とバイクの音でかき消されたと思う。皆が改造バイクと爆音を喜々として楽しんでいた時だ。
『よう』
近づいて手を上げた。1年ぶりに会う彼女は一瞥をくれて僕を無視した。



七海・・・彼女は小学2年の時転校してきた。都会から転校してきた分、田舎町には居ない垢抜けた少女だった。家が近所だったので一緒に学校に行ったり遊んだりもした。
思春期を迎えた頃から自然に男女は一緒に行動しなくなり、ろくに挨拶もしないまま中学2年で彼女はまた転校したはずだ。
その後一度会ったのは去年の夏のことだった。

『俊二君よね・・・大きくなって・・・わかる?』
部活の帰り道、町中のバス停に止った赤い車の窓から声を掛けてきたのは七海の母親だった。
『バスケしてるんだ。いい男になったわね。それに比べて七海ったら・・・』
中学3年の頃からグレ始めてどうしようもないようなことを言っていた。
『そうだ、時間ある?今から家に来て俊二君からも注意してやってよ。私の言うことなんか聞きゃしないんだから』

彼女の部屋はシンナーの匂いが充満してて僕は直ぐに窓を開けた。
『俊・・・何しに来たんだよ帰れよ、見るなよ、いいから帰れよ』
怒気を含んだ充血した目で、追い出されるように部屋を出た。埃と荷物で二度と蓋があかないであろうピアノが悲しく見えた。あのショートヘアーで聡明な七海と此処にいる現実の七海が同じ人物とは到底思えなかった。
『ごめんね、いつもあぁなの、困っちゃう。でもたまに逢ってあげてよ、ね』
娘が不良化していく不幸と、昔と変わらぬ美貌と笑顔を持ち続けるこの母親になんだか違和感を感じていた。


その日以来だった。一層ハクのついた彼女が佐伯の彼女として僕の前に現れた。皆が改造バイクに夢中になり爆音に酔いしれる中、僕は彼女の背中が気になって仕方なかった。
これは嫉妬なのか、幼馴染を心配する虚栄なのか、とにかく七海が僕の頭にこびり付いてしまったのは確かだった。

それから3週間、僕は何も手につかなかった。夏休みが終わろうとする夜のこと、僕は七海が好きだという結論に辿り付いたがどうしたら良いか見当もつかない。恋愛には疎かった。
3日間苦しんで、近所の酒屋の自販機でワンカップを買って、噎せながら飲み干し、吸い始めたタバコを何本も踏み潰し、幾つかの電話ボックスをやり過ごしてやっと、やっと電話ボックスの受話器を上げてダイヤルを押すことが出来た。

『ちょっと待ってね』
母親が出て、居ないと思っていた七海は家に居たようだ。
『・・・どうしたの?』
去年の夏とこの夏の海の七海とは思えないほど、それは昔のままの優しい声だった。
『俺さ、お前のことが好きなんだわ』
気の利いたセリフなど出なかった。しばらく間を置いてから
『・・・私もよ・・・でも今は佐伯と付き合ってるからダメなの・・・』
そんなことは分っていたし、佐伯とどんな付き合いをしてるかも想像は出来たし、それでも七海が好きだったんだ。
『そうだよな・・・ゴメン忘れてくれ・・・』

ゴツンと重い受話器をもどして眺めた空がやたら綺麗だった。僕の吐いた幼すぎる言葉を(私もよ)って受け流した彼女が、とても遠い大人に思えた。
カチカチと蛍光灯は点滅しその周りを飛んでいる小さな羽虫、きっと僕はそんな羽虫みたいな存在だったのかもしれない。

その後から僕は遅ればせながら受験勉強を始めた。なるべく遠くの大学へ行こう。そこで一人暮らしをしよう。そして大人になったら・・・大人になったらもう一度・・・七海に逢いたいと・・・。


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このストーリーに関するコメント

14/08/24 光石七

拝読しました。
『蝉時雨』の前のお話ですね。読む順番が逆でした(苦笑)
こういう過去があって、あちらにつながっていたのですね。

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