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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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怪物ポエティー

14/08/13 コンテスト(テーマ):第六十四回 時空モノガタリ文学賞【 詩人 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2017

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 和夫が居間のソファでうとうとしていると、突然、
「おどーちゃん、だれか、きやがったでー」
 娘の声におこされた。
「どこのくそったれや」
「しらんわ、そんなもん。おのれの目でみやがれ」
 和夫は、娘の頭を優しくなでてから、玄関にでた。
「きたぞ」
 絵描き仲間の遠山だった。
「おまえか、あがれ」
「あがったるぞ」
 和夫は遠山を、廊下のつきあたりにあるアトリエにあげた。遠山はきょう、和夫の新作の絵をみにくる約束をしていたのだ。
「遠山か、ようきたの」
 冷たい飲み物をもってきた妻の洋子が、つづけて、
「おまえも、かいとるのか?」
 遠山は、スマホをとりだし、
「これをみくされ」
 最近完成した絵を画面上に映し出しだした。
「まあ、なんて、すてき………」
 いってから、ハッとして彼女は口もとをおさえた。和夫も遠山も一様に、ぎくりと目をみはった。
 たちまち庭のほうで、小枝の折れる音がきこえ、なにかの吠えるぶきみな叫び声がきこえた。
「ポエティーだ!」
 身の丈二メートル、全身、七色に光る毛におおわれた生き物が、部屋に侵入してきた。
 ポエティーは、洋子のそばまで迫ってくると、恐怖に金縛りにあった彼女の両肩をおさえつけるなり、蝉のような先細りの口を彼女の口の中にこじいれた。そしてつるつるとなにかをすいこみはじめた。
 この間に、彼女が不覚にも口をすべらせた、「まあ、なんてすてき」のフレーズは、きれいに吸い取られてしまっていた。
 これまでかれらが終始、聞くに堪えないような言葉ばかりつかっていたのも、すべてはこのポエティーに言葉を奪われまいがためだった。うっかりちょっとでも流麗な言葉を口にしたら最後、いつでも、どこからでも出現するポエティに吸収され、二度とふたたびおなじ言葉を口にできなくなってしまうのだった。
 怪物ポエティーがこの世に出現したのがいつかは、だれにもわからなかった。しかし、人々の言葉が日に日に荒む傾向にあるところから、かなり以前からこの地上を徘徊していたことはまちがいなさそうだった。
 目的をたっした怪物が、虚脱状態の洋子をその場にのこして満足げに立ち去っていったあとに、
「おどーちゃん、あたい、おがーちゃんの敵とりたい」
 娘の富久が涙をながしてくやしがった。
  和夫は、怪物のために、小さい娘までが汚い言葉づかいを余儀なくされるのには、我慢ならなかった。警察は、声という無形のものが相手だけに、怪物に対してはいっさいノータッチだった。自分たちでなんとか退治することはできないものかと、おなじ気持を抱く芸術家仲間を家によびよせ、、ポエテイー撃退計画を練ることにした。
 美人でしられた写真家のトモヨが、パネルにはった数十枚のフォトをみんなにみせた。
「これが人間に襲いかかるポエティの写真じゃ。ようみくされ。ほれ、水中にもぐるカバみたいに、どれも耳をとじとるだろ。わしが思うに、あの毛むくじゃら野郎はもしてかして、汚い言葉に免疫がないんとちがうじゃろうか」
 それなら怪物に、汚い言葉をむりやりきかせてみようということになり、さっそくトモヨが庭にでて、怪物をおびきよせるために、声にだしていった。
「庭には、朝露を抱いて咲く草花がひろがり、虫たちの澄んだ声に、その露のひとつが草の端からぽたりと落ちて………」
 まってましたとばかり、背後から荒々しい息づかいがせまってきた。
「あらわれやがった、ばけもんが」
 父親に肩車された富久が、それっと突進してきて、ポエティーのあたまにとびうつるなり、その耳たぶをむりやりこじあけると、口をおしつけて、それこそありとある悪口雑言、罵詈雑言をこれでもかとがなりつづけた。
 とたんにポエティは、苦痛のうめき声をあげて、その場をのたうちまわった。
 トモヨの推測どおり怪物は、汚い言葉にたいしては、まったく抵抗力をもちあわせていない模様だった。
 それでもまだしばらくは闇雲に暴れていたが、きゅうにその場にばったり倒れた。七色に光る毛はみるまにくすみ、庭の土の色と同化して、やがてなにもかも見えなくなってしまった。
「おどーちゃん、やった、やった」
「くたばりやがったか」
 富久と和夫は抱きあってよろこんだ。
 
 怪物ポエティーが死んだのかどうかはだれにもわからなかったが、そもそもあれがなんだったのかは、もっとわからなかった。それでも人々は、これでだれはばかることなくきれいな言葉がつかえると、一様に胸をなでおろした。
 が、ポエティーが存在した結構長い期間、つかいつづけてきた口汚い言葉づかいは、そうかんたんには抜けなかった。
「おがーちゃん、飯くわせ」
「せかすな、このがきが」
 それはそれで、まんざらでもないなと、福久の一家は、いつしかおもうようになっていた。
 
 






 
 


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このストーリーに関するコメント

14/08/18 クナリ

な、なんと迷惑なー。
驚きの冒頭から、登場人物の機転で転調し、上手く展開して終わるお話ですね。
汚い言葉づかいを強いられていたこれまでとは、まったく違った気持で汚い言葉を使える(?)わけですね。
仲の良い家族や仲間はこれまで以上に打ち解けられそうですが、きれいな言葉も使い分けられる程度には練習した方がいいかも?(^^;)

14/08/18 W・アーム・スープレックス

まさかこの作品に評価点をいただけるとは思ってもいなかっただけに、それもクナリさんからとあって、書いた私がおどろいています。
"汚い言葉"は案外、使い方がむずかしいものだと思いました。きれいな言葉ばかり吸収していた怪物にとってはやっぱり、ウィークポイントとなるのでしょうね。

14/09/07 かめかめ

これはこれで^^味わい深いかと思われます

14/09/07 W・アーム・スープレックス

人にむかってはいえないけれど、作品上でだと、平気でいえるというのが、創作の摩訶不思議な一面かもしれませんね、かめかめさん。

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