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坂井Kさん

今年(2014年)は思い付きと勢いだけで書いてきましたが、来年(2015年)は、状況設定をもう少し固めてから書こうかな、と思っています。スティーヴン・キングによると、「状況設定をシッカリとすれば、プロットは無用の長物」らしいですから。

性別 男性
将来の夢 夢というより目標として、来年(2015年)こそ長編小説を書き上げたい。
座右の銘 明日はきっと、いい日になる。

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僕には詩なんて作れない

14/08/11 コンテスト(テーマ):第六十四回 時空モノガタリ文学賞【 詩人 】 コメント:2件 坂井K 閲覧数:1340

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 僕は決して詩人ではない。上手い詩なんて作れない。けれど無理して作ってみるよ。貴女に感謝を伝えるために。

 僕には詩なんて作れない。誰かに勇気を与える詩など。だけど貴女に貰った勇気を、伝えることなら出来るかも。――貴女に出逢えていなければ、恐らく僕は死んでいた。貴女は言うかも知れないね。「私は何にもしてないよ。特別なことなんて、何にも」それが僕には特別だった。普通に接してくれたってだけで。

 貴女はきっと言うだろう。「ロボットだから当然よ」違うよ全然、当然じゃない。確かに新品のロボットならば、身体は大人であったとしても、心は純真そのものだろう。けれど貴女は中古のロボット。色んな人の下に行き、色んな思いを溜め込んでいた。当時の貴女の雇用主は、暴力を振るうクソ野郎。

 元々綺麗な貴女の肌を、鋭い刃物で傷付けて、ニヤニヤしていたクソ野郎。右側の顔は美しいのに、左側の顔はボロボロで、内部の機械が覗いていたね。それなのに、貴女は笑顔を絶やさなかった。ロボットだって心は痛む――そのはずなのに貴女は笑顔。僕は貴女の笑顔を貰い、生きる勇気を得られたんだよ。

 僕には詩なんて作れない。誰かを感動させる詩なんて。だけど自分の感動を、表すことなら出来るかも。――ロボットは、雇用主には逆らえない。理不尽に思う命令にも、従わなければならない身。とは言え多くのロボットは、理不尽過ぎる命令を下されたなら、機能を止める。あるいは逃げ出し、戻らない。

 けれど貴女は逃げ出さず、暴力行為を受けていた。それも笑顔を絶やさずに。「ロボットは、痛みを感じないからね」貴女は言ったけど、それは嘘。身体の傷は痛まなくても、心の傷は痛んでいたはず。「なぜなの? 何で逃げないの? なぜなの? 何で笑えるの?」あるとき僕は聞いたよね。

 そのとき貴女は笑顔で言った。「私はね、信じているの。人間を。だから笑顔でいられるの」ロボットは、決して記憶を忘れない。外から操作をされない限り。貴女は最初の雇用主に、凄く大切にされていた。実の娘と同じほど。「人間の本質は、優しさよ。今のボスにも、きっとある」僕は貴女の心に触れて、涙を流して、恋をした。

 僕には詩なんて作れない。綺麗な貴女を表す詩だって。綺麗だ。素敵だ。美しい。あなたの美しさは、こんな言葉の羅列では到底無理だ、表せない。けれど、無理やり表そう。――あなたはずっと信じていた。ボスが優しさを思い出す、その日をずっと待っていた。いつ来るか分からないのに、待っていた。

 あのクソ野郎も不幸な奴で、騙されて借金を背負って四苦八苦。だけど、だけれど、だからって、貴女の顔をズタズタに切り裂く行為は許せない。表面的な傷だけは、確かに元に戻るだろう。けれども心に残った傷は、決して元には戻らない。心の底に沈殿し、いつかは溢れてしまうだろう。僕は貴女に言ったよね。「そのとき貴女がどうなるか、想像すると怖いんだ」

「私に限ってそんなこと、起きるわけない、信じてよ」貴女は僕の手に触れて、軽く笑って頬にキス。「傷付いたロボットからのキスなんて、嫌でしょうけど、許してね」いつもより悲しげに見えた貴女の目。ロボットは、涙を出さないものだけど、きっと貴女は泣いていた。美しい笑顔を見せて、泣いていた。

 僕には詩なんて作れない。誰もが笑顔になれる詩でさえ。僕はお笑い芸人だ。端くれだけど、プロなんだ。人を笑わすことならば、素人よりは自信がある。だけど得意は表情や動作で笑わす芸だから、言葉を使って笑わせることは得意じゃないんだよ。それでも僕は頑張って、貴女の前では頑張って、一生懸命話したよ。

 貴女はいつも笑顔を見せてくれていたけど、心の底から笑ってはいなかったよね。分かっている。だけどそれでも良かったよ。貴女が笑ってさえいれば。僕は、貴女の心の底に溜まった澱を掬い出す柄杓でありたかったんだ。掬える澱が少しでも、掬い続けていたならば、溢れることはないだろう。

 ――そう思っていたけど、甘かった。貴女の心に溜まった澱は、容量を超え溢れ出し、自らの存在自体を消去した。これまでの記憶だけでなく、身体自体を破壊した。二度と修復出来なくなるまで。恐らくそれが、初めてのロボットによる自殺だろう。僕は貴女の破片を集め、唇を噛んで上向いた。

 バカヤロウ。何で逃げなかったんだ。僕やクソ野郎のような汚い心の人間よりも、遥かに綺麗な心を持ったロボットだったよ。貴女はさ。詩とも呼べないようなこの詩で、伝えたいのは、ただ一つ。「感謝の言葉」それだけだ。ありがとう。貴女のようなロボットが、この世に存在してくれて。

 僕は決して詩人ではない。上手い詩なんて作れない。けれど無理して作ってみたよ。貴女に感謝を伝えるために。ただそれだけのために。


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このストーリーに関するコメント

14/08/12 クナリ

人間の感性ある限り、そこにはドラマが生まれるのですね。
ロボットと人間、その心…普遍的なテーマですね。
ロボットの自殺、というものをどう解釈してどう描くか、書き手の数だけ答があるような気がします。
人間の行動や意志も電気信号のパターンなわけで、現代でも人間機械論がいまだに破綻しない世の中ですが、主人公なりの答が、鮮烈に描かれた作品ですね。

14/08/12 坂井K

コメントありがとうございます。

良くも悪くも人間は「ぶれるもの」で、ロボットは「ぶれないもの」だと思います。だからこそ、補い合って新しい社会を形作って行けるのではないか、私はそう思っているのです。

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