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ナポレオンさん

まだまだ未熟者ですがコメントもらえると嬉しいです。 忙しくてなかなか投稿できませんでしたが半年ぶりに復活してみました。 しかし、皆さんレベルが高いです^_^;

性別 男性
将来の夢 本とか出せたらいいなー
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70億の白い部屋

14/08/10 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:6件 ナポレオン 閲覧数:1269

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気が付くと男は真っ白な部屋に立っていた。

白い床に白い壁、白い天井。電灯のような物は見当たらないが、部屋全体が眩しいほどに真っ白だった。そしてなぜか部屋の中央を横切るように白い骨組みのベルトコンベアが二本あった。
男が後ろを振り返ると、壁の一部が白い扉になっていた。男はこの扉からこの部屋に入ったようだ。しかし、男にはこの部屋に入る前の記憶が何一つなかった。何一つ、自分の名前さえも思い出せずにいた。

突然、ベルトコンベアが動き出した。そして、何か肌色の皺のある棒状のものが流れてきた。男はベルトコンベアに近づき、流れてきたものを見てぞっとした。指だった。人差し指なのか中指なのかは分からないが人間の指である。そして、もう一方のラインには小さな爪が流れていた。

――ピンポンパンポーン。
部屋に無機質なチャイムが流れ、電子音のアナウンスが男にこう告げた。
「市民No.2478999009、仕事を開始して下さい。アナタに与えられた業務はそのヒトサシユビにヒトサシユビノツメを取り付けることです。期間は30日間、それでは宜しくお願いします」
ヒトサシユビ。これのことか、と男は流れている指を手に取った。感触は本物の人間の指そのものだった。さらに、爪を手に取り指にはめてみる。すんなりと爪は指に張り付いた。これが自分の仕事なのか、そう考えると、未だにほかのことは何も思い出せないが、自分はこの仕事をするためにこの部屋に来たようにさえ思えてきた。男は爪を取り付けた指を元のラインに戻した。
それから、男は狭い部屋の中で流れてくる指に爪を付けては元のコンベアに戻すことを繰り返し続けた。
無数の指。無数の爪。指をつまむ。爪をつける。白い部屋に響くのはベルトコンベアの単調な音だけ。指をつまむ。爪をつける。
この指は誰の指なんだろうか。この作業に何の意味があるのだろうか。そもそも、この部屋はどこにあるのだろうか。男には何もわからなかった。結局、男は考えることを辞めた。
それから男は来る日も来る日も、無数に流れてくる指に爪を付け続けた。指をつまむ。爪をつける。白い部屋には昼もなく夜もない。男は眠ることもなく、食べることもなかったが、なぜだか男の体は問題なく動き続けた。どれだけの時間が過ぎたのだろうか。男は機械の声に言われた30日という期間をただ信じて働き続けた。

――ピンポンパンポーン。
再びあのチャイムが流れた。男にとっては何年にも感じられるほどの長い時間だったが、ようやく30日が経過したのだった。
「市民No.2478999009、30日間お疲れ様でした。仕事を終えて、部屋から出てください。」
男の背後のドアが音もなく開いた。男はほっとしたようにドアの外に出た。
ドアの先には同じような白い部屋があり、中央にはベルトコンベアの代わりに一つの白いベッドがあった。
ここで休めということか?男はベッドに横になると目を閉じた。次第に遠のいていく意識の中、あの電子音が男に告げた。
「これより、市民No. 478999009の身体メンテナンスを行います。診断の結果、49か所の器官に損傷を確認しましたので、これより修復作業に入ります」
男は朦朧とした意識の中で、自分の体が切り取られ、新しい体に入れ替わっていくのを感じた。
「これより記憶の消去を行います」
記憶の消去、という言葉に男は少し反応したように見えた。しかし、一瞬顔をしかめた後、男は無表情のまま目を開けた。

気が付くと男は真っ白な部屋に立っていた。

男は見覚えのない真っ白な部屋を見渡す。やがて、ベルトコンベアが動き出し、人間の指が流れてくる。男は指に驚くも、アナウンスに従い仕事を始める。まるで、ずっと昔からの生業であるかのように。そして、男は30日後にはあの扉の向こうへと消えていく。

――そして、気が付くと男は真っ白な部屋に立っていた。



結局、男はそれから永遠にその不思議な白い部屋から出られることはありませんでした。しかし、悲しむことはありません。彼はもともと彼自身の意思でこの白い部屋に入ったのです。いえ、彼だけではありません。遠い未来の世界ではこの地球上に生きるすべての人間が自らを白い部屋に閉じ込めてしまったのです。なぜそんなことになったのでしょう?
未来の人類はあまりに発達した科学力のせいで、何度も地球滅亡の危機を体験してきました。そこで人類は、これ上の発展は人類の滅亡を早めるだけだと考え、一切の進化を放棄することを決めたのです。すなわち、すべての人間は交換用の体の製造のためだけに働き、記憶をリセットしながら日々を繰り返し続けることで、戦争も災害もない永遠に平和な世界を手に入れることができたのです。

これは遠い遠い未来のお話です。この地球には70億もの、窓のない真っ白な部屋しかありません。


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このストーリーに関するコメント

14/08/10 そらの珊瑚

ナポレオンさん、拝読しました。

どういう種明かしかと思いながら読みすすめていけば……背筋は寒くなるようなお話でした。
平和だけれど、喜びのない未来、それが現実に起きないことを祈ります。

14/08/11 泡沫恋歌

ナポレオン 様、拝読しました。

なんか、ゾッとする未来ですね。
娘がやってるゲームでプロパ君とかいうロボットが出てきて、未来人は全て咎人で
敵を殺さないと罪が軽く成らないっていうのがあったけれど・・・

未来は喜びも悲しみもなく、無機質な白い部屋で、ただ作業するなんてやるせないです。

14/08/12 草愛やし美

ナポレオン様、拝読しました。

そこまで未来は行き着きましたか、唸るような結末に胸が痛みました。確かに進歩することは、ある意味、人間が人らしい気持ちを忘れていく可能性を産む可能性あると思います。

こんな未来が来ないように、私達は教訓をしっかり頭におくべきだと強く思いました。

14/08/12 クナリ

命はそれだけで価値がある――という標語が、一元的な極論にすぎないのではないかと、改めて考えた作品でした。
ある意味では、寿命が尽きるまでの、自給自足の擬似永久機関。
できれば、この工場(?)の一律的な工程に、変化のきっかけとなる何らかのトラブルが起こってほしい…と思ってしまいますね(^^;)。

14/08/22 ナポレオン

そらの珊瑚様
コメントありがとうございます。
現実に起こったら嫌ですね。ちなみにこの話の主人公はまだいい方で、70億人もいると中にはマブタにマツゲを取り付ける仕事とか地味な仕事も多いそうです。

泡沫恋歌様
コメントありがとうございます。
ちょいホラー目にしてみました。ぞっとしてもらえましたらありがたいです!なんか恐ろしいゲームですね……プロパ君、気になる!(^^)!。

14/08/22 ナポレオン

草藍様
コメントありがとうございます。
このままあらゆるものを効率化良くしていけばいずれこんな未来になってしまうのかもしれません。仕事をするにしても何のために自分が働いているのかを忘れないようにしたいです。

クナリ様
コメントありがとうございす。
この部屋でトラブルがあったら誰も対処できずに大変なことになりそうです(-_-;)そんな感じで人間らしい生活をとりもどしたりして。

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