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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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未来に布を織る

14/08/05 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:10件 草愛やし美 閲覧数:1355

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「幸、さちぃ〜」
 誰かが呼んでいる私の名前を。大嫌いな名前、お願い呼ばないで、呟いた私の唇に優しくキスされた。辛かった頃の夢を見ていたようだ。
「私ったら眠ってしまっていたのね」
 目尻に涙が滲んでいるのを感じ、慌てて、あくびが出た振りをしてごまかす。
「どうしたの? ハニー、大丈夫、新婚旅行が強行軍で、疲れさせちゃった?」 
「ううん、大丈夫よ、樹(イツキ)」
「乗り継ぎ便遅れのお客さん達、今しがた機内に乗り込んで来たよ。待たされたけど無事乗れて良かった。さあ、離陸だよ」
 樹は、英国生まれ、日本人の母親と英国人の父親のハーフだ。日本の大学へ留学し日本企業に就職している。母親が日本人なので、日本語はペラペラだ。
 ◇
「さあ、加納雄太君と安藤沙月さんに続いて、皆さんどんどんカップルになりましょう。次の男性は、五番の樹・マックリーさんです。さあ、彼の意中の人は誰でしょう? 十二番の米村幸さんです」
 樹は真っ直ぐに私の前に駆けて来た。にっこり笑った樹の口元から真っ白な歯が覗く。突然、跪いたのに私は驚いて後ずさりした。
「幸さん、未来を一緒に作りませんか。共に糸を紡ぎ、未来の布を織って下さい。お友達からお願いいたします」
 誠意のある瞳で真っ直ぐ私を見上げて言った。私は未来に布を紡ぐという言葉に反応し、さし伸ばされた一輪の花を受け取っていた。
 一分間トークの時に話した樹の言葉が脳裏に残っていた。
「凄い! 幸さんというお名前、僕の母と同じです。お会いできて凄く嬉しいです。幸さんは、きっと幸せになれる名前だと思います」
 自分の名前のことをそんな風に言われたのは初めてだった。自分の名前が大嫌いだった。幸なのに、今までの私の人生は不幸ばかりだった。幼い頃、父が会社倒産にあい苦労した。なかなか再就職できず、父は全く畑違いの食堂の自営を始めたが、共に切り盛りしていた母が過労で倒れ、借金を背負っただけに終わった。床に臥す母をなじる父が怖かった。
 母の病気で、祖父母の家に預けられたことがある。ある時、下校してきた私の耳に、近所の人と祖母の立ち話が入ってきた。「米村さんとこ、お孫さん幸って名前?」「そうなの嫌になるわ。私ね、幸は不幸になる名前だって聞いたことがあって反対したんだけど、息子がもう決めたからって。嫁に腑抜けにされ言い成りよ」「そう言えば、うちの親戚の幸子って娘もこないだ離婚したわ」「親はさ、幸せにとか思ってつけるんだろうけど、幸系は駄目よ」 近所の主婦仲間との話は、私にとって辛いものだった。祖母からは、母への文句をよく聞かされた。聴きたくない、なぜ、嫁になった人の悪口を容易く言えるのだろう? 結婚って何なのだろう、私は、結婚なんかしたくない──そんな気持ちの私は、三十近くまで、仕事一筋で生きてきた。昨年、転職してきて、すぐに仲良くなった友人の沙月に誘われなければ、あの婚活パーティにも絶対行かなかっただろう。
「一人で行くのって何だか照れくさくって。お願い幸、一緒に行こうよ」
「沙月、でも、私はそういうのは苦手で」
「そんなこと言わないで、私のためと思って」
 私が首を縦に振るまで許してくれそうもない沙月。いつも、明るい沙月と対照的な私、動と静なのに私達は、妙に気が合った。沙月の弁によると、かなり痛手を被った失恋時代の二十代とさよならしたいとの事。転職理由もそんなところにあるのかもと思ったが、そこには絶対触れなかった。祖母から学んだ私は、人の不幸や悪口が、どれほど人を傷つけるかを知っていたから。
 ◇
「僕の父方の曾祖母は、スコットランドで糸紡ぎから、織り機で布を織るまでしていたんだ。機織りは大変な作業だけど、縦糸と横糸を重ね合わせていくと綺麗なタータンチェックの一枚の布になる。弱くて細い糸が、やがて丈夫で美しい一枚の布になるなんて、とても不思議なことだろう。その話を父から聞いた時、凄く印象に残ったんだ。だから、共に人生を生きる人には、一緒に未来の布を紡いでいきたいなって。幸、僕は君と一緒に未来の布を織っていきたい、飛び切り素敵な色の布を織ろうよ」
 はいと頷いた私は、嬉しくて涙ぐんだ。樹と知り合って一年後のことだった。
 ◇
『TAKEOFF!』 飛行機がロンドン空港を飛び立つ。樹のお母様の幸さんは、笑顔の素敵な方だった。お父様も優しい英国紳士。幸だけど、幸せな人の証明がその地にはあった。
{結婚式と新婚旅行を英国にして良かった。未来の布は、二人で紡ぎ織っていくもの。幸せな未来の布になりますように……} 樹と私のそれぞれの糸が、少しずつ紡がれていくのを実感しながら心の中で誓う。飛行機の窓から遠ざかるロンドンの地の上に、真っ青な美しい空がどこまでも広がって行くのが見える。その先に自分たちの未来があるように思え私は笑顔になった。


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このストーリーに関するコメント

14/08/05 夏日 純希

素敵なプロポーズですね。

結婚って、お互いが縦糸と横糸で、二人で一枚の布を作る作業なのかもしれません。

イギリスって天気悪い日が多いので、真っ青な空が広がると
ほんとに心が希望が満たされますよね。

14/08/06 鮎風 遊

幸、いい名前ですよね、それを追い掛けるという意味で。
人生って、どこでどう回転するか、良縁で良かったです。

未来へ縦糸と横糸を織って行く共同作業、
きっと二人は頑張るでしょう。

14/08/06 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

私の知り合いにも「幸子」って人が居ましたが、たしか「ゆきこ」って読ませてましたね。

姓名判断とかで運の良い名前や悪い名前の話が出ますが、要はその人との相性だと思うんですよ。

きっと運命の糸で結ばれた二人は共に糸を紡ぎ、未来の布を織っていくことでしょう。

明るい未来を予言させるお話でした。

14/08/07 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

人生って幸福と不幸が同じくらいあるとかいいますが
きっとこれからは名前通り、幸せな未来を予感させますね。
素敵な布を織ってくださいね〜♪

14/08/07 滝沢朱音

草藍さん☆こんにちは。

未来への機織り。タータンチェック。イメージのふくらむ素敵なお話ですね♡
キャロル・キングの「Tapestry」をBGMにしたくなりました♪
人生はつづれおり。
樹の言葉どおり、飛び切り素敵な色の布を織っていきたいものです。

ちなみに、このお話を読んだとき、
右側の広告に、機織り機が表示されてましたよ(笑)
ちゃんと関連した商品が選ばれてるんだなぁ☆彡

14/08/08 k.k.


幸せは二人の協力なくしては手に入らないものですもんね
重なって絡まって未来を紡いでいくというのは、素敵ですね

14/08/10 光石七

拝読しました。
さわやかで心が和むお話でした。
未来の布を織る、素敵な言葉ですね。
二人に幸あれ!

14/08/12 草愛やし美

>夏日純希様、お読みいただき嬉しいです。いつも、コメント書いてくださって、大変勉強になります。
初めは、丹後のちりめんとか日本の布を設定して書いていたのですが、縦糸と横糸がきっちりわかるタータンチェックが馴染むのではないかと考え、イギリスを舞台にしました。
伝統がある織物はどちらも同じですが、イギリスって、お天気悪い国でしたね。そういう意味で、最後の青空がより映えた感じになったのだと、コメントに喜んでいます。気づかせていただきありがとうございました。

>鮎風遊様、いつもお立ち寄りありがとうございます。コメント嬉しいです。
幸って、いい名前ですよね、昔からよく使われています。実父は幸一でしたが、生前、「幸が一つなのが悲しい」と言っていましたのを想いだし、戒名には幸を入れましたが、一は無しにして戴きました。幸という漢字は気にいっていたのだと思います。

>泡沫恋歌様、お読みくださりコメントをありがとうございます。
姓名判断って赤ちゃんが生まれた時だけはきになりましたが、苗字はどうしようもできないと諦めました。苦笑 要は相性ですね、その通りだと思います。運命を切り開いていくのも自分次第、この二人は、きっと頑張っていくことと思います。

>そらの珊瑚様、そうですね、半分ずつなのかもしれませんね。
実父は四柱推命の占い師をしておりましたが、人生、谷と山の繰り返しとよく言っていました。――谷の時は、今は谷だけど、我慢すて頑張れば必ず山へ向かう、山の時は、今は登っているが油断せぬよう心を引き締めて頑張らなければ、すぐに谷へ落ちる──幸と不幸は裏表のようなものかもしれません。二人には、良いことも悪いことも乗り越えていく力になる布を織っていって欲しいものだと思います。コメントありがとうございました。

>滝沢朱音様、素敵なコメントありがとうございます。早速、youtubeで聞いてみました、しっとりと、でも力強い、とても良い曲ですね。こんな素敵なBGMを教えていただき嬉しいです。
そうそう、関連したバナーが出ますよね、私もどうしてわかるのかしらと、いつも不思議に思っています。タグを拾って出しているのかしらん? 雛祭りの時は、雛人形でした、今、真横になぜか「七五三の着物」のバナーが。えっもうそんな季節なの? そうか今から買いなさいってことね、凄く親切ですが……誰のを買えというのかしらねえ。爆笑

>K.K.様、お読みいただき嬉しいです。コメントありがとうございます。
お褒めの言葉に思わず喜んでいます。最近の暑さに落ち込み気味の私です。自分を含め、夏場乗り切るためのエールを送るつもりで、未来への連想をなるべく明るいもので書いてみたいと考えました。

>光石七様、お立ち寄りいただきコメントをありがとうございます。
未来に布を織るように、結婚生活はそういうものかと思うような年になりました。
一日や一年はあっという間のようですが、気づいてみれば、早、うんじゅう年も経っていました。その時々を大切にしなければと、最近思うことが多くなりました。若い頃はがむしゃらでしたから、ある意味、年をいくことも大事なのだと思います。

14/08/16 ドーナツ

拝読しました。
恋は一時の者だけど、藍は 長い時間かけておりあげていくものなんですよね。

この二人なら素晴らしい愛という布がおりあがるとおもいます。

幸とか花の名前とか、よくないなんて聞いたことあるけど、そういうのは、やっぱり迷信で、人生の幸不幸はその人の考え方次第だなって思います。

14/08/25 草愛やし美

ドーナツ様、お忙しい中をお立ち寄りいただき、感謝しています。

自分の名前が悪いからダメだとか、なんだかわからないけど、運が悪いのよとか嘆く人がいます。ですが、ものは考えよう──生きているだけでも、元気なだけでも、あるいは、今日の御飯が美味しかっただけでも、人は幸せを感じられると信じています。そんな風に単純に考えられる自分に感謝しています。そして、そんな風に育ててもらった親にも感謝しています。笑顔 コメントいただけたこととても幸せに思います、ありがとうございました。

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