1. トップページ
  2. 打ち捨てた

k.k.さん

東京出身のかす。 ボカロが好き。 sasakure.UKとDECO27が好き。

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

2

打ち捨てた

14/08/04 コンテスト(テーマ):第三十七回 【 自由投稿スペース 】 コメント:4件 k.k. 閲覧数:837

この作品を評価する


 子守唄が、遠くから聞こえてくる。懐かしいそのメロディーは、どこかに消えていった記憶をくすぐった。
 「こそばゆいな」
 小さく独り言を言う。広い草の海に身を沈めながら、その子守唄を口ずさんだ。
 ああ、懐かしいな。あれは、私の母が歌っていたのだったろうか。
 草の間を、風が通り抜ける。気持ちのいい風だ。嫌なことも、全部持って行ってくれそうで。
 かしゃん、と、そばで機械の音がする。そっと起き上がると、錆びたロボットが、カタカタ動いていた。
 あの音は、こいつが倒れた音か。それにしても、ずいぶん年季が入ってるな。
 まじまじとそれを見つめていると、そのロボットから、あの子守唄が聞こえた。
 こいつが歌ってたのか。いや、再生されていた、というべきか。
 ロボットは寿命だったのか、とぎれとぎれの子守唄を奏でた後、こと切れた。
 ずいぶん前に捨てられたのか、損傷が激しい。よく今まで生きていたもんだ、と感嘆した。
 そういえば、私がまだ幼いころは、こんなロボットがいたような気がするな。ロボットが普及した今、珍しくもなんともないが。
 あの子守唄は、母じゃなくて、こんなロボットが歌っていたのかもしれない。そう思うと、またどこかの記憶が、起き上がってきた。


  ロボットとは、仲が良かった。ただの機械の奴もいれば、まれに自我を持ったものもいる。私の周りの友達は、みんながそんな感じのロボットだった。
 自我を持ったロボットは疎まれていた。ロボットには必要のないものだったからだ。それゆえ、自我を持っているとわかると、人々はみな、そのロボットを捨てていった。

  私の父は、自我を持ったロボットをかくまっていた。ロボットとはいえ、自我があるのだ。もちろん、喜怒哀楽もある。ロボットも傷つくし、ふさぎ込む。人の身勝手に振り回され、傷ついたロボットを、放っておけなかったのだろう。
 私は、そんな父が好きだった。


 
 倒れたロボットを埋葬する。こいつに自我はあったのだろうか。
 久しぶりの労働に疲れた私は、その場にどさっと腰を下ろした。懐かしい子守唄は、まだ耳から離れない。ただ懐かしいというだけなのに。なぜこんなに耳に残るのだろうか。
 遠い記憶が、さらに起き上がる。それは、もうすぐそこまで来ているような気がした。



  ある時、私に弟ができた。赤ん坊の弟は、とても愛らしく思えた。父はロボットの研究で忙しいため、主に私が面倒を見ていた。ロボットの友達とは、疎遠になってしまった。
  それでいいと思った。私には、かわいい弟がいる。

  弟が寝付けないときは、私が子守唄を歌ってやった。亡き母が、よく歌ってくれた子守唄を。そうすると、弟はいつもぐっすり眠った。私は、本当に弟がかわいいと思った。

  ある時、父が死んだ。友達のロボットは、みなどこかに消えていた。私は、どうしようもなかった。
  それからすぐに、まだ赤ん坊だった弟も、死んだ。私は子守唄を歌った。何度も。


 とうとう、遠い記憶は、起き上がった。私のもとへ、避けられない事実を突きつけにやってきた。
 私はロボットだった。父に造られた、ロボットだった。
 母親なんて、最初からいなかったのだ。父がねつ造した記憶だ。子守唄は、父が私につけた、機能に過ぎなかった。
 「そうか、そうだったな。私はロボットだった」
 弟は、私の弟ではなかった。家族なんていなかった。独りだ。
 「あのロボットにも、自我はあったのか?」

 自我のあるロボットなんて。人は求めていない。私もきっと、誰かに捨てられたんだ。
 ロボットに涙はない。泣きたいと思ったのに、泣けないのが、とても、苦しかった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/08/04 夏日 純希

泣けないのに、自我があるなんてかわいそうですね。
なんだか悲しくなりました。
誰か泣く機能をつけてあげて欲しい・・・。

14/08/05 k.k.


夏日様
コメント、評価、ありがとうございます!!
いつかロボットが普及したとき、機械とはいえ、大事にされてほしいな、と思って書きました
ロボットだからこそ、表現できる苦しみがあると思います

14/08/05 草愛やし美

k.k.様、拝読しました。

ロボットに自我はいらない――のでしょうね。今、現代あるように、科学の進歩という形の上で、初めは、望まれたものだったに違いないでしょうに……ですが、要らないと。人間は、かってな生き物ですからね。
とても、切ない彼の心情が理解でき悲しいばかりです、社会への風刺が効いていて良いと思いました。

14/08/05 k.k.


草藍様
コメント、評価、ありがとうございます
ロボットの見た目は、人間をベースに作られていますよね
そのため、感情移入はかなりしやすいと思います
ロボットに自我があるわけない
でも、感情移入のせいで、蔑ろにもできない
生き物でない、自我もないものに対する優しさを、どこか矛盾に感じたので、こんな作品ができあがりました

これも、人のエゴですね

ログイン