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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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【ルメール・フュテュール】朝顔は永遠に咲かない

14/08/01 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:15件 そらの珊瑚 閲覧数:3072

時空モノガタリからの選評

指輪の形状と刻まれた誓いの言葉がうまく生かされ、緊張感のある作品だと感じました。結婚指輪がかなえてくれた「未来」は、果たして幸せなのか悪夢なのか‥…。指輪に刻まれた「ルメ−ル•フュテュール」という文句がこんな形で実現されるとは‥…皮肉なことですね。まさに究極の選択ですが、同じ立場におかれれば、大抵「私」同様の選択をするのではないでしょうか。でも「罪」を背背負いながらの無限の日常も、狂気の世界さながらですね。永遠の輪の中に閉じこめられた「私」が開放される日は、果たして来るのでしょうか?

時空モノガタリK

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 私は幸せだった。そしてそれが明日も明後日も、ずっと先の未来まで続くのだと思っていた。あの日までは。
 
 優しい夫と八歳の息子。去年購入したばかりの東京郊外の4LDKの一戸建て。庭には息子のひなたが植えた朝顔の苗。初めての蕾がついている。クーラーボックスの中には肉と野菜、焼きそば麺。ノンアルコールビールとジュース。小学校が夏休みに入ったばかりの日曜日。川遊びをしたあとバーベキューの予定だった。
 小さな紺色のスクール水着と黄色のスイミングキャップ。夫の緑のサーフパンツ。私のお気に入りのヘレナカミングスキーのつば広の麦わら帽子。子供の時海で溺れかけた事がトラウマになり私は泳げないので水着は持っていない。
 朝から頭に違和感があったが、いよいよそれは頭痛となり耐え難いほどになった。予定を中止しようか……けれど息子がはしゃぐ顔を見ていたら結局言い出せず、常備してあるアスピリンの錠剤を飲んだ。車が目的地に着く頃には薬が効いて頭痛から開放された。
 晴れ渡った青空と白い入道雲。川はゆるやかに流れ危ない事は何もないように思えた。しかし見えないだけだった。私達は知らなかった。浅瀬だと油断させ突然水中が深くなりまるで罠のように流れがそこだけ一気に急になる事を。
 ひなたが沈む。
 黄色い目印が消える。
 ひなたを助けようと必死に泳いでいく夫。私はといえば、膝まで水に入りながらもすくんでしまい、そこから体が動かなくなった。
「ひなたーっ、ひなたーっ!」
 ただ大きな声で叫ぶしかなかった。
 結局ひなたも夫もそのまま流されそこから下流五キロのところで浮いているのを発見された。心肺停止のまま救急車で病院で運ばれたが、蘇生しなかった。
 ◇
 悪い夢なら覚めて。葬儀が終わってからも私はこの現実を受け入れることが出来ずにいた。
 あの日の頭痛はもしかしたら虫の知らせ? 川には行くなというサインだったのか? それに気づかなかったせいで二人を死なせてしまった。
 ごめんなさい。ごめんなさい……。砂を噛むような食事。嘔吐。日に日に痩せ、結婚指輪がある日するりと抜けおちた。
『Le même futur』と、そのプラチナの内側に刻印されている。
 フランス語でmême は同じ、Futurは未来という意味だと夫は言った。結婚式の日に。
――ルメール・フュテュール。同じ未来。私達は同じ未来を生きていくはずじゃなかったの? 嘘つきの指輪。もう何の価値もないただの輪っか。私はそれを朝顔の根元に埋めた。
 ねえ、嘘つきでないのならもう一度あの日に戻して。そのためだったらどんな事もする。満月の輪郭が私の涙で夜空へ溶け出していった。

「ママ、ママ」翌日、愛しい声が私を目覚めさせた。
「おはよう」ベッドの向こうで新聞から目を離した夫が笑った。
 ――うそっ。嘘でないのなら夢なのか。夢でもいい。なんでもいい。ひなたと夫が戻ってきた! 私はあの日に戻ったんだ。ひなたを強く抱きしめた。ああ、ひなたの甘い匂いだ。
「ママ、どうして泣いてるの?」私は頭を巡らせた。未来を変えなくてはならない。
「あのね、ママ、頭、痛いの」事実、あの朝のように頭が痛かった。
 川遊びは取りやめになり、ひなたはほっぺを膨らませたものの、ママ、早く良くなってねと私の頭を撫でてくれた。夕食はバーベキューで使うはずだった食材をホットプレートで焼いて食べた。
 つけっ放しのTVのニュースが、水の事故を告げる。父子が溺れて亡くなったと。今日行くはずだったあの川で。――私が未来を変えたばかりに、他の誰かが身代わりになったのか。私は罪人だ。その晩は明け方近くまで寝ることが出来なかった。
「ママ、ママ」ひなたの声で目が覚めた。
「おはよう」夫が笑う。
 ベッドサイドの時計に表示された日にちをふと見れば、昨日だったはずの日曜日だった。
「ちょ、ちょっと見せて」何かの間違いかと思って、夫が読んでいた新聞をひったくるようにして取る。日付はやはり日曜日。
 再びあの日に戻っている。知っている未来を、知らないふりで、私は生きなければならないのか。いつまで? わからない。永遠に? 永遠に繰り返すというの? 罪人となった私に課せられた罰なのだろうか。
 永遠に変わらない未来。永遠に私たちは年をとらない。それどころか永遠に死なない。それが事実だとしたら……これは悪夢? 心が凍り付くようだった。
 私は今日も頭が痛くなる。そして予定は中止される。――だけど事故は起きて別の誰かが死ぬ。
 もしも。私がアスピリンを飲んで予定通りの今日に戻ったら。ひなたと夫は命を落とす? 嫌だ。そんなの嫌。いいじゃないか。悪夢じゃない。幸せはずっと続くんだ。あの指輪のような永遠の輪。無限ループの中で、朝顔は永遠に咲かない。
 


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このストーリーに関するコメント

14/08/01 そらの珊瑚

画像は自宅の朝顔です。

14/08/01 たま

珊瑚さま、拝読しました。

あれれー??? 予定調和で終わるの? なーんて思ったらとんでもない結末が・・・。
やっぱしね、珊瑚さんが予定調和で終わるわけないよね^^

と、言ってもこれはやはり哀しい物語です。その哀しさこそがこの物語の主題であるはず。その主題を「心が凍り付くようだった」で、済ましてはだめです。

でも、珊瑚さんのチャレンジ精神に拍手します♪

14/08/01 たま

追伸。

抽象的なタイトルは満点でしたよ^^

14/08/01 クナリ

指輪に刻まれた本来の意味とは、少し違った「同じ未来」なのですね。
川へ行っておいて、二人が水に入らないようにすれば…と思っても、もう恐ろしくて川に近づくことすら(そんなことを試すことすら)できませんね…。
彼女の精神は、この先どうなっていくのでしょうか…。

14/08/02 草愛やし美

そらの珊瑚様、拝読しました。

何かが起こる前兆のようなものはあるかもしれません。でも、何かが起こってしまったことを、あれが前兆だった予感かもと思ってしまうこともあります。
無限ループのように、嵌ってしまった主人公。同じ未来を過ごすには、もうこの方法しかないのでしょうか? 哀しいお話に、指輪がとても印象的に使われていて詩的に思いました。

14/08/02 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

なるほど、指輪のリングのように「同じ未来」を永遠に続けてゆく訳ですね。
これは、これでツライ未来ですよね?

たしか、先日、川遊びで子どもが流されて、助けようと水に飛び込んだ両親が亡くなって、
子どもだけが助かった事故があったけど・・・凄く複雑な思いがした。

この作品も深く考えさせられる物語だった。

14/08/02 ドーナツ

拝読しました。
ふしぎなお話ですね。

自分が悪いわけではないのに、生死にかかわるようなことが起こると、自分の身代わりになってあの人はなくなった と思うこと実際にあると思います。

毎回、それを引き起こした日に戻ってくるのは、恐ろしい悪夢としか言いようがないです。

こういうジャンル、心理ホラーっていうのかな。勝手に名付けてしまいましたが、、奥底でひんやりした怖さを感じます。

14/08/03 黒糖ロール

いろいろ考えさせられる作品でした。
朝顔が咲かない、というフレーズでぴんと作品が締まった感じがして、いいなと思いました。

14/08/05 汐月夜空

そらの珊瑚様、拝読いたしました。

最初にひなたが植えた朝顔の苗が、最後に永遠に咲かないと結ばれるのが読者の心に変わることのない未来を植え付けていくところが上手いと思いました。
"私"の頭が痛かったのは虫の知らせだったのか、それとも実はアスピリンを飲む選択肢を選ぶと決意すると繰り返していた事実を忘れてしまい、それが痛みとなって現れるのか。
夏の一幕がリアルに思い浮かびました。

14/08/06 鮎風 遊

うーん、大変だ、
抜け出せない無限ループにはまってしまったのですね。

こういう時はどうしたら良いか考えてみました。
目先を変えて、遊園地に行ってみたらどうでしょうか?
ジェットコースターが落ちたら打つ手なしですが。


14/08/10 そらの珊瑚

たまさん、ありがとうございます。
「心が凍り付くようだった」の箇所は安易によくある表現だったと思います。
もっとどーんと最上級の哀しみが伝わるようなものでなければいけませんね。
ご指摘に深く感謝し、精進いたします!
タイトルはちょっと凝りすぎかなと思っていたので、嬉しいお言葉も感謝です。

メイ王星さん、ありがとうございます。
作者の意図したことが伝わってほっとしました。
あまり仕掛けをしすぎて、複雑にしてしまわないように心がけたつもりです。
同じ未来が続いたとしたら、それは自分が願ったものであるのに、皮肉なことにものすごい不幸でありますよね。
知らない未来がちゃんと来ることこそ、幸せかなと思います。

クナリさん、ありがとうございます。
私も回避する方法をいくつか考えました。トラウマを克服して泳ぎの達人になってしまうとか(でも一日じゃ無理がありすぎ!)
ライフジャケット家族みなで着るとか。川に行かないで山にするとか……。試してみたら意外とこのループから脱出できないとも限りませんが、
結局不採用にしました。(笑い)

14/08/10 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

何かの前兆を感じとる、第六感のようなものはもともと人は持っていたのですが、
現代人はすっかり失ってしまったという説もあるようです。
たぶん食うか食われるかしていた狩りの時代には
そういう本能がなければ生き残れなかったのではないかと想像します。

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
子供と夫は命が助かりますが、永遠に続くとなったら非常に辛いでしょうね。
どうせならその記憶ごと新しくなってくれればよかったのに……。
水は怖いという意識を持って(自然はそういう面があると思いますが)接しなければいけませんね。

ドーナツさん、ありがとうございます。
もし自分だったら耐えられない未来でしょうね。
そういう意味では心理ホラーってぴったりあてはまる気がします!

黒糖ロールさん、ありがとうございます。
せっかく蕾をつけたのに、朝顔も気の毒です。
朝顔はあとでつけ加えたエピソードでしたので、そう言っていただけて嬉しいです。

汐月夜空さん、ありがとうございます。
朝顔、成功したようで、良かったです!花は咲いて、種をつけることで、未来へつなげてゆくものですから、それさえも失われてしまったとか、そんな風な想いを込めてみました。
頭痛、そういう風にもとれますね。

鮎風遊さん、ありがとうございます。
私だったとしても抜け出す手立てを考えますね。
事故とかが少なそうな場所へ、とか。
だめもとで、試してみる価値はありそうです。

14/08/10 光石七

拝読しました。
こういうオチとは思っていませんでした。
これは幸せなのか、恐怖なのか……
タイトルも朝顔の使い方もさすがです。
まだ読後のドキドキが収まりません(苦笑)

14/08/12 そらの珊瑚

光石七さん、ありがとうございます。

オチ、願いがかなって幸せなはずなのに、実際はものすごい不幸でもあって……
皮肉な未来とでもいいましょうか、もし自分だったら耐える自信ないです。

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