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skyなblueさん

北海道で悠々自適に暮らしております 力を入れて抜いて書こうと思っているので 良かったら読んでみてくださいー

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夏花火

14/07/28 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:0件 skyなblue 閲覧数:835

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熱い……。これは誤字ではない。それくらい暑いという事である。
そうか。夏なんだ。この季節が今年もやってきた。
雨のせいでしばらく来ていなかった屋上へと向かう。十年前と何一つ変わってない屋上だ。
梅雨の季節は雲のせいで太陽が見えない。天に届かないという事実が酷くオレの心を痛めつける。
缶コーヒーの蓋を開ける。十年前は苦くてとても飲めなかったブラックコーヒー。今はこの苦みを感じないとコーヒーを飲んでいるという気がしない。
寝不足のせいか、一気に飲み干すと急激に眠気が襲ってきた。せっかくのベンチだ。横にならせてもらおう。
大人一人なら充分に眠ることのできるベンチに横になると、ふとモモカとの出会いを思い出した。
十年前もオレはこのベンチで眠っていた。同級生の見舞いついでにこの屋上を見つけてそのまま気に入っていたからだ。


「あの……」
眠っているオレに話しかける女の子がいた。茶色の髪、耳には何個かピアスをぶら下げていた。
オレのことを不思議そうに見ている綺麗な淡色の目が特徴だった。
「そこ、寝ていて気持ちいい?」
外見とは違い穏やかな声。そして柔らかく微笑んだ。
「……どうして?」
「だって敷布団も掛布団も枕だって無いじゃない。身体が痛くなりそう」
と答えた。
そりゃあ自宅のベッドと比べると格段に眠りづらいことは間違いない。ただオレはこの目を閉じると蝉が鳴き屋上だけに吹く気持ち程度のさわやかな風を目を閉じて感じるこの雰囲気が好きなんだ。
「好きなんだ。こうして寝ているのが」
「ふぅん……」
釈然としないような顔だが一応は納得してくれたみたいだ。
「あたしモモカ。あなたは?」
「タクマ。君はここの患者さん?」
モモカは小さく頷いた。彼女は上下オレンジ色のパジャマを着ていた。
よくよく顔を見てみるとテレビでも滅多に見ることがないほど顔の整っている美少女だった。
背は小さくて中学生ぐらいに見える。だとしたらオレよりも年下だ。
オレはようやく体を起こしてモモカを手招きしてベンチを叩いた。それにつられるようにモモカはオレの横に座る
「タクマは患者さんじゃないの?」
「あぁ。オレはここに入院している友達がいるだけ。高校の同級生なんだけどさ」
「タクマって高校生なの? じゃああたしの先輩なんだ」
「モモカは中学生なの?」
「まぁ、一応ね……本当は違うかもしれないけど」
淋しくモモカが笑った。
「一応って?」
「あたし、病気のせいで一回も学校に行けていないんだ。だから中学生じゃないの」
モモカは入院してもう五年以上経つという。生まれつき身体が弱く入退院を繰り返しながら育ち、ここ五年は退院が許されない状況だった。
「でもね……あたしだって人並みに女の子らしいことをしたいんだよね。だから髪も染めてみたし、ピアスも開けてみたんだ。お母さんやお医者さんを反対してたけどね」
「……すぐに良くなるよ。退院なんかあっという間さ」
言った後にしまったと思った。モモカの病状もろくに知らないオレが言っていい言葉なんかじゃなかった
「皆そう言うんだよね。でもあたしは分かっているよ。もうすぐ死んじゃうんだって」
死に直面しているモモカ。その顔は何故か笑っていた。
「これで良かったんだよ。これでお父さんは無理して働く必要はないし、お母さんは睡眠を削ってあたしを看病しなくてもいいしね」
オレはもうモモカにかける言葉が見つからなかった。何を言っても薄っぺらくモモカの心には届かないだろう。
「あっ、こんな話してごめんね。初対面なのに。でも何故かタクマだったら受け止めてくれるような気がしたの。勝手でごめんね」
「……欲しいものとか……ない?」
必死に言葉を振り絞って出た言葉がこれだった。何でもいいからモモカの力になりたかった。
「うんとね……あたし、花が好きなんだ。だから花が欲しいな。出来ればたくさんの花」
「分かった。用意するから次の日曜日の夜にもう一回この屋上で会おう」
「夜? 花は昼の方が綺麗なんだよ?」
「夜の方が綺麗な花だってあるんだよ。約束ね?」
「うん……約束」



その約束は守られることは無かった。あの後、急に体調が悪化したモモカは次の日曜日が来る前に旅立ってしまった。
それでも日曜日。オレはあの屋上に来た。
3…2…1…ゼロ。
ドォン!
ゆっくり花火が上がった。
夕暮れは遠のいて、辺りは徐々に闇に染まり始めていた。
何度も何度も花火が上がる。色とりどりでとても幻想的。
オレは涙を拭うこともせずに流れる花火をただ眺めた。
夏の間は、いつも何処かで祭りが行われている。
花が大好きなモモカのために長く咲き続けばいいと願った。 美しい花火が届けばいい。

百花。夜空に咲く花よりも綺麗な花。
オレの贈り物の花が百花に届きますように。
どうか夜空で綺麗に咲きますように。


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