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W・アーム・スープレックスさん

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往復書簡

14/07/28 コンテスト(テーマ):第六十三回 時空モノガタリ文学賞【 告白 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1221

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 ぼくたちは時代に逆らって、お互いの気持ちのやりとりを、手紙ですることにきめた。 メールなら、嘘八百でも何でも、容易にすらすら並べたてることができるが、手書き文字にはその人の、正直な気持ちが表れるというきみの発案だった。
 ぼくは賛成したものの、内心ではぎょっとした。はたして最初のぼくの手紙に対するきみの返信に、こんな言葉が書かれていた。
―――まるで女性のような繊細な文字ですこと。
 これを読んだときのぼくの驚きがどんなだったか、わかるだろうか。
 それからも二人の往復書簡はつづいた。一文字一文字、姿勢を正してなれない万年筆を運んでいると、きみのいうとおりぼくはだんだんと、じぶんを偽ることが苦痛におもえはじめた。もうこれ以上、きみを欺くことはできない………
 それにひきかえきみはなんと素直に、偽りのないみずみずしい心の中を、包み隠さずうちあけてくれたことか。ぼくのいたらないところ、欠点、おもいやりのなさを、感情をまじえることなく指摘したうえで、なおかつそんなぼくを信頼し、友情以上の気持ちを抱くことをためらわなかった。
 だが、ああ、ぼくはきみにたいして、致命的な嘘をついた。きみのいくら寛大な心をもってしても、これだけはけっしてゆるされることはないだろう。
 ぼくは恐ろしい。きみがぼくの真実をしったときの驚愕をおもうと、いっそなにもかもこの手で終わらせてしまいたいぐらいだ。
 だが、きみの誠意にはこたえなければならない。これ以上の嘘をつみかさねる愚だけは避けなければならない。
 ぼくの文字に対するきみの印象が、すべてなのだ。
 きみはこう書いた。―――女性のような、と。
 ようなではなく、そのものずばり、ぼくは女性なのだ。
 ゆるしてくれ。髪型はもとより服装から歩き方、口のききかたから表情もそぶりも、ぼくは男を演じていたんだ。というより、これがぼくの、これまでの生涯を貫き通してきた偽らざる姿なのだ。
 この気持ちをきみに理解してもらうことは、おそらくむりというものだろう。
 ぼくは女性でありながら、女性の君に関心をもち、そしてちかづいた。もしも最初からぼくが女だとわかっていたら、いくらなんでもきみは、ぼくと交際したいなどとはおもわなかったにちがいない。
 ぼくは、きみといっしょにいるとき、じぶんが本当の男になったような気分になった。ほかの女性のときには、決してこんな気持ちにはならなかった。きみと二人でいるとぼくのなかの女性ははるかに後退し、かわりに男が全面に出現する―――そんなふうにいえばいちばん、ぼくの内面を正確にいいあらわしているかもしれない。
 だが、もう、すべては終った。ごめんなさい。わたしは嘘つき女です。ゆるしてください。あきれてものもいえないあなたの顔をおもいうかべながら、両手をすりあわせて、頭をさげます。



 お手紙ありがとうございました。

 あなたのお手紙、まさにその女性のような繊細な―――もはやはっきり女性といったほうがいいのかしら―――インクで綴られた文字を、一字一句、すくいとるようにしながら読みました。
 わたしは、あなたの勇気ある告白をきいても、あなたにたいする気持ちはひとつもかわりありません。それどころかいっそう、あなたをこれからももっと深く理解したいというつよい気持ちがわいてきました。
 あなたはあやまる必要はなにもないのです。むしろ、わたしこそ、あなたに深くお詫びしなければならないのです。あなたは書いておられましたわね。一字一字、書いているうちに、じぶんの気持ちを偽ることに耐えられなくなったと。
 いまのわたしもまったくおなじ心境にあります。でも、なかなかその勇気がなくてこれまで、うじうじ躊躇するばかりしていました。
 あなたが女性だと告白したいまこそ、わたしもまた真実の告白をするときがきたようです。
 わたしがあなたの文字をみて、女性のような繊細さと書いたのにこたえてあなたが、わたしの筆跡について、意志の強さがにじみでていると感想に書かれたのをおぼえているかしら。あなたはきっと、そのあとに、まるで男の字のようだと、つづけたかったのではないかしら。ずばりでしょう。
 そのとおりなのです。わたしは、女ではありません。あなたがどこからみても女なのとおなじに、わたしもまた、女を生きている男なのです。
 わたしには、あなたの告白が、すんなりうけいれられました。だからあなたにもきっと、わたしのこの告白を、よどみのない気持ちでうけいれてくれるものと信じています。
 なんだかわたし、幸福な気分になってきて、ひとしれず微笑んでしまいました。
 二人はきっと、うまくいくとおもわない?
 これ以上のカップルはないんじゃないかしら。
 だいじょうぶ、 それを信じようじゃないか。



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