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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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告白式燃料自動車

14/07/28 コンテスト(テーマ):第六十三回 時空モノガタリ文学賞【 告白 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1179

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 ひらたくいえば、告白を燃料にして走行する車のことだ。
 ガソリン代があがりっぱなしの昨今、なんとか化石燃料にかわる物はないかと学者、唯識者が知恵をしぼっていた矢先、人間の告白に反応するある種の藻類が発見された。
 片田舎に在住する主婦の一人が、山裾でみつけた藻のようなものをもちかえり、その美しさにひかれて、水槽にいれて鑑賞することにした。主婦は、その藻をみるたび、なんてきれいなのかしらと、くりかえした。すると、その藻から、こまかな泡が大量にたちのぼりだした。みるみる水槽に充満したそれに、亭主がタバコをくわえてのぞきこもうとしたとたんに爆発がおこり、家の小屋根がふきとんだが、奇跡的に夫婦は軽いやけどですんだ。藻が安価でひじょうに効率のいい天然ガスを発生させることを、調査におとずれた学者たちは確認した。
 ただ、その発生の仕方が、ひじょうにユニークなものだった。この藻の開発にたずさわった大塚博士は最初、発見者の主婦の言葉が信用できなかった。
「藻に告白するなどと、なにをたわけたことを―――」
 この開発に携わった多くの者もまた、はじめは大塚博士とおなじ意見だった。しかし現実に主婦が、藻にむかって語りかけると、藻からぶくぶく気泡が大量にたちのぼりだすのをみた。彼女にかわって大塚がいくら声をかけても藻は、なんの反応もみせなかった。助手たちも藻を誉めそやすが、やはり結果はおなじだった。
「気持ちがこもってないと、だめです」
 きっぱりと主婦は断言した。大塚たちの多くは、高学歴のキャリア組で、エリートとしていまの職についた。藻どころか人に対しても本音でものを語ったことなど一度もなく、つねに競争と昇進のみを念頭にしてきただけに、なにかを称賛するなどといったことは苦手中の苦手だった。
「けなしたり、こきおろしたりは、得意ですけど」
 と助手の一人などは、大言してはばからなかった。
 急遽、あの主婦のように純真な気持ちで藻をほめることのできる連中を一般公募した。
 集まった五十名による藻への心からのよびかけは、めざましく功を奏した。その際わかったことは、虚偽や欺瞞にたいして藻は過敏に反応し、たとえそれがじぶんにむけられたものでなくても、ガス発生を拒むという事実だった。
 藻燃料で駆動する車の試乗者が登場するのは、それからわずか数年後だった。
 ドライバーは、乗車するとまず、燃料タンクにつたわるマイクにむかって、本音トークをする。
「藻さん、よろしくお願いします。あなたのがんばりが、きょうのわたしを元気づけてくれます。あなたがわたしを愛してくれるように、わたしもまた、あなたを愛します。あなたのお力で動く車で、安全運転をこころがけ、無事故無違反をまもります」
 この気持ちにすこしでも嘘がまじると、天然ガスの発生は弱く、馬力もダウンする。飲酒してのったりすると、完全に拒否されるのはいうまでもなかった。
 開発者の大塚博士も試乗メンバーの一人だった。ただ彼じしんは、今年の春にはじめて免許を取得したという新米で、いつもは妻の運転する車に乗せてもらっていた。そんなだから、試乗時にも、妻が同乗し、彼のおぼつかない運転に横からなにかとアドバイスをおくることになった。
 研究所の広大な敷地内を、博士の運転する車は、のろのろと走りだした。
「あなた、もっと速度をあげて。これじゃ、子供の歩みよりまだ遅いわ」
 業を煮やしていう妻に、大塚博士はいらっとして、
「まだガスが十分発生してないようだ」
 じつは、マイクに彼がさいしょにふきこんだ言葉の、
「きみはいつも、美しい」をきいて、妻が、
「あら、わたしのこと?」
 ちがうともいえずに彼が、
「もちろん、きみのことさ」
 と答えてからというもの、藻の活動が極端に低下したのだった。
 運転がはかばかしくないのをみた博士の助手の小杉美恵が、車の前方から彼を励ますように手をふった。
 それをみた妻がきゅうに眉毛を逆立て、
「あなた、あのひとよく、自宅に電話をしてくるみたいだけど、家にまでかけてくるだけの用があるの?」
「この研究のことでかけてくるんだ。彼女人一倍、研究熱心だから」
 せっかく走り出そうとしていた車が、ガクンと減速した。
「わたしがでると電話、なにもいわずに切れることがあるんだけど―――」
「まちがい電話だろ」
「あなた、わたしのこと、いまでも愛しているの?」
 このとき車が突然ストップしたのは、博士がおもわず急ブレーキをふんだためだった。
「きゅうに、なにをいいだすんだ」
「こたえてちょうだい。あなたがここでうそをいったら、車はこのまま一歩も動かないにちがいないわ」
「………もちろん、愛しているさ。あたりまえだろ」
 博士の試乗する車は妻の予言どおり、それ以後動くことはなかった。





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このストーリーに関するコメント

14/07/30 草愛やし美

W・アーム・スープレックス様、拝読しました。

さすがスープレックスさん、凄い発想ですね、こんなエネルギー資源があればと、夢中で読み終えました。

「ああ、博士、やってしまいましたか」――思わずそう呟いてしまった私です。ある意味、これは素晴らしい人間を育てるものです。交通違反もなくなり、事故も無くなる、良いことづくめのエネルギー。でも、非常に使うのは大変そうですね。
告白のテーマで人間性を皮肉っていて、面白かったです。

14/07/30 W・アーム・スープレックス

草藍さん、コメントありがとうございます。

藻のようなものからエネルギーを採取というのはたしか本当に研究しているとか。植物は人の愛情を感じるといいます。このふたつをかけあわせて本作ができました。登場する人間たち―――これはもうどこにでもちらばっています。

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