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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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紫陽花

12/06/21 コンテスト(テーマ):第七回【 結婚 】 コメント:2件 そらの珊瑚 閲覧数:2429

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 神楽坂。かつては花街と呼ばれていた処で私は生まれました。細い階段がまるで迷路のようにつながり、いくつもの置屋や黒板塀の料亭などがところせましの並んでおりました。
 私の母もここで芸者をしていました。花街といえども、そこには昼の生活というものがあり、子もいれば、学校もあります。
 私は小学校にあがってすぐに口さがない男の子らに「おまえんち二号さんなんだろ」とことあるごとにいじめられました。。
 家に帰り、母に
「二号さんって言われた。テストで百点とってもおまえは一番じゃないって。ねえ、かあさん、二号さんってなに?」
 すると母は
「ばかだね、この子は。二号さんなんてまだいい方だよ。中には三号さんや四号さんだっているんだからね」
 ちょっとも悪びれることなくそう答えるのでした。単純な私は
「そうか鉄人二十八号もいるし」
 などと変な納得をしたものです。能天気なところは母譲りだったのかもしれません。二号さんとはお妾さんの別称、今でいう愛人の意味だと知ったのはそれからまもなくだったように記憶しています。
 父は一週間のうち一日か二日現れました。そのたびに赤いエナメル製の靴やびろうどのリボン、フランス製のショコラなど、心踊るプレゼントをくれましたので、父が来るのはたいそう楽しみでした。
 そんな生活が一変したのは小学校四年の時です。
 父は木場で材木商を営んでいましたが本妻さんが病気で亡くなり、私の母が後妻になったのです。一号さんに昇格というところです。
 しかしそれから母は苦労したようです。
 本妻さんの子である中学生の男の子の母親ともなったからです。思春期の男の子は、つまり私の義理の兄ですが、いつまでたっても母とは呼ばず、名前で読んでいました。私には優しい兄でしたが。兄はいい年になった今でも名前で呼んでいます。
 こんな風に昔のことを思い出すなんて、明日はこの家を出ていくに当たり、少し感傷的になっているのかもしれません。
 母さんの秘密を知ってしまったのは、まったくひょんなことからでした。
 血液型です。父はA型、母はO型、私はB型だったのです。ご存知のようにA型とO型のカップルからB型の子どもは生まれません。
 私は父との間に産まれた子ではなかったのです。父と恋仲になる少し前に既に私がお腹にいたとか。その相手、つまり私の実父は不実な男で、妊娠を知って逃げてしまったそうです。父さんはそれらの事情を全て承知していたとか。
 それを聞いた時の驚きといったら──。
 そして驚きは喜びに変わりました。
 
 私は愛してはいけない人を愛したわけではなかったと。
 
 そうです、母さん、私は兄さんのことを愛していたことに、はからずもその時気づいてしまったのです。兄さんも同じ気持ちだったことを知り、またも驚いたわけですが。
 母さんは
「そんなこと許されないことです」
 そう言って怒りのためか、顔を青ざめていましたね。
 父は
「おまえたちのことは認めない。出て行け」
 と言いました。
 あれは私への最後の愛情だったと受け止めてもいいのでしょうか。
 私は籍を抜くことになりました。だからといって果たして結婚が可能なのかどうか、わかりません。
 しょせん結婚とは紙切れ一枚の契約です。それは母さん、あなたが一番よくご存知のはずです。結婚できなくとも、私はこの愛を貫きます。
 なんでこんなややこしい相手を選んでしまったのかと不思議に思うこともありました。
 それはとりもなおさず、母さんの血を受け継いでいたのだ、と心のどこかで可笑しく思います。
 そろそろ庭に紫陽花が色づきますね。薄紫の紫陽花が小さい頃から大好きでした。
 そっとひと枝を持っていきますね。兄さんの赴任先のアメリカでも根付くことができたらいいのですが。
 紫陽花は土壌によって咲く色が変わるとか。どんな色の花が咲くのでしょうか。
 
 男と女。
 結婚。
 あの頃はわかりませんでしたが、きっと普通というものはひとつもなくて、人の数だけその在りようがあるのでしょうね。紫陽花の花のように。
 
 


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このストーリーに関するコメント

12/07/12 ドーナツ

再度 拝読しました。
「紫陽花」は土壌によって色が変わる、、、、あの頃はわからなかった>

このさいごの数行、再度 よんで、あ、そうか!と 心にずんと来ました。

どんな色になるかは 咲いてみるまでわからないんですよね。
人生色々、其れを紫陽花とかけたところはさすがです。



12/07/14 そらの珊瑚

ドーナツさん
ありがとうございます。

紫陽花と人
どのような土壌で生きていくのかは
自分で選べないし
そこで精一杯咲けたら
どんな色でもきっと美しいのでしょう。

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