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sugginoさん

本がすきです。とくに恋愛ものやへんなもの(ナンセンス文学に興味があります)がすきです。   ★ひさしぶりに長編書いてます。高校生らが濃いとか音楽とかにかまける話です『スメルズ・ライク・シックスティーン・スピリット』http://ncode.syosetu.com/n9487dn/   ツイッター:@suggino

性別 女性
将来の夢 ペンギンを飼う
座右の銘 ゆっくり歩け、たくさん水を飲め

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まるくて透明で、つるんとした

14/07/22 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:5件 suggino 閲覧数:1894

時空モノガタリからの選評

現実と非現実とがうまくミックスされていてゆるりとした魅力があり、鉄男の朴訥なキャラクター、シンプルな語り口も味わい深い作品だと思いました。またヘルメットの「まるくて透明で、つるんとした」質感が、無重力的な独特の空気感を作り出していると思います。循環バスの運転手の「退屈」な日常にまぎれこんだ不思議な「女」。彼女は、鉄男が世話した「学校の花壇」や「うさぎ」のように、「可愛い」けれど庇護が必要な儚い存在で、彼の淋しさや未来への漠然とした不安とどこか重なるかのようです。そしてそんな面倒な彼女を世話しながら、鉄男自身も癒されているのかもしれない、と感じました。宇宙人のような彼女の出現が、鉄男に何をもたらしたのか、彼らの未来がどうなるのか、この先も気になるところですね。

時空モノガタリK

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 いま女と住んでるんだけど、と鉄男は言った。

 女、未来から来たんだ。銀色のぴたぴたしたスーツを着て、何ていうか、こう、まるくて透明でつるんとしたヘルメットみたいなの、被ってた。
 循環バスの運転手は、退屈だ。再就職にはおすすめしない。夕方帰宅ラッシュを過ぎると一気に客は減り、三、四時間で乗客なしというのもざらにある。とはいえ途中で帰る訳にもいかないし、一日中同じルートを延々廻るんだ。どうだ、退屈だろう。
 女は最終一本前の便で、三つめの停留所から乗車してきた。変な格好だと思ったが、じろじろ見るのも失礼だから前をずっと向いていた。他に乗客はいなかった。
 終点に着くと、女は金がないなどと言いだした。トラブルはごめんだと思ったから、金はいいからもう降りてくれと言ってやった。そしたら女、ふかぶかと頭を下げて感謝の言葉を並べたて、私は未来から来た。追っ手から逃れるうちに過去へ来てしまったようである。宿がなくて困っている。ついては数日間泊めてもらえないだろうかなどと言う。冗談ではなかったが、困っている女を一人放っておくことなどできないじゃないか。それに夜道は危ない。

「それで一緒に住むようになって、三ヶ月が経った」と。
 僕は盛大に呆れた。笑っていいのか怒っていいのか。しかし、あの鉄男が言うことだからと、なるべく真面目な顔で聞こうと努めたが、眉間にはギュッと皺が寄り、口もとは緩んで半笑い、というまぬけな表情になってしまった。
 鉄男とは、中高大学の同級生だった。がたいがよく、ハンサムというにはいささか頬骨が出過ぎ、鼻が大きかった。目つきが悪く、いつも宙を睨みながら歩いていた。しかし実は非常に優しい男で、毎朝学校の花壇に水をやるのが日課だった。男には人気があったが、女にはもてなかった。
 大学卒業後、就職のために都会に出てから五年六年が過ぎていた。そんな中、姉が結婚するというので連休を取り、久しぶりにこの町に帰ってきたのである。鉄男からは、新幹線内でメールアドレス変更の連絡があり、今そっちに帰るところと返事すると、じゃあ今晩会おう。と、こうなった。卒業以来ずいぶん長い間会っていなかった。
 午後七時、我々は中学校の近くにある小さな居酒屋で待ち合わせた。近況報告をするうち、もうすぐ別れるかもしれない僕の恋人の話になり、鉄男の現恋人というべきか、同居する未来女の話になった。

「同棲っていいよな。手料理とか」
「飯を作るのは、俺だ」
「え?」
「女は、料理しない」
 へえ。と僕は言った。
「でも、寝る女がいるっていうのは、いいよな」だから今の恋人とも別れがたいのだった。
「寝ない」
「え?」寝ない?「したあと、一緒には眠らないってこと?」
「違う」鉄男は首を振った。たくましい、太い首である。「しないんだ」
 どういうことだそれは。絶句しそうになるが、何とか言葉を見つけ、訊ねる。
「彼女は一体毎日何してるの」
「何もしない」鉄男は答えた。

 女は、何もしない。外に出かけることもないし(数日で出て行くんじゃなかったの、思わず口を挟んだが、鉄男は首をすくめるのみだった)、あまり喋りさえしない。家では俺のTシャツと短パン姿で過ごし、未来服およびヘルメットは押入れ前にきちんと畳んで置いてある。女は可愛い。そして、淋しそうだ。最近、何か動物を飼ってやろうかと検討している。うさぎとか、どうだろう。

 鉄男お、と僕は泣きたく思った。大丈夫か、鉄男。僕たちの頼もしい、鉄男。どうしてしまったのだ。
「騙されてるんじゃないか」
 意を決して言ったというより、ついこぼしてしまったという方が、正しい。一瞬ひやりとしたが、鉄男は怒りも驚きも悲しみもしなかった。
「さあ」と鉄男は答えた。さあって……。
「未来人じゃなくても現代人でも宇宙人でも、何でもいい。ただ、可哀想なんだ」
「かわいそう……」
「それに、あの、ヘルメットが不思議でな」
「不思議?」
「合成樹脂なんだろうが、こう、つるんとしていて継ぎ目がないし、薄い割に固くて丈夫そうだ」
「特注なんだろうか」
「未来は空気が汚いが、それを被ると呼吸できるらしい」
「濾過するのか」
「そういうことだな」
「合成樹脂なのに」
「もっと高度な新素材なのかもしれん」

 今度、それ見せてやるよ。別れ際、鉄男は言った。
 それから半年が経ったが、鉄男とは、あれから一度も連絡は取っていない。
 恋人とは、数ヶ月前に別れてしまった。鉄男と例の彼女はまだ一緒に暮らしているのだろうか。うさぎは、飼ったのだろうか。二人の間に、進展はあったのだろうか。
 彼女がどこからやって来たのであれ、二人が幸せであればいい。彼女が被って来たという、まるくて透明で、つるんとしているという未来のヘルメットを頭に思い浮かべながら、僕は思った。【了】


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このストーリーに関するコメント

14/07/25 草愛やし美

suggino様、拝読しました。

未来から来た彼女の持っている、まるくて透明で、つるんとしたヘルメットが、空気を濾過するって凄い発想――ほんとに、不思議なお話ですね。それに、加えて、何とも奇妙な関係の二人。作者独特の世界に入り込んで浸っているのが気持ち良いなあと感じました。

彼氏の鉄男君自身も現代にいながら、少し厭世的な人柄で、未来人の彼女とうまくいきそうですね。今風の僕は、彼女と別れても、きっと未来を見据えた鉄男君たち二人は、うまくいっているはず──不思議なお話、とても面白かったです。

機会ありましたら、ここから先の続きのお話も見てみたいなあと願います。

14/07/26 suggino

》 草藍さま

コメント、ありがとうございます!
なにぶんSFは不得手なので(でも憧れはあります)、嬉しいお言葉をたくさんいただき、いますこしほっとしています。
鉄男はいいですね。厭世的といわれれば、たしかにそうかもしれません。でも、きっといいやつだと思います。機会あれば続編じゃないですが、関連性のあるべつの話を書いても愉しそうだなと、草藍さまのコメントをみて、いま思いました。うさぎも飼わしてやりたいです。

14/07/28 かめかめ

へんなかんじでもにょもにょして居心地良かったです

14/07/29 suggino

》 かめかめさま

へんなかんじでもにょもにょして、というのがよかったです。
居心地がいいというのはたいへん嬉しい言葉ですね。これからも意識してゆきたいです。
素敵な感想、ありがとうございました。

14/12/29 たま

sugginoさま、拝読しました。

ストーリーにはあまり起伏はないのですが、不思議と引き込まれてしまいます。いいですね、この感じ。小説の不思議っていうのでしょうか、鉄男がすばらしいですね。とっても(旨み)のある現代小説だと思いました。
ぼくの「散文の海へ」にコメントをありがとうございました。今ごろ気付きました。ごめんなさい(汗)

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