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三条杏樹さん

好きなものを好きなときに。

性別
将来の夢
座右の銘 人間だもの。

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ななころび

14/07/21 コンテスト(テーマ):第三十六回 【 自由投稿スペース 】 コメント:1件 三条杏樹 閲覧数:978

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またこの夢か。

毎晩見る夢。しかし俺はこれが夢だとわかっている。明晰夢とかいうやつか?これを自分ができるなんて思いもしなかった。
それにしても汗臭い。夢なのだから、もう少し清潔感溢れる自分がいてもいいじゃないか。

この世界の俺は常にベッドに横になったまま。動かなければ、と思うのに、どうしても眠くて起き上がることができない。それなのに、意識はある一点に向かっている。

風呂場。

狭いアパートの中。シンクの横の扉をじっと見つめる。
あそこは行きたくない。それなのにどうしても気になってしかたがない。
考えたくもない。でも視線はそちらへ向かう。

苦しい。



「・・・・なんだ、夢か」
ここ最近連日で見るこの夢は気分が悪くなる。疲れているのかストレスが溜まっているのか。どちらにしろもうごめんだ。

クローゼットからシャツとジーパンを取り出し、いそいそと着替える。
ふと目に入った風呂場の扉。夢の中では気になってしょうがなかったそこを、思い切って開けてみた。

「なにもないじゃん」

やっぱり関係なかったか。
アパートを出ると、空は曇天。憂鬱な天気だ。




「どうしてそんなに暗い顔なの?」
「あれ?」
気が付くとバイト先のコンビニだった。白髪まじりの店長が横にいる。
「俺、いつきました?」
「さっき来たじゃないか。ぼけたのか?」

俺より先にボケるなんてなあ。
店長は笑いながら頭をかいた。

「店長、客いないですね」
「そりゃそうだよ」
「どうしてですか」

店長はまた笑った。ここのコンビニは業績はそんなに悪くなかったはずだが。
「どうしてですか」
再度問い詰める。店長は口を開いてぱくぱくと動かした。
「店長」
「君みたいに若い子が羨ましいなあ」

俺の話を聞いていないのか。聞く気がないのか。
客は来ない。レジに二人並んで、俺は店長の話を聞いた。

「人生いくらでもやり直せるもんなあ」
「俺はやり直せません。就職にも失敗して三十にもなってフリーターですからね」
「まだ若いよ」

にかにか笑う店長の口がぴたっと閉じる。急に真剣な顔になるものだから。思わず身構えた。
「まあ、でもそうかもね。嫌いな人ひとりいるだけで人生って気持ち悪くなるよね」
「あの、すいません。さっきからなんのお話ですか?」
「嫌いな人いないの?」
「・・・いますよ」

女の顔が浮かんだ。
俺がどうしても欲しくて欲しくてたまらなかったものを持っている女。

「君って漫画家目指してたよね」
「ああ、もう諦めました。その話やめてください」
「同級生だった女の子に先越されたんだっけ」

頷く。やめてほしいのに、どうしてこの人はほじくり返すんだろう。

「やーだねえ。君みたいに真面目な人間がいくら努力したところで才能には勝てないんだもんね」
「やめてくださいって。わかってますから」
「君の気持ちは痛いほど分かるよ」

不思議だ。いつもなら店長は仕事中にバイトとおしゃべりすることなんてなかったはずなのに。今日はよくしゃべる。しかし依然として客は来ない。

「やっぱり誰もこないね。休憩していいよ」
「はい」

やっぱり?
店長の言葉に引っかかりつつも、スタッフルームに戻った。
休憩といってもたいして疲れてもいないし、暇だ。

目を閉じた。





見慣れた天井。
横たわった体。汗臭い体。油汗が滴る顔。
この夢は嫌いだ。疲れるし、何よりこの夢の中にいる間は得体のしれない不安が消えない。
「早く、覚めねえかなあ」

この部屋は妙に暑い。それに、臭い。体臭だろうか。
「ああ・・・くせえ・・・」





目が開いた。横に、店長がいる。
「店長、俺とうとうぼけたんですかね」
「どうしたんだよ」
「だって、さっきスタッフルームにいたのに、俺、寝てたのに・・・」

そういえば、どうしてここにいるんだろう。

「俺、どうしてここにいるんですか」
店長は笑っている。
「俺、バイトなんかしてない・・・コンビニバイトなんかしたことないのに」
「森川さん」
「はい?」
「森川さん!」
「おい・・・なんだよ」




「森川さん!!いるんでしょう?」

体が跳ねた。玄関のドアを激しく叩かれ、インターホンが何度も押される。
機械音の鐘の音と、男性が俺を呼ぶ声が聞こえる。

「開けてください。警察です」

部屋が臭い。小蝿が飛び回って、扉の隙間から風呂場へと入っていった。一匹、二匹、三匹・・・


「ああ・・・こっちが現実だったのか」


せっかく逃げ切れそうだったのに。



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このストーリーに関するコメント

14/07/26 草愛やし美

三条杏樹様、拝読しました。

ああ、そっちが現実だったんですか。オチになってようやくわかりました。

巧いですねえ、持って行き方が上手くて、まんまと嵌まりました。一気に読み、見事に嵌められて、大変面白かったです。

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