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佳麓さん

名前は『かろく』って読んで下されば。 2000から始まるカウントダウンが恐ろしい。 硬いのとバッドエンドは苦手です。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 思ったが吉日。 今日やれる事は明日でもやれる!

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ほたる 

14/07/17 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:0件 佳麓 閲覧数:1081

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 昔、私は蛍と約束をした。
『毎夜歌って?そしたら皆で光るから』
 星の煌めきと木々の吐息、蛍達のリズムに中てられた幼い私は、何の迷いもなく頷いた。
 深い森を掻き分けて大きな空色の湖に立つと、大勢の蛍達が出迎えてくれる。私の歌に合せて光を放つ。まるで気分は蛍姫。

(天の星を水面に移す 瞬くさざ波 踊る月
  森の呼吸を薄羽で捉え ふわりふわりと弧を描く)

 蛍の光は恋の色。私もつられて恋をした。
 同い年の男の子。二人だけの秘密だよ?そんな魔法の言葉を紡ぎ、深い森へといざなった。
 湖のほとりは私の舞台。蛍の姫は、恋の歌で今を謳う。
「お前スゲーじゃん!」
 雲を通して微かに射し込む三日月の導を見失わないようにと、しっかり握った汗ばむ手。キラキラひかる瞳に上気した頬。賞賛と興味の熱がお姫様を綺麗にしていった。

 だけど相手は男の子。
 蛍のタクトに星のコーラス。飽きさせないようにと少しずつ書き換えていった恋の歌は、鉄の鎖にも蜘蛛の糸にもなり得なかった。
 友人。私がどれだけ望んでも手に入らない君の隣。友達と一緒に遊ぶ時間は蜜よりも甘い。
 男の子の視線は次第に遠くなっていく。

(甘く奏でる幼子の歌の 甘い水とは誘い水
  安寧の籠を求めぬ光は ひらりひらりと躱しゆく)

 歌う目的が変わった。叶わなかった恋をみんなに託す。
 夜毎重ねられる歌は、次第に魔法へと変化する。
 春夏秋冬、一年中恋をする蛍達。星の数ほどの恋は全て愛へと昇華して、湖から悲恋が消えてゆく。
 昼夜逆転するリズム。お姫様の体は食べ物を必要としなくなっていた。甘い水だけで命を繋ぐ。
 それでも、私はその魔法に満足していた。

 私が大人になる頃、文一つ無く追憶の中の王子様が訪ねてきた。
「毎日君の歌が聞きたいんだ」
 欲という温かさ。見覚えの無い色を含んだ眼差しに、大人びた声。心の奥底に隠していた宝箱は、独りでに開いていった。思い返せば、鍵を掛けたのは私じゃないもの。鍵は無くしたと思っていた。
 大人の恋に、私の心は触れられない程の熱を帯びていった。
 慣れない火遊び。慣れた指先。少女のようにはしゃいで溶ける。
 立ち昇る陽炎が私の瞳を欺いた。

(恋の魔法は夜に輝き 夜風に揺れる半夏生
  貴方の影が霞んで消えゆく いずこいずこと一滴)

 反故にされていた幼い秘め事。
 気が付いた時には、湖の畔にマンションが建とうとしていた。
『一年中蛍が見えるマンション』
 驚いて振り返ると、影は一人分しかなかった。

 完成したマンションの初めての行為は、王子様とマンションのオーナーの結婚式だった。

 次に太陽が昇った日。王子様は私のもとで地面に額を付けて、泣いて見せた。
「これからも歌ってくれ」
 私は強がる。
「別に貴方のために歌っていたわけじゃ無いわ」
 王子様の罪滅ぼしが始まった。

 湖に一番近い最上級の檻。部屋の中には植物が溢れ、水が溢れ、蛍が溢れていた。私の願いは全て叶っていく。私の望みはただの一つも叶わないくせに。

 月が昇る頃目覚める私は、今も歌を歌っていた。
 開け放した窓から聞こえてくる感嘆の声が、向こう岸にも金の成る樹を建てさせる。
 無粋な怪獣が大地を砕き、大気を揺さぶり、水の流れを侵してゆく。

 それでも蛍は飛び続けた。私の歌に応えるために。
 それでも私は歌い続けた。皆の恋を叶えるために。
 それが約束。奇跡の魔法(のろい)。
 
(光に惑い 流れに揺らめき 合わせる音律 夏の夢
  儚い夜を共に刻もう おいでおいでと腕の中)

「いい歌だね」
 初めて歌を褒められた。
 深紅の瞳。長い牙。人か獣かに迷う匂い。何よりドアを通らず、窓辺に腰を掛けている時点で、この少年は人では無いんだろうと思った。でも、それを言ったら私だって人の枠からはみ出てしまったモノ。
「何のご用でしょう?」
「呪いを解きに来たんだ。ついでに君の心も解こうかなって」
「……そっちがついでなのかしら?」
「そう。君はそろそろ自由になってもいいと思う。自由に羽ばたいた先で僕の肩に止まってくれるのなら、今度は僕が囲ってあげるよ」
 闇の中で輝く瞳に、甘く香る誘い水。
「そのためにはもう少し僕の事を知ってもらわないとね。そんな訳で、逢い引きの申し込みに来たんだ」
 空が色を変えようとしていた。
「それは残念ね」
「うん?」
「もう夜明けだわ」
 少年は弾けて、広がった。
「待って。カーテンは閉めていって」
 窓から空へと飛び出しかけた蝙蝠たちが戻ってきて、小さい羽で頑張ってカーテンを閉めてくれる。
 また来るよ。そんな声が檻に響いた。


 貴方が私を光らせてくれるのなら。


 その夜の歌は、少しだけ熱を帯びていた。少しだけ――

 


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