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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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楽園のシーツ・チルドレン

14/07/17 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:12件 クナリ 閲覧数:1249

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大陸の端に、寂れた街があった。
昔の塹壕と川が繋がって水路となっており、縦横に街中を走る為、農地化も難しい。
廃墟同然の家々は公然の子捨て場所となっており、近隣からの孤児が多く住みついていた。
「俺ら、シーツ・チルドレンて言うんだってよ。金無くてシーツを服にしてるから」
キイルリが言うと、シュロが笑った。
共に十五歳。二人でこの街の孤児を束ねている。
「金が欲しいな。俺、ここを孤児の楽園にしてえんだよ」
「水路で、舟遊びでも商う?」
「俺達の唯一の娯楽は歌だ。舟と組み合わせて、商売出来ねえかな」
「歌と水の楽園か。いいね」

客は水路を舟で下り、孤児達は岸に並んで歌う。そんな事業が始まった。
歌う者はシュロの下練習を重ね、舟遊びの順路はキイルリが徹底的に整備した。
お披露目には孤児支援家を西の都から呼んた。
陽光溢れる船上で聴く歌の評判は上々。たちまち、都からの客が増えた。
小金が貯まると馬車を揃え、都への送迎を整えた。
茶や酒、蝋燭を仕入れて設けた、夜の幻想的な賛美歌会も当たった。
濡れると爆発する水火薬を仕入れ、水路の拡張も行った。
街は、みるみる充実して行った。
商売ごとになど慣れない子供達は、キイルリに叱られ、シュロに泣きつきながら、不器用ながらも必死に働き回って笑い合う。
街は、彼らの無二の居場所となって行った。

ある日街に、貴族院からの依頼状が届いた。
護衛兵団の慰安の為に、一晩貸切で歌って欲しいという。
指定の日は三日後。
生憎シュロは買付で都へ出ており、七日は帰らない。
キイルリはその夜、孤児を集めた。
その時にはもう、貴族院の本意を察して全員が覚悟を決めていた。

当日の日暮れ、三十人程の兵士が分乗した舟が幾艘も漕ぎ出た。
水位がやや、普段より低い。
孤児らが歌い出して間もなく、同船していたキイルリに兵団長が言った。
「悪くない。設備も歌手も一新して、貴族院がここを管理する」
船上の兵達が、携帯ボウガンを手に一斉に立ち上がった。
キイルリは岸へ飛び移り、
「金の匂いがすりゃ、お前らってそうだよ。ここは死ぬまで俺達の街だ。故郷になっちまってるからな」
そう言って口笛を高く鳴らす。
それを合図に上流の水門が開き、大量の水が唸りを上げて水路に押し寄せた。
貴族院に目をつけられた時、この街の命運は決まった。
つまらぬ孤児など、貴族院は当然に皆殺し。それが大陸の不文律だった。
生きる為には逃げるしかない。
なのに、殲滅を覚悟で戦う。
何の為に。
孤児達が、両岸から投網を放って船上の兵に被せた。
「そこら中で、死屍累々をやって来た報いを!」
兵達は、次々と溺れた。
岸に這い上がろうとする兵は子供達が棒で突き落とし、水路は悲鳴と怒号で地獄絵図と化す。
「手も足も出せないのは悔しいだろ、悲しいだろ、俺達だって!」
そう叫んだキイルリの耳が、不可解な音を拾った。
それは大勢の、大人の足音。
「我らの別動隊だ」
声に振り向くと、水から這い上がった兵団長が、ずぶ濡れで立っていた。
駆け付けた部隊が次々にボウガンを放つ。
今度は、孤児達が一方的に討ち果たされて行く番だった。
キイルリが駆け出す。
「首謀者だ、捕えろ!」
あらかた子供を殺し終えた兵達が、キイルリへ殺到して行く。
キイルリは裏街道の大倉庫へ逃げ込んだ。
兵団長を先頭に、二十人近くが続いて飛び込む。
暗い倉庫の中で、少年が叫んだ。
「俺達はきっとやれたぞ。お前らには、楽園が見えるか!」
そう言うが早いか、夜目を利かせたキイルリは右手を兵団長の口に突っ込む。
そして、握り込んでいた、水火薬のサンプルが入った薬包紙を指先で開いた。
唾液に反応した水火薬が、兵団長の頭部とキイルリの腕を爆破する。
「この俺達の街で負けはしない! シュロ、俺達は負けない!」
既に口を開かせていた水火薬の大袋の中に二人の血がかかると、凄まじい音と熱が、倉庫を爆砕した。

孤児の大半は兵団と入れ替わりに馬車で逃げており、彼らは西の都でシュロと合流して事の顛末を伝えた。
「キイルリは確か、以前二度程、貴族院による町ごとの掃討を受けた。残った他の子供達も似たようなものだ。無理矢理踏みにじられるのは、もう許せなかったんだろう」
シュロがそう言っても、逃走組は皆泣きながら逃げた自分達を責めた。
「泣くなよ。キイルリ達と君達と、どっちかが間違いなんてことは、ないんだから……」
彼らの頭を撫でながら、シュロもむせぶ。

西の都では、景観維持の為にシーツを屋外に干すことは出来ない。
だがその時偶然、傍の安宿の二階で、女将がシーツをはたいているのが見えた。
青空に翻る布が、跳ねっ返りの少年を思い出させる。

また遠くなってしまったけど、それでも目指す未来は、楽園だろう。

だからまだ一緒さ、とシュロは思った。


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このストーリーに関するコメント

14/07/17 クナリ

自分がこちらで不定期に続けている、『歌と水の街』というシリーズです。
他を未読でも、読めるように書いたつもりです。
この後街は貴族院によって整備され、全ての機能を拡充して一大観光都市となって行きます。
それはまた、別の物語。

14/07/18 泡沫恋歌

クナリ 様、拝読しました。

ああ、こんな悲しい過去が『歌と水の街』にあったんですか。

懸命に生きる孤児たちにエールを贈りたい気持ちです。

14/07/19 かめかめ

由来がこんなに苦しい話だから、歌と水の街には悲しい話がおおいんでしょか

14/07/21 クナリ

泡沫恋歌さん>
コメントありがとうございます。
こんなヤなことがあったのでした。
業深き土地で、困ったものです(おい)。
最後の最後には、希望が残る様な土地になるといいんですけども。

かめかめさん>
コメントありがとうございます。
悲しい話が多いのは、単にこの街の歴史の中の「どこをどう切り取ってお出しするか」という書き手のセンスによるものであるかと思われます(^^;)。
もっと前向きというか、希望あふれる人物のエピソードを切りだせればいいのですが…。

14/07/26 草愛やし美

クナリ様、拝読しました。

あの続編ですね、でも、何て悲しいことでしょう、うう、(泣き)

いくら頑張っても貴族院には勝てないのですね、それでも、未来を目指す彼らの強さ、切ないけれど逞しい。たぶん、そのように生きてきたし、そのようにして、生きるしかないのでしょうが……。

孤児達の未来に、楽園が来ることを、読者のひとりとして祈らずにはいられません。

14/07/29 クナリ

草藍さん>
ありがとうございます。
まあ、相変わらず救いの無い街です(^^;)。
黎明期からこんなんかい、と。
強大すぎる相手に、瞬間的な燃焼で燃え尽きてしまうような抵抗でも、その後に続く誰かに受け継がれていくなら、意味はあるのかな…と思いながら書いてはいますが。。。

彼らの犠牲が報われるような街に、いつかなるといいんですけどね(←他人事のように)。

14/08/02 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

キイルリ、どこかで生き延びているんではないでしょうか……。
とっさに秘密の地下室に潜り込むとか。そうしてください。(笑い)
孤児たちの行く末がいつかほんとうの楽園でありますように!

14/08/02 クナリ

そらの珊瑚さん>
…。抜け穴とか地下室。
ぜんぜん考えもしませんでした…(お前…)。
思いついていれば、何らかの形で盛り込めたかもしれませぬ…。
逃げ延びた子供たちは、それなりに幸せになる…と思います。たぶん。たぶんかい。
コメント、ありがとうございました!

14/08/05 夏日 純希

拝読いたしました。

キイルリは気高いですね。
それだけに生き抜いて欲しかったです。
気高いまま、生き抜くって、難しいですね。

14/08/07 クナリ

夏日純希さん>
コメントありがとうございます。
見ごたえのある人々の人生を、切り取ってごらんいただけたら…と思っています。
できれば、悲劇的でない人生のほうがよいのですが(^^;)。



14/08/11 光石七

「episode 0」ですね。
こんな過去があったとは……
兵との戦いのシーンに息を呑みました。
未来は楽園、そうなってほしいです。

14/08/11 クナリ

光石七さん>
そう、かっこいく言えばそれです、エピソードゼロー。
願われたことは、実現しうるのだ…と信じていたいのです。
だってたいてい、世の中って良くない方に流れるんだもーん(もーんて)。
数少ない奇跡が起きたとき、それを願った誰かが必ずいるのだろうな…というのを忘れずにいたいものです。

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