メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 知足。悠々自適。日々新た

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夜道

14/07/16 コンテスト(テーマ):第六十一回 時空モノガタリ文学賞【 夜に光る 】 コメント:3件 メラ 閲覧数:1210

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 疲れた。今日も。疲れた。なんでこんなに忙しいのだ。マジでブラック企業だよウチ。
 俺はそんなことを考えながらクソ満員の西部新宿線の最終電車に揺られていた。
 サービス残業。クレーム処理。手柄は独り占めにし、ミスは部下のせいにする課長。カットされたボーナス。慢性的な人員不足。そんな会社に誰も入るわけない。
 やっと最寄駅についた。急行の止まらない小さな駅。パラパラと電車から人が吐き出される。俺みたいなスーツ姿の男。飲み会帰りの学生風の若者。しかし、自信を持って言える。お前らの誰よりも俺は今疲れている。
 駅前のロータリーは閑散としている。駅前に商店街というレベルのものは無いが、酒屋とか金物屋とか、こまごました店のシャッターは当然閉じている。駅前だというのに、北口にはコンビにもない。
 それにしても今夜は益田のバカが初歩的なミスをしていたせいで、こんな遅くなってしまった。発注数を一桁間違いやがって。て言うかもっとアホな課長が最初の書類を提出した時にその時に気づけよ。課長もさんざん益田を怒鳴りつけやがったが、完全に自分の事を棚に上げてやがる。
 あーあ、マジでこんな会社辞めちゃおうかな。その前に課長一発ぶん殴って・・・。
 ん?。
 俺は最高に不愉快な今日一日の出来事を思い出し、憤慨しながら家に向かって歩いていた。眠らない街、東京。しかし、練馬区の住宅街は完全に寝静まっている。
 そんな閑静な住宅街を歩いていたのだが、十メートルほど前にも一人、女の人が歩いている。それは知っていた。目には入っていた。人くらい歩いていたって珍しいことではない。ただ、俺んチと同じ方向なんだなと、角をいくつか曲がってからぼんやりとは思ったような気がする。
 彼女の様子がおかしい。明らかにキョドってる。
 ちらちらとこちらを振り返り、携帯電話を手に持っている。
 え?ひょっとして、俺?
 俺は後ろを振り返る。通りには誰もいない。まさか、俺を痴漢かなにかと間違えてんの?
 確かに同じ道筋だった。暗がりの道で、俺が後を付けて来てると勘違いしているのかもしれない。
 いやはや。どんだ最悪の日だ。散々苦労した一日の終わり、変態に間違われるなんて。なんなら本当にレイプしたろかコラ!
 なんてするわけなく、俺は考える。少し距離を置くべきか。思い切って追い抜くべきか。家までの道のりはまだ半分。家賃は安いが、駅から徒歩二十五分の距離はかなりしんどい。
 早く帰ってネットでも見て、風呂に入って寝たい。なんせ明日も早い。明日は朝から業者に益田と一緒に菓子折り持って謝罪だ。考えただけでうんざりする。はあー、行きたくねえ。
 俺は速度を速める。あんまり真後ろから迫ったらそれこそ誤解を生むので、俺は通りの反対側から彼女を追い抜こうとスパートをかける。本当は高校時代陸上部で鍛えた足で、とっとと走って抜き去りたかったのだが、いきなり走るのもヤバイっしょ。冤罪とか怖いしね。
 通りの反対側、と言っても車二台がやっとすれ違える程度の通り。後ろから早歩きで迫る俺に、彼女は肩を硬直させているのが分かる。しかし、そのおびえた後ろ姿がなんともそそるというか、萌えるというか・・・。いかんいかん、何を考えているんだ。マジでレイプで捕まるぞ。
 距離が縮まる。彼女は斜め後ろの俺をチラ見してから、ケータイを耳に構えた。モニターが光っている。暗がりに携帯電話の光は結構目立つ。大丈夫。俺はいたって健全な二十八歳、独身。彼女なし。帰ってオナニーして寝ますから。あなたを押し倒したりしませんから。
 でもどんな顔してんだろ?
 髪は肩くらいまで。ストレート。黒髪。痩せている。細身のデニム。足が長い。うーん、後ろ姿美人コンテストなら上位。
 俺は緊張して強張っている彼女の横を通り過ぎる時、顔を覗く。いや、気になるでしょ?悪気はないよ。下心も・・・あまり、ない。大丈夫。男の下心の大半は達成されないのだ。この年になってそれが分かった。
 突然、目の前がまぶしくなった。強烈なストロボのような光が俺に向けられ、俺は思わず目を閉じる。そして誰かが目の前にやってきて「ハイヤァ!」という女の掛け声が聞こえた。それと同時に俺の股間に、何かが猛スピードで激突した。
「・・・!」
 悶絶。息が止まる。言葉は出ない。
 股間を押さえて無様にうずくまる。暗闇の中で後姿美人が走り去るのが見える。その一瞬で俺は何が起こったのか理解はした。
「ご、護身術?」
 誰ともなく、俺は呟いた。
 ブラック企業に勤める、ブラックな俺。ブラックな一日。あんな会社、ぜってえ辞めてやる。
 
 
 


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このストーリーに関するコメント

14/07/18 泡沫恋歌

メラ 様、拝読しました。

いや〜気の毒というか、散々な一日でしたね。
何だか、この主人公君の可哀想な状況に感情移入しちゃいました。

ブラック企業で無能な上司の下で働いてること自体ケチの付き始めでだから、
この際、転職でもして運勢変えた方がいいかもです。

大昔だけど、西武新宿線の下井草という駅に半年くらい住んだことあります。

14/07/19 メラ

恋歌さん、コメントありがとうございます。
ブラック企業。多いですよね。私もプチ・ブラックな会社に勤めていた事があります。今の時代多いのでは。
下井草!懐かしい。私はその三つ先の武蔵関という駅に三年ほど住んでいました。

14/07/27 光石七

拝読しました。
いやはや、何ともお気の毒な……。でも笑ってしまいました。

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