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タックさん

何を書いても平凡なのが悲しい。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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透明の願望

14/07/14 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:2件 タック 閲覧数:1223

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 これで、終わり。これで、ぜんぶ終わったわよ。アナシア。

……きついとか、ない? おかしかったら、言ってね?……ふふ、だいじょうぶ? いい子ね、アナシア。さすがは、ママの娘だわ。ママに似て、とってもお利口さん。これで、だれがどこから見ても、おかしいなんて言わない、素敵なお顔よ。自信もって、みんなの前に出られるわ、アナシア。
 みんな、きっとビックリするわよ。こんなにかわいい子がいたのか、なんて言って、みんながアナシアのこと、忘れられなくなるかもしれないね。そうなったら、ママ、とってもうれしいな。アナシアのこと、村の人たちだけじゃなく、全世界の人たちに知ってほしいもの。……ふふ、想像してごらん? 楽しみよね? アナシア。……うふふ。


……あら、アナシア、さわっちゃだめよ。せっかく、準備したんだから。……ほら、落ちちゃった。窮屈なのはわかるけど、ちょっと、ガマンしなきゃね。ほら、こっちきて。……はい、ママにお顔向けて。ジッとしてね。……ああ、動かないで。うまくできないわ。もう少し、静かに、アナシア。……うん、そう、ピタッとしててね。……はい、元通り。もう、だいじょうぶよ。だいじょうぶだけど、さわっちゃだめ。ママ、不器用だから、けっこう直すの大変なの。だから、ジッとよ。アナシア。もう少しで、はじまるから。終わったら、取ってもいいから。それまで、ガマン。ガマンできるわね、アナシア?……あらら、泣いちゃだめよ。みんなに見られるの、突然で、怖いのね。……ほら、こっちおいで。ママがぎゅっとしてあげる。そしたら、怖いのもどっかに飛んでっちゃうから。……いい子の、アナシア。こう、思ってごらん。アナシアのそばには、ママだけじゃない、神様もついてくださっているの。こんなにかわいいアナシアだもの。……こんなに苦労してる、ママと、アナシアだもの。きっと、幸せはみんな公平にいただけるはず。今まで大変だったぶん、今度は神様も、きっとアナシアを応援してくださる。……きっと、ママにも、幸運が、おとずれる。……そう思えば、頑張れるでしょ? あなたは、ママの自慢の娘なんだから。私の、ただ一人の、天使なんだから。


……ねえ、アナシア。あと少しで、あなたのことを世界中のみんなが見てくれる。世界中のテレビや本に、あなたのお顔がきっと載ることになるの。そうしたら、きっと、……パパも、アナシアのことをどこかで見て、……ちゃんと、帰ってきてくれるわ。ああ、パパにはこんなに愛しい娘がいたんだって、パパには、愛するママがいるんだって、……そう、気づいて、パパはきっと、この家に帰ってくるの。
 
 そうしたら。アナシアが、ママとパパに幸せを運んできてくれたら。こんな村は出て、もっと、いい町で暮らしましょう。ママ、もうパパとケンカもしないし、お金も、ちゃんと、あって、貧乏じゃなくなるはずだから、今度はうまくやっていける。……ママの幸せは、アナシアの幸せ。アナシアの幸せは、ママの幸せ、でしょ? 

 アナシアは、ママたちに幸運をもってきてくれる。アナシアは、ママたちにとって、女神様なんだわ。……ママの、宝物、アナシア。……ほら、ガヤガヤガヤガヤ、聞こえる? もう、みんな来てくれたみたいね。アナシアを見に、アナシアを世界のヒロインにするために、みんながこの家に来てくれたのよ。……さあ、おとなりのお部屋にいきましょう。……怖くなんて、ないわ。もう、やるしかないの、アナシア。……そのために、ママは頑張ったんですもの。アナシアのために、ママは、一生懸命、頑張ったんですもの。……ほら、行きましょう。泣いたら、かわいいお顔が台無しよ、アナシア。……痛い?  そんなの、幸せを思えば、なんてことないでしょ?…………
 
 
 
 狭い一室に輝く、まばゆいほどのフラッシュ。めぼしい家具もなく、壁にもひびの入った貧困の部屋、その中心に、粗末で貧相な母娘が体をすぼめて座り込んでいる。おびえた表情の娘に対し、母親は毅然とした態度を崩さず、充血した目で、集まったカメラの群れを眺めやっていた。
 カメラを構える、多数の瞳。よどんだ瞳に映る、好奇と、嗜虐心。
 視線の集約する、そのなか、周囲を見まわした母親は、集団の促す声を受け、みなに窺えぬ角度で、娘の背中をそっと押す。
 その合図に、娘の瞳は光り、透明な粒が、白い頬へと流れ落ちていく。瞬間、勢いの増したフラッシュの光明に、母娘は包まれていく。
 娘の目から零れる大粒の――透明な、ガラス玉。
 それは母親が背中を押すたびに押し出されるように排出され、白い光を反射し、床へと乾いた音を立て落下していく。
 その光景を、集団は時に笑み、時に顔をしかめながら、記録へと塗りこみ続け、――少女の苦痛と比例するように、母親の背を押す力は、強くなるばかりだった。


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このストーリーに関するコメント

14/07/19 クナリ

じわじわと不気味さ伝わる冒頭から、サイコな面白さが漂っています。
繰り返される娘の名前が目立ちますが、それに隠れて連呼される自分=「ママ」。
娘に向かって語りかけながら、本当時大事なものは…。
「涙」をテーマとして、涙そのものではないものを眼窩から落として、一言も物言わぬ少女の心情=涙を表現されたということでしょうか。
書かれないことでこそ表される少女の想い。うつむきながら母に背を押されて、延々とゆらめく少女の姿が目に浮かぶようです。
このコメントの時点ではポイントがまだ入っていないことが信じられない良作ですね。

14/07/19 タック

クナリさん、コメントありがとうございます。

ガラスの涙=無機質=少女の抑圧、無情……。そのようなものを茫洋とイメージし、書いたものでありました。もう少し、なんとかできたような感じもしていますが、良作と言っていただき、本当に嬉しく思っています。
ポイントの少なさは、力量不足、思考のずれ、表現の不足によるものだと痛感しています。精進し、もっと良い作品が書ければ……。頑張ります。ありがとうございました。

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