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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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隠れみの

14/07/14 コンテスト(テーマ):第六十二回コンテスト 【 未来 】 コメント:8件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2156

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 さっき店主が打ったばかりの蕎麦を食べながら、平山はいった。
「タイムマシンなんて、できるわけないだろ」
 すると、テーブルの向こう側から、立川が、
「論理的には、必ずしも、不可能じゃない」
「そりゃ、論理でいけば、ブラックホールの穴の底まで楽々、見渡すことだってできるさ」
「平山。僕たちが今空にみるあの星は、ずいぶん過去に光ったものなんだぜ」
「それとタイムマシンは別物さ。もしも将来、本当にそんなものができたとしたら、どうしてただの一度も、そのタイムマシンにのって未来から、だれもやってこないんだね」
 一本とったぞとばかり、平山は、ことさら音をたてて蕎麦をすすりこんだ。
 だが、相手も負けていなかった。
「それはだね、巧みに隠しているからさ」
「タイムマシンの秘密をしられると、まずいと?」
「それについては、僕は思うんだが―――」
 本職は公務員だが、あまりある自由時間をSF小説の執筆についやしている立川は、このやりとりが面白いとばかりに、目をぎらぎらひからせた。
「知られると、当然、いまの人間がタイムマシンを製造して未来に、あるいは過去に旅立つだろう。そんなことはないとはいわせない。人間は、あらゆる可能性に、踏み出していくものなのだ。―――そうなるとまちがいなく、未来は変わってしまう。タイムマシンが今の時代に登場しそれが発覚することじたい、すでに大変化なんだからね。タイムトラベラーには、法的な厳しい規制があって、未来を変えるような行為に対しては、厳重な罰則がもうけられているとみてまちがいない。古典SFのように、タイムパトロールみたいなものが存在して、つねに監視していることだってじゅうぶん考えられる」
「だから、どうだっていうんだ」いやに長い前置きにうんざりしたように平山はいった。こんなだから、公募には出してもせいぜい佳作どまりなのだとは、さすがに口には出さなかったが。
「だからだね、実際にタイムトラベラーが目の前にいたとしても、我々には絶対にわからないような、隠れみのを用意しているんだよ」
「いったい、どんな隠れみのだ?」
 平山は、創業百年がうたい文句の手打ち蕎麦屋の、古色蒼然とした店内をみまわした。
 奥の座敷には、年長者をとりかこむようにして親子五人が、さかんに蕎麦をすすっている。づるづるという音が、こちらの席にまできこえてきた。また手前には夫婦ものが、これは天ぷら蕎麦か、箸のさきに天ぷらの衣をはさんで、ふうふういいながら食べていた。
 平山たちのいるテーブル席の隣では、男客がタバコに火をつけたところ、店の者から全席禁煙ですと注意された。その向こうの席では、ビールの空き瓶を三本ならべた女が二人、赤い顔をのけぞらせるようにして笑いあっていた。
「すくなくともここには、タイムトラベラーはいないようだね」
 皮肉をこめていう平山に、立川のどこか見下げたような視線がかえってきた。
「きみのような人間なら、いとも簡単にだませるんじゃないかな」
「わるかったな」
 さすがに、気分を害したのか、そっぽをむく平山だった。だがすぐ、気心の通じ合った者同士、笑顔になって、
「案外、きみなんかが一番、怪しい口じゃないのか。いま一瞬、顔色が変わったみたいだが………きみは公務員で、月の三分の一は、年次休暇をとっているっていうじゃないか。その休暇中は未来に行っていて―――ははん。それこそがきみのいう、隠れみのというやつだろう。あっ、きみの書いてるSF小説っていうのももしかしたら、本当の未来を描いているんじゃないのか。リアリティはあるけど面白くないとの、審査員の評価が、そこいらの事情を言い当てているじゃないか」
 いったん疑いだしたら本当に、このなんでもないような公務員の立川でも、いっぱしはるかな時代からきた未来人に思えてくるからふしぎだった。
 未来を変えないために、自分の正体をかくすあまり、この時代の仕事に就き、所帯をもち、年金を払い続けている―――そこまで考えたらさすがに、平山はおかしくて笑い出した。
「なにを笑っているんだ」
「いや、なんでもない。未来人の話、結構、たのしめたよ。こんどは蕎麦屋じゃなく、飲み屋で続きを話し合いたいものだ」
 たまたま街ででくわした二人だった。土曜の昼下がり、店を出ると二人はまたべつべつに歩きはじめた。
 かれらが出ていった蕎麦屋の店内が、そのころ、変化をみせはじめていた。壁がだんだん新しくなっていき、梁に、天井にこびりついていた黒い煤が、みるみる消えていき、出汁のにおいがこびりついた厨房も、蕎麦を打つ場所も、なにもかもが、みるみる真新しく変わっていった。
 それまで蕎麦をたべていた客たちは、タイムマシンが百年まえの時代に到着したのをしって、好奇心に顔をかがやかせながら、おもむろに立ち上がった。



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このストーリーに関するコメント

14/07/14 イノウエヒロト

拝読しました。
なるほど、建物自体がタイムマシンだったのですね。
虚をつかれてなるほどと思いました。
楽しかったです。

14/07/14 W・アーム・スープレックス

イノウエヒロヒトさん、コメントありがとうございました。

最初は聞き手の平山を未来から来た人間にしようかとも考えていたのですが、それでは月並みですので、考えた末、老舗の蕎麦屋そのものをタイムマシンにしてしまいました。人を食った話ですが、楽しんでいただけて、うれしいです。

14/07/14 W・アーム・スープレックス

イノウエヒロト様

お名前をまちがってしまいました。大変申し訳ありません。

14/07/15 草愛やし美

W・アーム・スープレックス様、拝読しました。

オチがこうなるとは、全く思いつきませんでした。さすが、スープレックスさん、唸っちゃいました。ネタバレなるので、コメントはここまでに……、面白かったです。

余談ですが、今日の昼は蕎麦を食べました。茶そばと信州そばの二種の乾麺を茹でておろし蕎麦にしました。お出汁も作ったものに、市販のめんつゆを混ぜてます。結構、美味しいと自画自賛してます。でも、専門店にはかないませんけどねえ。苦笑 実家がうどん屋だった私は、麺類が大好き、蕎麦美味しいですよねえ。と、こんな関係ないこと書いちゃった。ヽ( ´∀`)ノ

14/07/16 W・アーム・スープレックス

草藍さん、コメントと蕎麦談義ありがとうございました。

私も麺類、とりわけ蕎麦は好物で、遠くにうまい店があるときくと、でかけていくほどです。一度、草藍さんの手作りの逸品を、ごちそうになりたいものです。ちなみ私の好きなのは納豆蕎麦で、やはり大根おろしと刻み沢庵をいれ、ワサビを忘れずに………長くなりますので、またの機会に。

14/07/19 かめかめ

蕎麦屋型タイムマシン。猫型ロボットにもひけを取らない奇抜さですね

14/07/19 W・アーム・スープレックス

かめかめさん、コメントありがとうございます。

和風タイムマシンといったところですか。

14/07/21 suggino

はじめまして。
平山と立川は、途中下車(?)をして惜しいことをしましたね。誤ってタイムスリップした二人の呆然とした様子も見たかったですが、「すくなくともここには、タイムトラベラーはいないようだね」への皮肉がピリッときいた、愉快なオチだなァと思いました。ショートショートとはこういうものだったなと再確認できた心持ちです。

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