1. トップページ
  2. 雨の邪鬼

しーぷさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 疲れない程度にがんばる

投稿済みの作品

2

雨の邪鬼

14/07/13 コンテスト(テーマ):第三十五回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 しーぷ 閲覧数:1025

この作品を評価する

 ため息を一つかましてから、俺は教室の扉をガラガラと開けた。誰もいないと思っていたが、窓際最前列にその人は座っていた。成績学年トップで我がクラスの学級委員「雨宮」さん。

「あら、これはこれは、学年で成績一二を争う秀才の陽野太陽君じゃない」
「そうだな、争ってるよ一二。ビリのな」

 いつものように嫌味を言われた俺は、自分の席、彼女の隣の机に座った。

「帰らないの?」
 俺が訊くと、雨宮さんは「学級日誌を書いてから」と、閉じられた学級日誌に指をたてながら言った。

 開きすらしないとは、書く気は本当にあるのだろうか。

「君は?」
 雨宮さんから同じ質問が帰ってきた。

「英語の成績がちょっと、ちょこーっとだけアレだから追加課題」
 俺は職員室でもらった紙をヒラヒラと振りながら言った。
「これ提出してから帰れだと」
「そういえば、君は馬鹿だったわね」
 なんとも、まあ。もうちょっと違う言い方はなかったのだろうか。もしかして、もしかすると、国語が苦手なんじゃないだろうか。ふふ、俺は実は全教科中国語が一番得意なんだぜ。
 俺は国語の問題を雨宮さんにぶつけてやろうとしたが、すぐに考えることをやめた。得意といっても、学年三百人中の二百五十位。彼女に答えられないような問題は思いつきそうにもない。

 そんなことを考えていると。

「あれ見て」

 雨宮さんが、窓の外、下方へと人差し指を向けた。そこには一組の男女。うちのクラスの修と麻衣だ。最近付き合い始めたと聞いた。……リア充なんか滅べばいい。

「彼らは何をしているのかしら」
 醜い嫉妬をしていると、雨宮さんが続けて言った。修と麻衣は昇降口でなにやら話をしていた。

「普通に喋っているだけじゃないか」
「何故帰らないのかしら」
 外は絶えず雨が降っている。これからしだいに強くなるはずだ。今朝の天気予報でそう言っていた。

 俺は再度彼らに視線を戻した。よく見てみれば、麻衣は傘を持っていない。
 はは〜ん、なるほど。
「雨宮さん、よく見てみてよ。麻衣の方。あいつ傘持ってないじゃないか」
 俺がそう言った直後、修の傘に二人で入って校門を抜けていった。
「つまりああいうことさ。最近付き合い始めたって言ってたしな。麻衣が相合傘をしようともちかけていたんだろう」

「……おかしくない?」

 窓の外から俺のほうに視線を戻した雨宮さんが言った。

「何が?」
「なぜ彼女は傘を持ってこなかったの? 確かに、今朝は降っていなかったわ。でも予報では降るって言ってた。それも大雨」
 まあ、そう言いたいのも分かる。
「天気予報を観ていなかった、誰からも天気の話をされなかった。ゆえに知らなかった」
 まあ、そうだとしても……
「でも、家を出た時に空は見えるわ。今朝の空を見て、傘を持っていかないやつなんて、どこぞの馬鹿くらいだわ」
 誰のことでしょうか雨宮さん。
 それに、俺はちゃんと持ってきている。教室の後方に設置された傘立てにしっかりと、俺の傘が立ててある。……ん? 俺のしかない……。

「なのに、なぜ彼女は――」
「さっきも言ったように、あいつらは最近付き合い始めた」
「だから?」
「麻衣が、相合傘をするためにこういう状況をつくりだした……とかどう?」
「……」
 雨宮さんは、俺から視線を外し、もう見えなくなってしまった二人を追うように視線をそちらに向け黙った。


「そういえばさ、なんで今日は教室で日誌を書いてるの?いつもは図書室で書いてるじゃないか」
 雨宮さんは驚いたように体をびくんとさせた。
「か、鍵の開閉はこのクラスの学級委員である私に任されているわ。あなたの鞄がまだ残っていたから、閉めるに閉められなかったの。それだけ」

 なるほど、たしかにそうだ。悪いことをしてしまった。だがしかし。
「でも、先生に言えば君が帰ったあとでも開けてもらえるじゃないか。この前だって、修が鞄を教室に置いたままだったのに、君が鍵を閉めて帰ったから先生を呼んだって言ってたぞ」
 雨宮さんは眉間に皺をよせてから「細かいやつね。馬鹿のくせに」。
 余計なひと言がついてますよ雨宮さん。それに、馬鹿なのと細かいことが気になることに関係はないと思います。

「話は変わるけど」
「ん?」
「私の鞄にこんなものが入っていたの」

 口をハート形のシールでとめられた便箋。おそらくラブレター。

「これは、いつ、誰が、誰にあてて書いたものだと思う?」
「君の鞄に入っていたんだ。君あてに決まってるじゃないか。意外とモテるんだね」
 余計なひと言のお返しを添えて言った。

「もし、これが私あてでなかったとしたら、これを開いて見てしまった時、書いた人が傷つくと思うの」
 俺に馬鹿馬鹿言ってる人が、こんなことを言うなんて。

「つまり、君あてだという確かな証拠、もしくは、君以外の誰かだという証拠が欲しいわけだ」
「私以外の誰かへあてたものだった場合、差出人が誰かなのも知りたいわ。返さなければ」

 なるほど、それもあるのか……。
 暫し眉間に皺を寄せ。
「それが鞄に入れられたのがいつ頃なのかは分からないの?」
「さあ」
「さあって……」
「……学校に来てからじゃないかしら」
 適当な……。
「学校に来てから今まで、鞄の傍は離れていないし、犯人はどうやってこの手紙をいれたのか……」

 犯人……ひどい言われようだな。

「待って。今日は体育があったじゃないか。少なくともその時には」
「さっきも言ったでしょう。鍵の開閉は私がしているの。最後に教室を出るのももちろん私。つまり、私がいない時に鞄に近づくことは出来ないのよ」
 雨宮さんはなぜか嬉しそうに続ける。

「つまり、これは完全犯罪」

 ……犯罪? そんな言葉を飲み込んで。
「……トイレは?」
「乙女になんてことを」
「その時なら君に気づかれずに鞄に手紙をいれられる」
「残念だったわね。これは完全犯罪よ。今日、私はトイレに行ってはいない!」

 ……。


 なら、

「その手紙、すでに持ち主の手にあるんじゃないかな?」

「え……」
 雨宮さんが本当に鞄から離れていないのなら、今朝からずっと鍵を持っていたのなら、それしか考えられない。
 雨宮さんは驚いた表情のまま固まっている。


「日誌、書かなくていいの?」

「あ……うん。大丈夫」
 彼女はとうに日誌を書き終えているのだろう。だが、この雨のせいで帰れないのだ。教室の後方に設置された傘立てと、そこにたてられた一本の傘、俺の傘を見てそう推理してみた。
 窓の外では、雨がしだいに強さを増しながら降り続いている。この中を傘なしで帰ろうとはなかなか思えない。
 職員室に一本くらいあるだろうから、それを借りればいいのにとも思ったが、彼女はプライドが高い、傘を忘れたなどと言えないのだろう。

「傘、使う?」

 彼女は、傘立ての俺の傘をチラリと見てから
「それじゃあ、君が濡れてしまうじゃないか」

「俺たちも相合傘する?」
 ニヤリと笑って彼女に提案した。

「……ばか」
 消えてしまいそうな声で、彼女はそういい、すっと立ち上がると傘立てから俺の傘を抜き取った。

「早く帰ろう。雨がひどくなる」
 え。おーけーなの? 断られて、俺が職員室で傘を借りるっていう流れじゃないの?

 俺は慌てて彼女を追った。


 一つの傘に二人で歩く。ゆっくりと歩く。
「あの手紙は誰あてなの?」
「私が書いたんじゃないんだから、知ってるわけないでしょ!」

 そこで聞けなかった手紙の宛先と、内容を、俺は数か月後に、彼女の口から直接聞くことになる。









 
 ……あ。課題やってねぇ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン