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しーぷさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 疲れない程度にがんばる

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白い声援

14/07/13 コンテスト(テーマ):第三十五回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 しーぷ 閲覧数:951

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 冷たくなった鉄塔に手を重ねた。
 ゆっくりと、撫でるように、手を滑らせながら腕をおろす。
 天を見上げ、鉄塔にとりつけられた梯子を、カツンカツンと音をたてながら俺は鉄塔をのぼった。



   ・・…†…†…†…・・



 十年も前のこと。高校入試の試験日。俺は、同じ中学に通う茜と帰路についていた。
「何あれカッコいい!」
 突然そう言って前方を指さす茜。指先を辿っていくと、ポツリと建つ鉄塔が見えた。その足元まで走って行ってしまった彼女を追って俺も走る。彼女はくるりと振り返り言った。
「のぼってみよ」
「危ないから――」

「雪だ……」

 僕の言葉を無視して梯子に足をかけのぼろうとしていた茜が呟いた。俺も空を見上げる。
 灰色の空から真っ白な雪が降りてくる。

「ねえ、知ってる?」
「何を」
「受験の日によく雪が降る理由」
「冬だから」
 即答してやった。

「はぁ……。ロマチックな言葉の一つも言えないの? 一生彼女できないんじゃない?」

 もう一度空を見上げ、うまい言葉を探してみるも、次々にあらわれる雪に目を奪われ、集中でなかった。

「ぶー。時間切れ」
 そうこうしているうちに、いつの間にか設定されていた制限時間がきてしまった。

「雪ってさ、テンション上がるじゃん?」
「寒いのは嫌い」
「人が雪を見るとテンションが上がるっていうのは、神様が私たちに組み込んだプログラムだと思うわけよ」
 またおかしなことを言いだした……。

「死んじゃった人たちがさ、こっちで生きてる大切な人を応援するために降らせる。それが雪なんだよ」
「そうなんだ」と素っ気なく言ってから、早く帰りたくて駅の方角へとつま先を向けた。すると、地面を踏む音が先ほどとは変わっていることに気づいた。早くもうっすらと積もり始めている。

 次の瞬間、背中側から強い風が吹きつけた。
「さむ……。早く帰ろう」

「今のさ……」

 いつの間にか鉄塔から降りてきて、俺の隣に来ていた茜が言った。
「背中を押されたみたいだった」
 雪だけじゃなく、風もと言いたいのだろうか。
「ただの風だよ」
「なんで分かんないかな」

 世界を白く染めていく雪。足元の、うっすらと化粧をした新しい地面に、茜はゆっくりと足をのせた。

 そのまま動かない。

 雪の感触を楽しんでいるのか、動かさない靴に積もっていく雪を見ているのか、茜は俯いたままだ。

「風邪ひくよ。早くかえ――」

 真っ白な吐息とともに、彼女はその言葉を吐き出す。


「私ね――」



   ・…†…†…†…・



 次の日、どたどたと音をたてて階段を上がって俺の部屋に来た母から聞いた言葉はとても信じられるようなものじゃなかった。

 外は雪で覆われた真っ白な世界に変わっていて。
 そうだこれは夢なんだ。

 雪が溶ければ、昨日の、雪が積もる前の、いつもの世界に戻れば、アイツは帰ってくる。


 茜は――


 茜が――


 死ぬはずなんてない。



   ・…†…†…†…・



 茜と最後に言葉を交わした場所。そこにある鉄塔をのぼった。空に近いほうが、なんとなく、いい気がした。
 茜はあの日、こんな俺を好きだと言ってくれた。でも、それはあまりにも突然で、すぐに答えることができずに、一日だけ返事を待ってもらった。

 早朝に、茜は犬の散歩中、車に轢かれたそうだ。

 あまりにも唐突で、何が起こったのか分からず、ただ時間だけは過ぎていき、真っ白な灰になった茜は空へと昇っていった。

 そこで、脳がやっと受け入れ、やっと涙が流れて、「茜が好き」その気持ちにやっと気づいた。遅すぎた。


 あれから十年も経った。


 十年経った今も、この鉄塔は変わらず、茜がのぼった梯子もそのままだった。
 てっぺんから空を見上げると、あの日と同じ色の空が広がっていた。

すぅっと息を大きく吸い込む。


「俺さ」


 ゆっくり、はっきり、言葉を紡ぎだす。


「結婚するんだ」


 空は相変わらず灰色で。


「だから、その」


 なんでこんなことを言っているのだろう。ここまで来て、自分で分からなくなった。

 ……背中を押してほしいだけかもしれない。
 この先の生活をうまくやっていく自信がない。茜ならこんなとき何て言うだろう。何かあるたびに考えてしまう。


――うじうじしてんじゃねぇよ――


 懐かしい声。でもその主はいなくて。
 いるはずもないのに、辺りに視線を走らせる。すると、白いソレが目に入った。


「雪だ……」


 次いで、強い風。危うく鉄塔から落ちそうになった。


――大丈夫だって! 私が好きになった男なんだから――


 俺の脳内が勝手に作り出した、俺の耳にだけ聞こえている音なのかもしれない。けど、それでも、懐かしくて、思わず笑みがこぼれた。

 また突風が吹きつける。

「いてぇよ、ばか」

 俺は、鉄塔をおりて、真っ白に染まった大地に、新しい足跡を残しながら、鉄塔を背にゆっくりと歩き出した。


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