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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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星じまいセール

14/07/07 コンテスト(テーマ):第三十五回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1363

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 カズトの操縦する一人乗り宇宙船はその星、ミヤコ星に静かに着陸した。
 ちっぽけな星で、歩いて一周しても、疲れるところまでいかないほどだった。
 それでも、地上には木もあれば、草花も咲き、流れる小川にはトンボや蝶のとびかう姿をみることができた。
 この星の存在をしったのは数年前のことだったが、その便利さと、環境のすばらしさに魅了されて彼は、それ以来頻繁に立ち寄るようになっていた。
 カズトは、宇宙船から出ると大きくのびをした。金脈を探して星から星を渡り歩いている彼の体は、疲労のために硬直していた。
  いくらも歩かないうちに、前方の高台に、ミヤコママの営む店がみえてきた。
 この店には宇宙をゆききするものにとって必要な品々がそろえられていた。
 食品や衣類はもとより、工具類、マシン関係、さらには宇宙船の部品まで、およそありとあらゆるものを求めることができた。
 彼女はこの店をひとりで切り盛りしていた。いや、ひとりなのは、この店だけでなくこの星までも、一人で管理していた。星に彼女の名前が冠せられている、それが所以だった。
 ほんとはカズトは、きょうはここにくるつもりはなかった。気まぐれに、上空をとびすぎようとしたとき、いつもなら、『ようこそ』と書かれたミヤコストアの屋上に、一言『閉店』と書かれているのが認められた。
 それをみては彼もさすがに、このまま通過することができずに急遽、着陸したしだいだった。
 扉をあけると、店内はおどろくほど混んでいた。
「まあ、カズト」
 ミヤコが、客たちをおしのけて、彼のほうにかけよってきた。
「いらっしゃい。よくきてくれたわね」
 彼女らしく、感情をあらわにして、彼に頬をすりよせてきた。
「店を閉めるって、マジかい?」
「そうなのよ。ながいあいだ贔屓にしてくれて、本当にありがとう。全商品、五十パーセント引きよ。あなたなら、もっとおまけしちゃう」
「うん。あとでいっぱい買わせてもらうよ。本当に閉めるのか。がっかりする連中がわんさかいるだろうに。―――それで、ミヤコママはこれからどうするんだ?」
「もちろんお払い箱よ。まだ、はっきりはしてないんだけど、なんでもこの星のオーナーが、まるごと星を売っちゃうらしいの」
「え、星そのものを」
「正確にいえば、星じまいね」
「星じまい………」
 この星のことならなんでも知っているカズトのあたまに、こんこんと清水のわきでる泉や、滝からおちる水しぶきに濡れ光る岩のコケ、吸い込むとよみがえるような気分になる澄み切った大気―――などの光景が次から次に思い浮かんだ。
「もったいないな」
「星じまいの話をききつけて、とおく宇宙の彼方から訪れるお客さんも多いのよ」
「どうりで、混雑しているはずだ」
 二人が話している間にも、入り口の扉はひっきりなしに開いて、閉店をおしむ客たちがぞろぞろと入ってきた。
 そんな客たちに先取りされてはと、カズトも商品棚の列の間を歩いては、ほしいものを物色しはじめた。
 最初は必要なものだけをカゴにいれていた彼だったが、つぎにきたときにはここはもうないのだとおもうと、すぐには必要でないものまで手をのばしはじめた。
 そのうち、なんの必要もないものまでカゴにいれだすようになったので、カゴはたちまち埋まってしまい、レジ横の台にひとまずそれをおいて、ふたたび商品棚をあるきはじめた。
 似たような心境の者は多いとみえ、山盛りのカゴが台に何列も並ぶようになった。
 結局、その日買った品物は、彼の乗る小型宇宙船の三分の一を占めるまでになっていた。
 店の入り口には、ミヤコとの別れを惜しむ買い物客たちがあふれかえり、彼女も気軽にハグに応じたり、執拗なまでの握手攻めにも、つねに笑顔を絶やさなかった。なかには感極まって泣き出す連中もいるなか、カズトはひとり、バイと手をふって店を出ていった。
 




 金鉱堀りの仕事にもどった彼は、あいかわらず、ちょこちょこ小規模な金脈を掘り当てては、それまで穴掘りに費やした総コストの穴埋めにあてるといった、自転車操業をくりかえしていた。
 そのうち心身ともに疲れ切り、金のかわりにたまりにたまったストレスにうちひしがれて、発作的に宇宙にあてもなくとびだしていくのもまた、いつものことだった。
 こんなときに、ミヤコ星があってくれたらな………。
 そう彼は心の底から思った。
 あれからもうかなりたつので、おそらくミヤコ星はべつのオーナーの手に渡っていることだろう。
 それがわかっていながらも彼は、ミヤコ星に一人乗り宇宙船の進路を向けずにはおれなかった。
 だんだんと目的の星がちかづいてくるにつれてカズトは、やっぱりこのままとびさっていこうかと、なんども迷った。
 彼女あってのミヤコ星だ。その彼女のいない星なんて………
 しかし、その思いとはうらはらに、いつしか宇宙船は星の上までやってきていた。
 ―――みおぼえのある建物がみえた。その屋上に『ようこそ、ストアミヤコへ』、の文字がよみとれたときの彼の当惑はまたとなかった。
 星じまいはいったいどうなったんだ。
 わけもわからずカズトは、とにかく艇を下降させていった。
 これまでに三度、ここが閉店セールをしている事実を彼がしるのは、もうちょっとあとのことだった。


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このストーリーに関するコメント

14/07/14 ナポレオン

拝読いたしました。

普通にいい話だと思ったらこんなオチがあったとは。
そういう店結構ありますよね、私も騙されたことあります。

14/07/15 W・アーム・スープレックス

ナポレオンさん、コメントありがとうございます。

「閉店」と書かれた店にはつい入ってしまいますよね。
宇宙船が飛び交う未来に、この「閉店セール」の商法があるかどうかは疑問ですが、商魂たくましい連中は、後を絶たないと思います。

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