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たにくんさん

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怒の涙

14/07/07 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:0件 たにくん 閲覧数:921

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 ある一人の男が捕まった。数ヶ月に渡り10数人もの人の命を奪った最悪の殺人鬼だ。私はその男をずっと追っていた雑誌記者だ。その男が捕まった時、新聞や雑誌類はもちろん、テレビにも大きく取り上げられた。
当然私たちも記事にした。しかしどこも似たり寄ったりで面白くない、独占スクープがなかったのだ。ずっと追ってきただけにガクンと気が抜けてしまった。
彼が捕まって数日後の夜だった。

「おい聞いたかマイク」

同僚のトムが険しい顔で話しかけてきた。

「どうしたんだい?」
「例の殺人鬼のだが」
「うん」
「なんでも容疑を否認しているらしい」
「なんだって?」
「今、連絡があってな。『自分じゃない』の一点張りだそうだ、明日には報道されるだろうよ」
「死刑は免れないだろうからね、自分の命が惜しくなったのか……あんだけ人を殺しておいて、なにを言ってるんだか」
「君は彼の裁判には行くだろ?」
「あぁ行くよ、今世紀最大の殺人鬼をこの目で見たいしね」

彼の裁判には多くの記者たちが参列した。初めて見る彼の姿は殺人鬼のそれとはまったく違った。たしかに似顔絵と似てはいるが、数多くの殺人犯を見てきた私はどことなく違和感を感じた。
彼は言う。

「僕はやっていない!そもそも犯人は僕ではない」

会場の皆が呆れてかえっている。あろうことか、彼の弁護人も彼の必死な声に耳を傾けず「混乱している」などと述べている。
裁判は順調だ。先程から検察側しか喋っていない。

「裁判長、こんな裁判を続けても意味がない!彼はとてつもない罪を犯した!すぐに決断すべきだ!」

たしかに証拠はある。しかしそれを証明するには不十分だ、私はそう思っていた。彼は本当に犯人なのだろうか。

「死刑は確定だな」

裁判が終わったあとトムが安心しきった声で空を見上げて言った。

「君は今の裁判でなにか感じなかったのかい?」
「なにかって?」
「……いや、いいなんでもない」

私は事件を一から調べ直して見たることにした。
程なくして彼の死刑が決まった。
彼は涙を浮かべながら鋭い瞳で検事、弁護士、裁判員らを睨み、怒りの籠った声で言った。

「お前らを絶対にゆるさない」

それを聞いた会場すべての人は失笑した。
彼の悲痛な叫びは誰の耳にも届かなかった、私以外の人間には。
たとえ私が彼が本当は無実だと見つけ出したとしても、彼はもうこの世にはいない。彼の無念がはれることはないが、彼の無実を証明することが出来る。
彼が流した怒りの涙は決して嘘泣きではないと私は信じた。


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