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yoshikiさん

面白い作品を知り、自分でも書いて見たくなって何年も経ちました。よろしくお願いします。 2010年 小説現代S&Sコーナーに初めて送った作品が掲載されました。作品名『幽霊の見える眼鏡』 とにかく面白いものが書いていけるといいなと思っています。 イラストはエアブラシと面相筆で昔描いたものです。

性別 男性
将来の夢 楽隠居
座右の銘 不可思議はつねに美しい、どのような不可思議も美しい、それどころか不可思議のほかに美しいものはない。アンドレブルトン

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獣の刻印 8

14/07/07 コンテスト(テーマ):第三十五回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 yoshiki 閲覧数:857

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 古めかしい二階屋の鮎子の家は妙に懐かしかった。鮎子は二階の自分の部屋に嬉しそうに東少年を迎え入れた。ソファに二人で腰を下ろす。鮎子が心配そうな顔をして東少年を覗き込んだ。
「でもさっき怖かったわ……。でも嬉しいよ。みっちが生きていて」
 はにかむようで、しかも優しい鮎子の言葉だった。まるで可愛いペットでも見るように生き生きとした瞳が少年を見つめていた。
「ありがとうな、鮎子」
 少年がぽつりと言った。
「お前が来なかったら、おいら……」
「ねえ、何か食べる?」
 はぐらかすように鮎子がそう訊いた。
「ああ、おいら凄く腹が減った」
 それをきいた鮎子が立ち上がって冷蔵庫に行った。そこで東少年もふらりと立ち上がって鮎子の後を追って冷蔵庫を覗き込む。
「なあ、なんでも食べていいか?」
「いいよ、何でも食べて」
 そう訊いた少年は冷蔵庫になった牛の粗挽きをありったけフライパンに油をひいて炒めた。そして少し塩をかけてフライパンごとテーブルに持ってきてスプーンで口の中にかきこんだ。鮎子は目を丸くして見ていたが嫌な顔一つしなかった。
「すごい食欲。でも変すぎる」
 鮎子はもう笑うしかなかった。東少年はそれが済むとソーセージまで全て平らげた。少年の出血はいつの間にか完全に止まっていた。脅威の回復力を少年は見せた。そしてソファにごろりと横になった。
「恩に着るよ鮎、おいらが学校でいじめられた時おまえ仲裁に入ってくれ事があったよな、あれがつい昨日のように思えるよ」
「そんなこともあったっけな」
 鮎子がとぼけて言った。
「そんなことより明日は絶対いっちゃだめよ。あしたは一緒にあなたの家に行きましょう。あなたのお母さんが喜ぶよ。そうに決まってる。お母さんが気絶しないようにみててあげるよ」
少年の家は母子家庭である。なので父は登場しない。
「鮎、学校は?」
「明日は祝日よ」
「そうか」
「そこで寝る?」
「ああ、ここでよく漫画をいっしょに読んだなあ」
 東少年はそんなことを独り言のように言って直ぐに寝息を立ててしまった。鮎子はそのソファの下に布団を敷いて休んだ。興奮でなかなか寝付かれない鮎子であったがしまいに女の子らしい可愛い夢を見るような表情で寝入ってしまった。

 翌朝の事だ。鮎子が目を擦って起きた時には東少年はいなかった。あわてて家中を探したが少年の姿はなく、テーブルの上に汚い字で手紙が置いてあった。チラシの裏の白い部分にはこう書かれてあった。
『鮎子、ありがとう。おいらどうしてもやらなきゃならないことがある。でもそれがすんだら、必ず帰って来るから。待っていてくれな。 道夫』
 それを読んだ鮎子は地団駄を踏んだ。そしてチラシをくしゃくしゃに丸めて床にたたきつけた。知らぬ間に瞳が潤んでいた。

                      つづく


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