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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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晩夏の小夜時雨 (ばんかのさよしぐれ)

12/06/17 コンテスト(テーマ):第七回【 結婚 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:3736

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 粒径は0.4ミリメ−トル。そして、落下速度は秒速2メ−トル。無色透明のまま、それらは真っ暗な夜空より、さあ−さあ−と。微かな音とともに複雑に、交叉しながら落ちてくる。
 主成分は紛れもなく[H2O]、だがそこに微量の窒素を含ませて・・・・・・。
 そんな天空からの、季節外れの落下物、それは晩夏の小夜時雨。無味無臭の性状のままで、その夜それが降っていた。

「ねえ、開けて」
 夜が更けて、力弱く・・・・・・。君は突然に、ドアをコンコンと叩いて訪ねて来た。ドアチェーンを外し、僕はそっと開けてみる。すると君は緑の黒髪から爪先まで濡れていた。
「どうしたんだよ?」
「うーうん、ちょっとね」
 君はそう口ごもりながら、白い指先を震わせていた。
「風邪引くよ。まあ、入れよ」
 僕は君の冷えた身体が心配だった。だから、ポット一杯に湯を沸かし、インスタントのポタージュスープを入れた。君はふーふーとそれを口にして、そのマグカップをじっと握りしめていた。
 僕にはわかっていた。なぜ君がここに来て、どうして今、ここにいるのかを。そして、なぜそこまで、無言のままなのかも。
 僕は感じ取っていたのだ、匂いを。
 君の心の奥底にある、そう、あいつの・・・・・・嫌みな獣臭を。

「ごめん」
 僕は君に短く謝った。君は黙ったまま、さもありなんと頷いた。
 それはまるで、僕が「ごめん」のひと言に包み込んでしまった感情を慮(おもんばか)ったかのように。おそらく、僕は君を抱き締める気分になれない、そう見透かしたのだろう。
 そんな冷徹な仕打ちに、君は反発するかのように、ただただ冷えた身体の震えを抑え込んでいた。僕たちの間に長い沈黙が、それからずっと・・・・・・、さらにずっと続いていった。

 だが、やっとのことだった、君は蘇生したのかぽつりと口を開いた。
「ねえ、雨の中を一緒に歩いて欲しいの」
「そうしようか」
 とにかく僕は飛び出したかった。この小さな部屋の中に充満する君との気まずさ、それから逃げ出したかった。

「傘は?」
 僕は君に尋ねた。しかし君は短く「いらない」と。
外は季節外れの小夜時雨。無色透明のまま、真っ暗な夜空より、さあ−さあ−と降っていた。
 僕たちは押し黙り、みすぼらしく濡れながら、まるで終わりがないかのように歩き続けた。そして疲れ、ぼんやりとした街灯の下で、君は不意に立ち止まった。

「ねえ、これでわかって欲しいの」
 君の声が雨に湿っていた。僕は君に向き合って、「何が?」と訊いた。
「無臭の雨でね、匂いが・・・・・・洗い流せたわ」
 君はきっと見抜いていたのだろう、僕の苦しみと、そして躊躇も。
「そうかもな」
 僕は軽く相槌を打った。すると君は、僕の腕にしっかりと纏わりついてきた。そして、いつの間にか君に、キラリと光る涙が・・・・・・。 街灯の灯りを吸収し、一粒そして一粒と雨に融合し、落下していく。

「私の心は、これで・・・・・・、もう綺麗だよ」
「そうだね」
 君は一拍おいて、すべての過去をまるで断ち切るかのように、僕に求めてきた。

「だから、今、ここで・・・・・・キスして」
 僕は濡れ切った君を抱き締めた。それからどこまでも優しく、そして柔らかく、君の唇を奪った。
 頬に降り注ぐ小夜時雨、それは無味のはず。だが、仄かな甘い味がした。そしてそれは無臭のはず。しかし、まるで雨上がりのように、清々しい香りがした。

 夏の終わりの小夜時雨、粒径は0.4ミリメ−トル、落下速度は秒速2メ−トル。主成分は紛れもなく[H2O]。それらは真っ暗な夜空より、さあ−さあ−と。微かな音とともに複雑に、交叉しながら降り続けていた。

 そんな日常を破り、僕は心の奥底にずっと眠り続けていた決意を、やっと君に伝えることができた。

「僕は・・・・・・とてつもなく君が好きです。だから、一生をかけて、君を幸せにしてみせます。僕と結婚してください」
 君はコクリと頷いた。そして君の涙が、無色透明の雨に溶けていった。


 おわり


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このストーリーに関するコメント

12/06/18 ゆうか♪

拝読させていただきました。

ただただ素敵な大人の物語に、心に波が優しく立って、そしてまた押し流されていく…そんな感銘を受けました。

12/06/18 泡沫恋歌

拝読しました。

梅雨のこの季節にまさにピッタリのラブストーリーですね。
きっと彼女は男を捨てて、彼の所にきたんですね?

雨で心も身体も浄化されて、キレイになって彼の愛を受け入れることが
出来ると思います。

とても清々しいモノガタリで素敵でした。

12/07/03 鮎風 遊

ゆうか♪ さん

コメント、ありがとうございます。
大人の物語でした。

12/07/03 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

清々しい感じを持って頂ければ、幸いです。
コメント、ありがとうございました。

13/10/01 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

とっても素敵な恋ですね。

小夜時雨、こんな雨なら7いいですよね。

13/11/29 鮎風 遊

草藍さん

コメントありがとうございます。

こんな詩から時空への投稿は始まりました。

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