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メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

性別 男性
将来の夢 世界平和
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GOOD LUCK!

14/07/01 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:5件 メラ 閲覧数:1257

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 涙を流したのなんていつ以来だろう?私の心はすっかり冷え切っていたのか、少なくともここ数年は、涙を流すことなんてなかった。
 私はふと思い出したように、ネパールに一人旅をした時の写真を手に取り、涙を流していた。
 一年間付き合ったしていた男に振られた時も、叔母が亡くなった時も、話題の映画を観に行った時も。感動したり、悲しかったり、悔しさに打ちのめされたりもしたけど、涙は出なかった。ちなみに先週、向こう脛を階段に打ち付けて涙が滲んだが、それはカウントに入れないことにする。しょっちゅうタンスの角に足の小指をぶつけた時も涙が出るが、それもノー・カウント。
 それにしても人生って・・・。ヤバっ、人生とか言っちゃってるし。どうしたんだろう?だけど人の一生には、思いもよらない事が起こる。今、私が涙を流しているように。そしてその涙はとめどなく、頬をつたい続けている。泣くって気持ちいいのかもしれない。だからまだこの涙を止めたくない。

 *

「自分探し?」
 友達にそう言われた時、図星を突かれた気がして笑って誤魔化した。実際私が突然仕事を辞めて、インドに行くと決めたのはまさしく自分探しだったのかもしれない。
 イタリア。フランス。エジプト。ベトナム。
 私は何度も海外旅行に行っているが、一人でインドに行くなんて無茶なことはしたことがない。でも、昔から一度はそういう国を巡ってみたかった。一人で。三十代になったら行けなくなる、いや、行く気力がなくなるような気がした。来年には三十路になる。独身。特技、特になし。でも、探せば何かが見つかる、そう思ったのだ。悪い?
 デリー空港から、ニュー・デリーの比較的大きなホテルを中心に、つたない英語だけで近辺をうろうろした。ニューデリーはイギリス人が作った豪華な建物がたくさんあったが、私はオールド・デリーと言われる旧市街の方が気に入った。子供の物売りがしつこく声をかけてくるのは辟易したが、雑多な市場の様子や、ぎゅうぎゅう詰めの市バスに乗るのも面白かった。
 デリーには三日間滞在した。本当は一週間くらいいて、それからカルタッタへ行こうと考えていた。しかし、同じホテルに泊まっていた日系アメリカ人のカップルが、先週ネパールでヒマラヤ・トレッキングをしていたという話を聞いて、すっかり興味がわいた。
「ヒマラヤと行っても、道はずいぶん整備されているから歩きやすいよ」
 カップルは年も私と同じくらいでとても気が合い、ホテル近くのレストランで何度か食事した際に話を聞いた。簡単に標高四千メートルあたりまで行けて、そこで世界一の山々を間近で眺められると言う。
 私は急遽予定を変更し、カトマンズへ向かった。彼女達とはアドレスを交換してデリーの空港で別れた。
「GOOD LUCK!」
 気持ちの良い別れだった。一人旅ならではかもしれない。
 カトマンズ空港のしつこい客引きにはあっけに取られるも、アメリカ人の友人たちが泊まったホテルをまっすぐ目指す。タクシーに乗るまでに「NO!」と何度怒鳴っただろう。私はそこから一週間ネパールに滞在した。
 
 *

 八千m級の山々を眺めた時、もちろん今まで味わった事のない感動があった。しかし、その時涙なんて流さなかったのに、どうして帰ってきて数ヶ月後。旅の写真を眺めていて涙が出るのだろう。
 仕事も決まった。来週からまた新しい生活が始まる。ただ、インドに行って、ネパールでヒマラヤを眺めても、やっぱり自分のやりたいことなんてわからず、自分が何者なのかなんて分からなかった。その結果は半分予想はしていたが、事実はあまりにも淡々としていた。
 でも分かったのは私たちは『今』を生きているという事で。その『今』はあまりに唐突で瞬間的過ぎて、時に多くのことを見過ごしてしまう。でもふと過ぎた時間を思い起こし、自分が生きていることを発見することもあるようだ。人生に、やだ、また言っちゃった。まあ、生きているって、どうやら嬉しいことのようだ。今目の前にあることを、しっかり見据えて一つ一つやっていけばいいだけなのかもしれない。
「GOOD LUCK」
 私は一人でそう呟いた。この言葉、自分のために言っていいかもしれない。そんな事を考え、泣きながら笑った。

 
 
 


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このストーリーに関するコメント

14/07/01 草愛やし美

メラ様、拝読しました。

女性の一人旅ですか、しかも、インド・ネパール、怖いことしか考えられません。ネットで知り合った男の子が、バックパッカーで二年旅した時の、ノンフィクションを読んだことがありますが、インドではアメーバ赤痢にかかり大変だったようです。
異国、とりわけ文明の進んでいない地方への女一人旅は、かなりの冒険だと思いはらはらしながら読みました。得体の知れない菌に侵される可能性や、暴漢に会ったり犯罪に巻き込まれる可能性など、考えますと、彼女が無事に帰国できたことが、何よりのGOOD LUCKではないかと思います。

ネパールで、ヒマラヤに近づけるなんて体験ができるなら、長編でもっと詳しく読んでみたいかなと思いました。

14/07/01 メラ

草藍さんコメントありがとうございます。

ネパール帰りの知り合いがいて、色々と聞いているとネパールに行きたくなりました。そんな妄想が生んだ作品です。確かに女性一人でインド・ネパールはなかなかいないですよね。
私もこのネタで、いつか長編に仕立てたいと思います。

14/07/01 泡沫恋歌

メラさん、拝読しました。

「GOOD LUCK」良い言葉ですね。
本来、この言葉は自分自身に使うべきだと思います。

海外で、一人旅なんてやったことないけれど、きっと人生観が変わるようなことに遭遇
するかも知れませんね。

深く考えさせられる良い作品でした。

14/07/02 ナポレオン

拝読いたしました。

いつか自分も旅に出てみたいですね。自分探しの旅なんかしても自分のやりたいことなんてわからないのは、雄大な自然を前にすると自分の存在の小ささに気付くからだと思います。
非常に良いお話でした。

14/07/02 メラ

恋歌さん。コメントありがとうございます。一人旅、私も憧れです。まして海外なんて行っちゃった日には人生観変わりそうです。なんて言っているように、私は一人旅どころか、ネパールどころか、海外に言った事ないんですけどね。

ナポレオンさん、コメントありがとうございます。
自分探しの旅なんて、ちょっと一昔のOL風で今更流行らないんですが、やはり自分を見失った時、ちょいと旅に出たくなりますね。
自分の存在の小ささに出会うのも良い経験ですね。自分の小さは、つまり世界の大きさを知る、という事ですね。

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