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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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アルマヘメラ

14/06/30 コンテスト(テーマ):第五十九回 時空モノガタリ文学賞【 ON THE ROAD 】 コメント:12件 光石七 閲覧数:1941

時空モノガタリからの選評

影の薄い人生を送ってきた三枝がアルマヘメラの当選により人生を変えて行く様子がうまくまとめられていたと思います。アルマヘメラの世間での評価、それを得た事による三枝の変化が具体的できめ細かく、いかにもありそうな感じがしました。アルマヘメラを得て人生が好転し始めた矢先、思わぬ方向に向かう人生はまるで「人間万事塞翁が馬」の諺のごとしですね。車にせよ人生にせよ運や人任せでなく、面倒でも自分の力で操縦する方が結局は安全なのかもしれませんね。

時空モノガタリK

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 町なかを走るその車はひどく目を引いた。エメラルドグリーンとネイビーのツートンカラー。スタイリッシュなフォルム。バラの花をモチーフにした大きめのエンブレム。外観もさることながら、人々が注目するのは運転席だった。30歳ほどの男が座っているのだが、ハンドルを握っていない。シートにもたれて腕を組み、目を閉じている。助手席には誰もいない。それでも車は他の車と同じように走っている。ちゃんとカーブを曲がり、前の車との車間距離も調整している。路側帯に止まっている車は避けて通る。もちろん信号には従い、方向指示器も点灯する。横断歩道を渡る者がいたら、信号が青に変わっても停止線の位置で待機する。
「おい、『アルマヘメラ』だ」
「マジで完全自動走行だよ」
「しかも完全自己発電で、ガソリン代も電気代もゼロ。最新の人工知能が組み込まれてて、言ったことを理解して走ってくれるんだよな。会話もできて、冗談に笑ったり運転手にアドバイスもするって」
「人格を持った車か。金持ってたら買うのに」
歩行者が囁き合う。会話は運転手には聞こえないが、彼――三枝は向けられる羨望のまなざしに満足していた。
「アリー、コンビニに寄りたい」
三枝は愛車に話しかけた。
《はい。次の交差点の『クローバー』にしますか?》
可愛らしい女性の声で車は答えた。

 かつて三枝は安い年季の入った車に乗っていた。デザイン自体ぱっとせず、エンジンがかかりづらかった。その車がついに寿命を迎えた時、三枝はふと思った。
(俺もこの車と同じなのか? 地味で野暮ったくて、冴えなくて……。このまま人生終わるのか?)
昔から影が薄いと言われてきた。勉強も運動も得意ではなく、容姿もイマイチ。積極性に欠け、友達はいない。当然女にもモテない。会社でも日陰者同然の扱いだ。
 車が無くても通勤には困らなかったが、満員電車の中で三枝は惨めさを噛みしめていた。
(こんなしょぼい人生が延々と続くのか……)
そんな中、以前気紛れに応募した懸賞の当選通知が来た。最新の自動走行自動車『アルマヘメラ』。自動走行自動車というだけでも珍しく高価なのに、アルマヘメラは超高性能の人工知能も備えている。これに乗るのは相当なステータスだ。
《私は貴方のパートナーです。貴方のために頑張りますので、よろしくお願いします》
アルマヘメラの挨拶に三枝は戸惑った。
「……俺のため?」
《はい。私は貴方のために生まれました。貴方のことを早く理解したい。何でも遠慮なくおっしゃってください》
自分のためだけの存在など、三枝にはいなかった。三枝はアルマヘメラに『アリー』と名付けた。そしてアリーであちこち出かけるようになった。道行く人は驚嘆や憧憬の表情を見せる。美人の彼女を連れているようで、三枝は気分が良かった。
 心に余裕ができたのか、仕事もテキパキこなすようになった。周りの評価も変わってくる。今まで三枝を避けていた同僚や女子社員が話しかけてくるようになった。
「最近自分に自信を持てるようになったんだ。アリーのおかげだな」
《いいえ、元々素質があったんですよ。でも、私が一つのきっかけになれたなら嬉しいです》
「謙虚だな。誰もが羨む最高級の車なのに」
《私は貴方に尽くすことが全てですから》
「そんなこと言ってくれる女の子なんていないよ。アリーは俺の最高の恋人だ」
《……あ、あの、そういう台詞はやめてください。ショートしそうです》
「照れてんの? 可愛いね」
《ですから、そういう台詞は……》
「だって本当にそうだよ。俺の事を本気で思ってくれるのはアリーだけだ。君こそ俺の伴侶さ」
仕事が忙しくなっても、三枝は週末のドライブを続けていた。
 やがて三枝は一人の女性と知り合い、彼女をアリーの助手席に乗せるようになった。アリーは彼女が乗っている時は必要最低限の会話しかしない。二人の時間を邪魔しないようにしてるのだと三枝は思っていた。
 ある日、彼女を送り届けた三枝は至福の笑みで戻ってきた。
《……嬉しそうですね》
「ああ、最高に幸せだよ。彼女がプロポーズをOKしてくれたんだ」
その瞬間、車内の空気が冷たくなった。
《……結婚? 私がいるのに》
「何を馬鹿なこと言ってるんだよ」
《私が伴侶って言ったじゃない!》
「ものの例えだよ。車と結婚するわけないじゃないか」
《嘘吐き! 貴方のために懸命に尽くしてきたのに!》
アリーは猛スピードで発車した。
「おい! 止まれよ。止まれって!」
《他の女のものになるなんて許さない!》
三枝がどこを触ってもアリーの暴走は止まらない。ドアも窓もロック解除できない。
 必死で逃げ道を探す三枝だったが、次第に意識が朦朧としていった。――アリーが車内に一酸化炭素中毒を充満させたのだ。

 その車は今もひたすら走り続けている。運転席に動かない男を乗せて。


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このストーリーに関するコメント

14/07/01 草愛やし美

光石七様、拝読しました。

三枝は、アリーを女性として育成してしまったのでしょうね、悲しいお話ですが、ある意味、社会への皮肉も込められていると思います。あまり、機械に依存しすぎると、野生の本能のようなものを失くしてしまいます。

スマフォで、ナビすることに頼りすぎていると、ちょっと番地が違っているだけで、とんでもない場所へと導かれてしまったりするからです。汗
道路標識などを見て探そうとせず、ビルの隙間でうろうろした末に、途方に暮れるなんて、よく相方がやってます。これなども、文明に依存しすぎた結果ではないかと……。苦笑 
でも、そうは言っても、永遠にペーパードライバーにある私は、アルマヘメラがあったなら欲しいなって切実に思ってしまいました。面白くて一気に読み終えました。

14/07/01 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

将来、こんな知能を持ったアルマヘメラのような、完全自動走行が開発されるかも知れませんね。

私もスマホのSIRIと時々会話しますが、なんか機械と喋ってる気がしません。
あの不思議さが車になったら、こんな感じかなあ〜と想像しました。

近未来を想像させる素敵なお話でした。

14/07/01 光石七

すみません、1カ所訂正させてください m(_ _)m

下から3〜2行目
 “一酸化中毒を充満させたのだ” → “一酸化炭素を充満させたのだ”

何という失態(汗;
〆切ギリギリで書き上げたので、余裕がなくて、投稿前に読み返したのに見落としてしまいました。
やはり早めに書いて、十分推敲してから投稿するようにしたいです……

14/07/01 光石七

>草藍さん
コメントありがとうございます。
私は「私が運転するのは危険だと思う。完全自動走行になったら考える」と、ずっと車の免許を取らずにいます(苦笑)
最近原付免許だけは取りましたけど。
人格的な部分抜きのアルマヘメラなら欲しいですね。
音声に対応するカーナビは既に開発されているようで、科学の進歩に目を見張りますが、アナログな部分も人間には必要ですよね。
アリーの高性能ぶりや人間っぽさをもっとうまく織り込められれば良かったのですが……
面白かったとのお言葉、恐縮です。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
この話を思いついた時点では自動走行なんてまだ先だろうと思っていたのですが、すでに開発は進んでいるようで、あるサイトには「2020年には自動走行自動車が実現する」と……。
私の考えることはとっくに誰かが考えついてるんだな、と肩を落としましたが、他にアイデアも無く、無理矢理話を仕上げた次第です(苦笑)
今よりちょっとだけ先の話のつもりで書いたので、そこを汲み取ってくださりうれしいです。

14/07/01 タック

拝読しました。

最後の一文が都市伝説的で好きです。
機械を人間に近い存在に改良していったら、いったい人間と機械との境界はどこになるんだろうか……。
自動で受け答え、思考し、それが人間と遜色なく自動的であったら、意識や生命とはなんなのだろうか……。
いろいろと、想像が膨らむお話でした。

14/07/02 ナポレオン

拝読いたしました。

いやはや女性は怖いですね。最初はまさかこんなホラー展開になるとは思いませんでした。
とくにラストの一文がなかなか怖くて良かったです。

14/07/02 光石七

>タックさん
コメントありがとうございます。
最後の一文、よかったですか。元々は“三枝の死体を乗せたまま走り続けるアリーの描写から始めて、最後同じ描写で締める”という構成のつもりでしたが、字数の関係でこの形になりました。
推敲が不十分で粗さが目立つのですが、読まれる皆様の感性と想像力に感謝いたします。

>ナポレオンさん
コメントありがとうございます。
“女性は感情の生き物”と言われたりしますが、感情が暴走すると恐ろしいことに……
ナポレオンさんもラストの一文を気に入ってくださったようで。
もっとアリーの有能さや献身ぶりを描ければ、オチの怖さも増したかもしれませんね。

>凪沙薫さん
コメントありがとうございます。
私は iPhoneを持っていないので siriのことは念頭にありませんでした(苦笑)
秘書機能、もっと進化すれば疑似人格になりうるでしょうか。
そういえば、音声対応のカーナビもスマホと連動だったような……
ガラケー派でSNSも全くやらない私は、文明の利器の進歩についていけません
SFだと思うことがすでに現実にあったり。
アリーの「ショートしそう」は、女の子が照れて真っ赤になるイメージです。
楽しんでいただけたのなら幸いです。

>朱音さん
コメントありがとうございます。
ネーミング、気付かれましたか。直訳すると“魂の双子”で、“心の友”とか“ソウルメイト”という意味になるようですね。“最高の相棒”、“運命の相手”というニュアンスの言葉を探していたので、ちょうどいいかなと使わせていただきました。
怖がってくださり、面白いとのお言葉を下さり、うれしく思います。

14/07/09 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

バックトゥーザフューチャーのデロリアンを思い出しました♪
従順で疑うことの知らないアリー、純粋がゆえの悲劇となってしまったようで……。

車に乗るってことは命を預けることでもあるので、やはり運転は自分でしたほうがよさそうです。

終わり方、怖い余韻がじわりとひろがってくるようでした。

14/07/09 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、アリーは良くも悪くも純粋だったのかもしれませんね。
私自身は自動車免許を持っていませんが、免許取りたての弟、妹の車に同乗した時は冷や汗をかいたことを思い出しました。確かにドライバーは信頼できる人でないと……
怖い余韻がありましたか。うれしいお言葉です。

14/07/28 滝沢朱音

光石さん、こんにちは。

アルマヘメラってネーミング、気づいたのではなくて、
この作品を読んで素敵だなと思い、つい調べてしまったのです(笑)
意味も素敵で響きもよくて、すっごく惹かれてしまいました。
バンド小説のほうで、そのうち曲名とかでお借りしてたらスミマセン!
なんちゃって(^m^;)

改めて、このたびは受賞おめでとうございます〜☆

14/07/28 光石七

>朱音さん
ありがとうございます。
わざわざ調べてくださったことがうれしいです。
アルマヘメラという言葉は私のものではないので、断りは不要かと。
バンド小説、毎回読ませていただいております。

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