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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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擬態惑星

14/06/24 コンテスト(テーマ):第三十四回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1339

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 キャプテンハルヤマ率いる宇宙船は、その惑星に着陸した。
 その惑星といったのは、そこが今回はじめて訪れる惑星だということで、宇宙のすべての星に名前がついていないのはあたりまえのことで、おそらくその星からとびたつときには、ちゃんとした名前がついていることだろう。
 名前どころか、その惑星があったということさえ、じつは今回はじめて判明した事実だった。
 そんなことも、広い宇宙にはいくらでもあることで、惑星調査隊のメンバーたちもべつに気にもとめていなかった。
 ただ、処女惑星ということに、だれもが不安と緊張を覚えていた。
 上空からの確認でこの星が、ある程度の文明を築きあげた惑星だということはわかっている。
 道路や立体交差点、その道路わきにたちつらなる建築群をみても、槍や斧をふりまわす種族が跳梁跋扈するところでないことだけはまちがいなかった。
 問題はここの住人がはたして、どこまで高度な文明を有しているかだったが、それはおりてから、かれらとの交流を深めてみないことにはなんともいえなかった。
 仮にロケットを造りあげるほど技術をもっていたとしても、我々のような恒星間を行き来するだけの科学までは築き上げていないだろうという優越感がキャプテンハルヤマとその部下たちの顔に、あらわにはりついていた。
 それにかれらが、好戦的な種族でないことも、いまだにひとつもドンパチがおこらないのをみてもあきらかだった。それだとすでに上空にいるときに、なんらかの攻撃がおこっていておかしくない。
「宇宙船から、出てみよう」
 同行の10人をえらんでから、ハルヤマは出口のハッチを開かせた。
 もちろん、宇宙船に備えつけられた武器の照準は、万端怠りなく船の周囲に狙いをさだめている。なんらかの異常な動きをとらえればただちに、高性能の探知機がそれに反応して一ミリの狂いもなく敵をとらえることだろう。
「だれかがちかづいてきます」
 ハッチを出て、大地に最初におりたった部下が、ハルヤマに告げた。
 ハルヤマも、その人影には気づいていた。というより、いま木の下をあるいているその人間は、まったく無警戒な様子で、ゆっくりと歩いていた。
 われわれ人間とほとんどかわらない外見、ふたつの目の下に鼻と口がひとつずつついている。その目には、宇宙の彼方から飛来した宇宙船の偉容がまちがいなくうつっているはずなのだが、どうしたわけか、驚いた様子ひとつうかがえなかった。。
「声をかけてみましょうか」
 はやくも歩きだそうとする部下を、ハルヤマはあわててとめた。
「罠かもしれない」
 なぜかわからないが、彼のあたまにふと、釣りの疑似餌がおもいうかんだ。
「あまりにも、平然としすぎていないか」
「たしかに、おかしいといえばおかしいですね」
 部下もさすがに、警戒の色をふかめた。
 するとまた、べつの方向から、二人つれだってやってくるのがみえた。さらに別の方角から、ぞろぞろと数人が、ちかづいてきた。
 かれらはみな、昼下がりの大地を、あたかものんびり散歩しているような調子だった。
「もしかしたら、我々人間の視覚と波長が異なるのでは?」
 ハルヤマは、不可解そうに首をふりながら、
「とにかく一度、コンタクトをとってみよう」
 それ以外に、かれらの無関心の理由をひもとく方法はなさそうだった。
 ハルヤマは隊員の中から、カノウという女性とミノという男性のふたりを選んだ。その二人が宇宙船から出て、ちょうどこちらにちかづいてくる三人に接近するもようを、モニター画面を通して胸を高鳴らせてみまもっていた。なんといっても、ファーストコンタクトなのだ。
 五分後、ミノとカノウが、なにやら憮然とした顔つきでキャプテンのところにもどってきた。
「なにをいっても相手は、なんの反応もしませんでした」
「まるで石を相手にしているようでした」
 二人の報告をききおわるとハルヤマは、
「やっぱりきみたちがみえていないのかな」
 さっきの視覚云々の話がまだ胸にくすぶっていた。
「それはみえていたようです。わたしたちが前にたつと、それ以上かれらも前進しませんでしたから」
「われわれには関心がないとしかおもえません」
 理解できないことをまえにした人間がときにするように、女性隊員が声をうわずらせた。
 だが、何光年もはなれた天体からやってきたわれわれ異星人を、無視するものなどあるだろうか。相手が恐れるとか、あるいは崇拝してくれたら、こちらもそれなりの対応があるというものだが、無視にだけは、なんの打つ手も思い浮かばなかった。
 とりあえず、一時船内にもどって、今後の検討を講じることになった。 
 ハルヤマたちは、外部がうつしだされた巨大モニター画面のまえに集まり、いまもそこを無表情―――というより無頓着に行き来するこの星の住民たちを茫然とながめていた。
「かれらをみてるとなんだが、はやく我々に立ち去ってもらいたいようにおもえるな」
 ふともらした部下のコメントに、ハルヤマはひっかかった。
「なるほど、そのための無視か。しかし何光年も隔てた距離からやってきた我々としては、ここはひきさがれないな」
 人類の存在する惑星はきわめて稀で、今回はまさに千載一遇の遭遇といえた。
 惑星調査隊としてみれば、この機会を逃す手はなく、この星の文明に関する資料は、その価値からいってなんとしてももってかえらなければならなかった。そのためにも、かれらと交流をふかめることは必須で、無視ぐらいでひきさがるわけにはいかないのだ。
「マシタ」
 とハルヤマは、ひとりの女性隊員の名を呼んだ。
 彼女は、いまのように、交渉に齟齬が生じたときのための要員で、はじめて足をふみいれる惑星での、未知の種族とのやりとりを専門にしてきた。人一倍五感が鋭く、言葉の通じない相手の胸の内を敏感に感じ取る能力にたけていた。
「きみの出番のようだ」
 マシタはしっかりうなずいた。
「承知しました。かならず、コンタクトをとってきます」
 彼女は二人の男性隊員にまもられながら、宇宙船から出ていった。
 ハルヤマはじめ搭乗員すべての目が、彼女の姿を追い続けるモニター画面にくぎ付けになった。
  マシタは、およそ五時間をかけて、この星の住人たちとの交渉に全力をそそいだ。だれかれなしに接近しては、ゼスチャーを交えて根気づよく、じぶんたちの目的を伝えようとした。
 その様子をモニターで逐一観察していたハルヤマは、彼女がなんども戸惑い、また当惑する場面にでくわすのをみた。それはある意味、当然かもしれない。彼女がたちあっている連中は、隣近所のものたちではないのだ。
 宇宙船にもどってきたマシタに、さっそくハルヤマは問いかけた。
「どうだった。成果はあったか?」
「それが………」
「モニターで観察していたが、苦労していたことはわかっている」
 それでもなにか、つかんだものはないのかと、ハルヤマはめずらしく焦燥を顔にあらわした。
「わたしたちに対して、とてもおびえていました」
 ハルヤマには以外だった。モニター画面をみるかぎり、そんな様子は伝わってこなかったが。
「わたしがいうのは、かれらの内面のことです。どのひとも、びくびくしていて、ナーバスになっていました」
「わたしにはみな、仮面のように無表情にみえたがな」
「それがわたしにも不可解なんです。内心あんなにびくついているのに、みた目はだれもおちついています………なんだか、奇妙ですわ」
 そのとき、べつのモニターをのぞいていた隊員が、すっとんきょうな声をあげた。
「あれは!」
 その声にだれもが彼のみているモニターに視線をむけた。
「おおっ!」
 全員からどよめきがあがった。モニター画面に、むこうの大地によこたわる宇宙船が映し出されていた。
「これは―――」
 さすがのハルヤマも、しばらくは二の句がつげなかった。なぜならその宇宙船は、じぶんたちの宇宙船と機種がおなじだったからだ。
 まるみをおびた胴体、短めの尾翼、さらにおどろいたことには前部に描かれた鷲をデザインしたマークまでが、そっくり同じだった。
「これはきっと、トリックです。われわれの宇宙船をあそこに投影しているのでは? たとえば大型のスクリーンとか、あるいは鏡とか、もしくは蜃気楼とか―――」
「いったい、なんのためにそんなことを?」 
 しかしだれも、ハルヤマのその疑問に答えられるものはいなかった。
「一発、ぶっぱなしてやりましょうか」
 血気にはやる部下のひとりが、物騒なことをいいだした。
「それはいかん。もしかしたら先方は、こちらが先に手を出すことを、まちかねているのかもしれん」
 部下たちもまた、いまのハルヤマの発言を重要視して、逸って攻撃する愚はおかさなかった。
 ハルヤマは、なおも隊員たちとの慎重な対話を重ねたあげく、あの突然出現した宇宙船の調査にでかけることにした。
 このときは主に、技術系の隊員を中心に編成を組み、問題の宇宙船まで用心しながら近づいて行った。
 みればみるほど、いまハルヤマが間近でみている宇宙船は、自分たちがここに乗ってきた宇宙船と、そっくり同じだった。ただそれが鏡や蜃気楼の投影でないことだけは確かで、宇宙船は現実に大地の上に着地していた。
「あら………」
 いっしょに同行したマシタ隊員が、いぶかしげに首をかしげた。
「この宇宙船も、びくついていますわ」
 それにはさすがにハルヤマはあきれかえった。
「なにいってるんだ。無機質の宇宙船が、なんでびくつくというのだ」
「でも、本当なんです。私、感じますもの」
「キャプテン、実験してみましょうか」
 と、技術系主任が、スタンガンを手に、ハルヤマの指示をまった。
「スタンガン程度なら………」
 超合金でつくられた宇宙船が、微弱な電気ショックなど、ものともしないことだろう。搭乗員たちに危害が加わるわけでもなし、ハルヤマは軽いきもちで許可した。
「いちど、ためしてみろ」
 技術系主任も、それがなんのための実験かじぶんでもよく認識していない様子で、とりあえずスタンガンのスィッチを入れ、青白く放電する先端部分を宇宙船の表面に当てた。
 とたんに、隊員たちの頭上でばたばたという音がした。一陣の風が吹きつけ、隊員たちの髪をなびかせた。みんなはけげんそうに頭上をみあげた。
 と、これまで宇宙船だったものに、翼のようなものがのびひろがったとおもうと、猛烈ないきおいで羽ばたきはじめた、隊員たちはすさまじい風の煽りをくらって地面にたたきつけられた。
 ハルヤマはそのときみた。宇宙船がみるみるなにかの生き物に姿をかえていくのを。
「みんなすぐに、宇宙船にもどれ」
 ハルヤマの命令で隊員たちがかけだすのとおなじに、生き物のほうもあわてて反対方向に飛び立っていった。
 宇宙船にもどり、さっきの生き物の姿を画面で再生したものをみたハルヤマは、生き物の表面の色が宇宙船と同じ光沢をおびた銀色から淡い緑色にさまがわりするのを確認した。それにつれて表面も、こまかな突起がひろがり、鱗にとりまかれた二本の脚がさいごににゅっと胴体からつきだすのがみえた。
「この生き物はいったい、なんなんだ」
 もちろんだれも、いまのキャプテンのといかけに答えられるものはなかった。
 彼といっしょに船内に逃げこんだマシタが、なにかおもいあたるふしがあるのか、仔細ありげに、
「やはりわたしが感じたとおり、あれは宇宙船ではなく、宇宙船をまねた生き物でしたわね」
 と、さっきは彼ににべもなく否定された見解を、いまはちょっぴり得意げに胸を張って口にした。
「きみはさっき、宇宙戦がびくついているといったな」
「いいました。ただし、宇宙船ではなかったですけど」
 ハルヤマはいまいちど、モニターの静止画像にみいった。
 翼は羽ではなく翼竜のような薄い膜でできていた。胴体同様その膜にも、色のグラデーションができていて、そのグラデーションの変化によって宇宙船の外壁とおなじ色を作りだしていたものとおもわれる。色だけでなくこの生物は、形までを変形させる能力をもっているようだった。でなければ色だけの変化でそっくりな宇宙船を模倣できるわけがなかった。
「擬態か………」
 つぶやくようにいったキャプテンの言葉に、マシタは大きくうなずいた。
「わたしもそうおもいます。あの生き物は、あきらかに擬態をしていたのです」
「しかし、なんのためだ。宇宙船にばけて、我々の目をごまかし、すきをみて襲いかかるつもりだったのだろうか」
「あの生き物は、とても臆病者ですわ。他の擬態する多くの生き物同様に」
「しかしどうして宇宙船なんかに擬態したんだ。ごまかすためなら、もっとほかにも、いろいろあるじゃないか」
 とキャプテンは、他のモニター画面がうつしだす宇宙船の周囲の木々や、遠くの岩、あるいは民家を順にみていった。かれの目はそして、さいごに地上を行く人間たちをとらえた。
「この連中に擬態したほうが、宇宙船なんかよりはるかに、自然に映るけどなあ」
「あっ」
 おもわず声をあげるマシタを、ハルヤマと隊員たちはみた。そしてみんなは息をひそめて、いまの驚きの理由を彼女が話しだすのをまった。しかし、マシタがいったのは、
「だれか、スタンガンをもって、ついてきてくれないかしら」
 それを聞いた隊員たちはいちように、不可解そうなまなざしを見交わした。
 だがひとりハルヤマだけは、なにかひらめくものがあったとみえ、三人の部下にそれぞれスタンガンを用意させて、じぶんもいっしょにマシタとともに船外に出た。
「だれでもいいから、とおりかかった人に、スタンガンを当ててみて」
 もちろんちょっと刺激を与える程度の微弱なパワーでと彼女は断った。
 意図がまだつかめない隊員たちは、さすがに戸惑いをかくせない様子だったが、指図どおりにしろというキャプテンのうながしに、一人がようやく決心して、相変わらず無表情で歩いている人間にむかってあゆみよっていった。
 スタンガンを押し付けられて、背筋をそらしたその人間が、またあの翼のある生き物にさまがわりしたとき、ハルヤマは得心がいったようにうなずいた。
「人間たちも、擬態した姿だったんだ」
 マシタはそれから、隊員たちにそばの木にもスタンガンを当てさせた。たちまち木から翼がのびて、ざらざらした皮膚の生き物に変身するなり、おどろいてとびさっていった。
 これにはハルヤマもあっけにとられた。だがそれから数時間をかけて、この地上のありとあらゆるものに電気ショックを与えたところ、岩も家屋もそして道路さえもが、あの翼のある生き物たちの、連係した擬態だということが判明したときはまさに、あっけにとられた。
しかし、みんなが本当に驚愕したのは、ひととおりこの惑星の調査をおえて、宇宙船が離陸体制に入った直後のことだった。
 なにもかもが翼のある生き物たちによる擬態行為だった事実は、ハルヤマはじめすべての調査隊員にとって、まったく理解の域をこえていた。形態はもとより、大小にかかわりなく擬態できる能力は、われわれの常識をはるかに超越しており、その仕組みは今後の本格的な調査研究にゆだねるほかなかった。
「とにかく一時後退だ」
 ハルヤマは決断を下した。
 もっと調査に必要な器具や設備を準備して、その専門の生物学者もひきつれて、ふたたびここを訪れることにしよう。
 なぜか離陸にてまどっていた。
 きくと、エンジンがトーンダウンしていて、そのため最初から強いパワーが必要となり、目下他のエネルギーを遮断してエンジンに集中しているところだという。
「離陸の瞬間、衝撃があるので各自、座席について安全ベルトをしてください」
 船内に流れたアナウンスにハルヤマたちもコントロールルームに着席した。
「どれくらいのショックかしら」
 と、ハルヤマの隣の座席でマシタが、ちょっとおびえた調子でつぶやいた。
「ようするに、小さな穴からボールの空気を一気に押し出すようなもので、たいしたことさないさ」
 反対側の席の技術系の隊員が、なだめるようにいった。
 その直後、ベルトをしていなかったらまちがいなく脳天が天井を直撃したほどのものすごい衝撃がみんなにおそいかかった。宇宙船はきっと、きりきり舞いしながら離陸したにちがいない。
 船がようやく安定し、ハルヤマも落ち着きをとりもどして、眼前のモニター画面に目をむけた。
 その画面のなかに、いまのいままで惑星だったものが、大きな翼をひるがえして、とびさっていくのがみえた。








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