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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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思春期は苦い

14/06/21 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1102

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スタートライン  海援隊
            作詞 武田鉄也  作曲 千葉和臣

夜明け前の薄暗い道を 
誰かがもう走っている
ひろった小石で誰かが書いた
アスファルト道のスタートライン
寒い身体を言い訳にして
町は眠ってる曇り空の朝に
自分の汗で自分を暖めて
寂しさ目指して走る人がいる
今 私達に大切なものは
夢や恋を語りあう事じゃない
一人ぼっちになる為のスタートライン

川田浩也は目を開けて、携帯音楽プレーヤーの停止ボタンを押した。
初夏の昼時の日比谷公園は、会社勤めのスーツを着た男性や女性でベンチは埋め尽くされていた。
平日の昼時にこの公園で休憩をするのが日課となって、もうすぐ9年が経とうとしていた。大学を卒業と同時にいま勤務する会社に入社し、何度も会社を辞めようかと思ったことはあったが、その度に自分で自分をなだめて現在に至っていた。きっと10年後も昼時に日比谷公園で休憩をとっている生活を送っているだろうと漠然と想像ができた。
「一人ぼっちになる為のスタートライン」川田は歌詞のフレーズを小さく口ずさんだ。
武田鉄也が少年少女にあてて書いた歌詞は、思春期に周りを気にしてばかりいた当時の自分を勇気づけてくれたように、31歳になった今でも勇気づけてくれる。
公園のベンチに座りながら、目を瞑って携帯音楽プレーヤーの再生ボタンを押した。


雨が降ってる町の公園で
誰かが一人濡れている
待たせてばかりの恋する人に
靴のかかとで描いたピリオド
素直な奴ほど傷ついてしまう
みんな上手にふざけて生きるのに
たったひとつの別れの為に
真っ直ぐ涙を流す人がいる
今 私達に大切なものは
恋や夢を語りあう事じゃなく
一人ぼっちになる為のスタートライン

二番の歌詞が終わり、また携帯音楽プレーヤーの停止ボタンを押して目を開けた。
「素直な奴ほど傷ついてしまう みんな上手にふざけて生きるのに」川田はこの曲の一番好きなフレーズを2回続けて小声で口ずさんだ。
素直な奴は傷つきやすく、みんなは上手にふざけて生きているのをこの曲で知った。学校の先生でこんなことを教えてくれた教師は一人もいなかった。
傷つきやすい少年少女は、多かれ少なかれ素直すぎる生き方の下手な人間なのだと、31歳になったいま、この曲を聴くと当時の自分の生きづらさの訳を説明できた。
昼休憩が終わりに近づき、会社に戻ると事務員の橋本加奈が「また日比谷公園で休憩してたんですか?」と笑顔で聞いてきた。
「うん。晴れた日は気持ちがいいよ」
「でも、熱くないですか? 今日は33度まで気温が上がるって今朝のテレビで言ってましたよ」
「公園って木があるから意外に涼しいもんだよ。それに気分転換には外の空気を吸って太陽の光を体に浴びることが効果絶大だよ」
加奈はマニキュアを爪に塗ながら小さく笑顔で頷いた。
夕方5時、仕事は定時に終わった。
金曜日ということもあって、残業する社員はほとんどいなかった。
加奈が近づい来て「川田さん、一緒に飲みに行きませんか?」と誘ってきた。
「ごめん、誘ってくれてありがたいんだけど、今日予定があるんだ」
「女性とデートですか?」
「いやいや、コンサートを聴きに行くんだ」
「誰のコンサートですか?」
「海援隊。知ってる?」
「誰ですかそれ?」
「武田鉄也さんが歌っているバンド」
「武田鉄也さんって、前にドラマでやっていた金八先生の人ですよね?」
「そう。俺、海援隊が好きなんだ」
「私も一緒に行ってもいいですか?」
一人で聴きに行く予定だったが、急きょ橋本加奈と一緒に行くことになった。コンサート会場のチケット売り場で、2枚の当日券を購入し会場に入った。
来場者の多くは中高年層が多く、海援隊の3人がステージに登場すると拍手が会場を響かせ、演奏が始まるとさらに拍手は大きくなった。
数曲の演奏が終わり、武田鉄也が言った。
「えー、次に演奏する曲はスタートラインです。この曲は自分の思春期の頃を思いだしながら歌詞を書きました。思春期というのは自分の人生にもっとも大きく影響する年頃です。この時期をどのように過ごしたか、どのような人と交友を持って生きたかによって、人生に多大な影響を与えます。これから演奏する曲を、貴方がたそれぞれの遠い昔の思春期を思い返しながら聴いてみてください」
スタートラインを武田鉄也が歌い出すと、会場の後ろや前から啜り泣く声が小さくではあるが聞こえてきた。
川田は、きっと泣いている人達は思春期に苦い思いばかりを経験したのだろうと思った。
自分も思春期の時期に苦しんだ一人なので、涙が抑えきれずポロポロと頬をつたった。
隣の椅子に座る普段は気の利かない橋本加奈が、そっとハンカチを差し伸べてくれた。
思春期はとても苦かったと、川田は曲を泣きながら聴いて思った。
      


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