たつみさん

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14/06/20 コンテスト(テーマ):第五十九回 時空モノガタリ文学賞【 ON THE ROAD 】 コメント:0件 たつみ 閲覧数:892

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 ここは静かな緑の世界。
 見渡すかぎり広がる野原には、沈むことのない緑≠フ太陽から柔らかな陽が降り注いでいる。そこに一本の道がある。白い砂を敷き詰めたような道が真直ぐと伸びている。
 その道を人々が歩いている。彼らは前だけを見つめ、足を進めている。親に怒られても飛び回っているような子供も、立つことだってできないような細い足の老人も、誰もが同じスピードで歩いている。ゆっくりではあるが力強い足取りで前へと足を進めている。
 野原の先にある川へと向かって。
 川の岸辺には腰を落とし、釣り糸を垂れる姿がある。たかが四、五メートルといった幅の川沿いに、ぽつりぽつりと距離を置いて釣り糸をたれる人々。彼らは無言で川面を見つめている。浮きもなくただ川中へと伸びる糸を、生気を失ったガラス玉のような目で見つめ続けている。
 ふと、釣り糸をじっと見つめていた中年女性の手が動いた。竿先が頭上へと向かい、川面に仄かな光が見えてきた。さらに彼女が竿を上に上げると、水面からソフトボールほどの青白い物体が微かな光を発しながら姿を現した。
 女性が竿を立てると、青白い物体は彼女の胸元へと引き寄せられ、手を添えると糸から自然とはずれた。
 彼女は、無言で竿を置き、両手で物体を包み込むように抱え、そっと胸に押しつけた。
 青白い物体が、まるで女性の体に溶け込むように小さくなっていく。そして、完全に消えた時、置かれた竿が消え、彼女は向きを変えてその場を離れた。
 緑の草の上をとおり、人々が歩く道に辿り着いた女性。彼女も前だけを見つめ、足を踏みだしていく。
 彼女と入れ替わるように、三十歳くらいの女性と五、六歳の女の子が現れ、腰を落した。ガラス玉の目をした二人の手には釣り竿がある。同時に、髭面の男の姿も岸辺にあった。その手には何もない。髭の男は前だけを見つめ、真直ぐと川へ近づいている。川の中に足を踏み入れても止まることなく進んでいく。そして、数歩進んだところで川の中へと沈んで消えた。
 だが、髭の男はすぐに川の中央に姿をみせた。
 無表情だった男が顔を歪めながら大声で叫んでいる。手足をばたつかせながら必死にもがいている。しかし、ほとんど止まっているかのような川に流されていく。
 浮き沈みを繰り返しながら必死に助けを求める男。
 だが、彼に視線を向ける者は誰もいない。静かな空間を切り裂くような大声が響いても、歩く者は前だけを見つめ、座る者は川面だけを見つめ続けている。
 やがて、もがき苦しみながら、髭の男は川の終わりに辿り着く。そこが彼のような人間が辿り着く場所――更なる苦しみが彼を待ち受けている。
 一方、導かれるように道を歩いていた人々は、川に架かる橋に辿り着く。彼らはアーチ型の朱色の橋を渡って、対岸へと向かっていく。対岸はまるで別世界であるかのように白い霧に包まれている。
 橋を渡り終えた人々には、ふわりと表情が浮かび、和らいだ顔で霧の先にある安らいだ世界へと消えていく。
     ★
 郊外にある片側一車線の道は空いている。
 カップルが乗る車も軽快に走っていたが、赤信号で止まった。
「ねぇ、その話しほんと? ほんとにこの辺りにでるの?」
「あぁ、何人も見た人がいるらしくて、地元じゃ有名らしいぞ」
「やだぁ、もう。こわいなぁ……」
「ほら、さっき話していた事件、強盗とかいろいろ悪さして指名手配されていた強面の髭面男が警察に追われて、逃走中に事故を起こして死んじゃったっていうあの事件。その事故現場がここなんだよ」
「マジで」
「マジ、マジ、大マジだよ。その時の事故に巻き込まれて女の子と母親が死んじゃったんだけど、成仏していないから、天国に行くための何とかっていう川を渡れないんだよ。それで、今だに、この交差点辺りを霊だか魂だかが彷徨っているらしいぞ」
「うそ……」
「うそも何も後ろ見てみろよ。後部座席に人が……」
「キャッ! もうーっ。おどかさないでよ。誰もいないじゃない」
「えへへへぇ」
「もうっ! バーカ」
「うわっ!」
「今度は何っ!」
「いやぁ、バックミラーに火の玉みたいのが見えた……」
「もう、しつこい! そういうおどかし、もういらないから。ほら、青信号になったし、さっさと車だしなさいよ」
「いや、マジで青白い玉がふたつ……」


※交差点の片隅には綺麗な花とお菓子が、絶えることなく供えられている。手を合せせる人々の思いはきっと届く。もうすぐ彼女たちは安らかな世界へと――旅立てる。


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