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28歳

14/06/17 コンテスト(テーマ):第五十九回 時空モノガタリ文学賞【 ON THE ROAD 】 コメント:0件 フレッシュパルプ 閲覧数:967

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 私は無作為に縄を結び彼はその縄をめんどくさそうに解いた。彼というのはいわいる交際相手というやつで5年以上の付き合いになる。私は無作為に縄を結ぶ。果てしなく広い市民体育館や文化会館の大ホール規模の大きさの場所で無作為に無秩序に規則性なく縄を結ぶ。彼はそれをめんどくさそうに解く。ぶっきらぼうに冷めた態度で彼は縄を解く。
 私は彼が縄を解く間に何本もの縄を結ぶ。二重に結んだりちょうちょ結びをしたり波止場で釣りをしていたおじさんに教えてもらったエイトノットという結び方で縄と縄を複雑に結んだり遊びに富んだ結び方で私は縄を結ぶ。
 私は好奇心の奴隷だ。好奇心に身を任せ危険な場所に足の赴くままに彼の気持ちは考えずに尋ねる。流浪の民のように殺風景な道を一歩一歩の感触がないままに歩く。歩いて疲れると立ち止まり自分の足跡も顧みないまま眠りに就く。深い眠りに就く。彼の腕にうもれながら疲れて家に戻り彼の腕に埋もれると窒息しそうになる。呼吸が曖昧になる。かまわず私は眠ろうと溶ける世界を見ながら意識を失う。 
 私の最近の日課はハプニングバーを訪れることだ。だいたい20時ぐらいに店を尋ねる。ジンライムを注文しカニのような動きをしながらビートを刻むラッパーや茶ばんだソファーで行為を行うカップルや遊びで訪れた素人に本域の亀甲縛りを手ほどきしている縄師や黒いマッキーで「未知こそ価値」と自分の体に書いて何かを求めている女の子、しきりにダーツに誘ってくる眉毛のないゲイ。おむつを履いたおばちゃんなどを眺め酒を足しながら夜を過ごす。
 様々な人種の坩堝。欲の坩堝。非日常。ハプニングバーは今の私にとってはとても大きな縄だった。結びがいのある大きな縄だった。初めてシンセサイザーの利いたパンチの効いた音楽に出会った中学生のように私の心はこの空間に奪われていた。
 蠅が一匹、アボカドと生ハムのサラダの周りを飛び回っている。均一かつ一定の速度で羽を広げ電池が入っているように飛び回っている。
 ピシッと音がした。箸が蠅をとらえた。惑星直列するぐらいの数奇な運命によって蠅は二本の箸によって命を絶った。羽が折れて下腹部が潰れ地に落ちた。

「宮本武蔵かと思ったかい?少女ちゃん。」

「いえ、蠅はただ羽を広げて飛んでいただけなのになんでそんなことをするのだろうと不思議に感じました。一寸の虫にも五分の魂があるのに」

「一寸の虫にも五分の魂がある。なるほど。ただ分け与えるという考え方は僕は持ち合わせていない。これは僕の働いたお金で買ったアボカドサラダいやアボカド生ハムサラダであり僕のこの世に生きた成果でもある。お金とは成果だ。成果とは誰かに分け与えるものではない。ただ少々力が余って殺してしまったことに関しては真摯に受け止めなければいけないな」

 彼は地に落ちた蠅を広い生ハムに挟んで食べた。私は寒気がしてジンライムを一気に飲み干した。寒気と酔いが混同しているようだった。呼吸が荒くなり、目尻に嫌な汗をかいた。彼の歯によってすりつぶされる蠅のイメージが鮮明に脳裏に焼き付いた。

「今、蠅のこと考えただろ?それは蠅に対する哀れみではなく蠅が僕の体内に入ることについて気持ち悪いと感じただろ?」

「いえ、そんなことは・・・ないです・・」 

 おおかた彼の予想は当たっていた。彼の発言で少しだけ私の思いと相違しているのは彼の言動や彼の振る舞いも気持ち悪いと感じていたということだ。

「少女ちゃん、ひとつ良い事を教えてあげよう。ここはハプニングバーであり欲の塊をそれぞれの人間が持っている。人を求めている人間が集まっている。大なり小なりの欲の塊はその人間達にとっての心臓であり肉体である。欲の塊は分け合うことはできないし誰かに分けてもらうものでもない。わかるね?」

 彼が何を言っているのかわからない。的を得ているのか幼稚なことを言っているのか戯言を言っているのか危ないクスリを大量摂取しているのか判断がつかない。

「少女ちゃん、君はなにも求めていないじゃないか。なにも求めない人間はここに来てはいけないよ。単純な好奇心だけで歩みいれる場所でもない。ここは社会から見放された場所なんだ。君はまだ少女ちゃんなんだ。小鳥のように可愛い少女ちゃんなんだ。」

 私は28歳だ。少女ちゃんではない。それだけは確かだ・・・反論しなければ!私は28歳なのだ。少女ではない。28歳でオンザロードという小説に出会い悲しい楽園を彷徨い続けている。フリをしている。うだつのあがらない28歳・・・ああ気持ち悪い。頭が飛びそうだ。眠い。
 明日から縄を結ぶのはやめよう。好奇心を捨てよう。彼に明日あたり「好きだよ」と半世紀ぶりに言ってみよう。そうしよう・・・眠たい・・・寝よう。


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