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W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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北のくの一涙剣

14/06/16 コンテスト(テーマ):第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】 コメント:5件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1102

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 一面雪の中に白装束ときては、小弥太の眼力をもってしても、容易には見定め難かった。
 どこから手裏剣がとんでくるかもしれず、伊賀の忍びの中でも選りすぐりの小弥太といえども、しばらくは立ち往生を余儀なくされた。
 が、さすがに小弥太、覆面の隙間からのぞく浅黒い顔を手裏剣の標的と決めると、あとはそこをめがけて投げれば、次々に悲鳴が上った。
 昨日、服部半蔵の命を受けて小弥太はこの、雪に覆われた弘前にやってきた。隠し金山があるとの噂がたち、その真否を確かめるのが目的だった。
 さすがの彼も、ぬれた手拭いがたちまち凍りつくこの地の寒さには正直縮み上がったものだが、そんなやわなことなどもちろんいってられる場合ではなかった。
 隠し金山の有無は、幕府転覆にもかかわる由々しき事態。参勤交代を義務付けて、諸大名に散在させるのも、謀反を阻止するためだというのはいまや常識だ。
 ――弘前藩の隠し金山はいまのところ、噂の域をでない。
「お主のことは、それとなくあちらに流布してある。もし敵が攻撃してきたら、噂は本当ということになる」
 半蔵の言葉に、小弥太は絶句した。前もってこちらの存在を相手にしらすとは┄┄┄┄┄┄。だが、そこまでの危険を冒さないことには、なかなか尻尾をつかませないこともまた事実なのだ。
 案の定、小弥太がこちらにきていくらもたたないうちに、敵は襲い掛かってきた。
 敵の忍びは十人。すでに、四人は倒した。あとは、くぐつの術で┄┄┄┄┄┄と彼が身構えたとき、背後に殺気をおぼえ、木の上から一人がとびかかってきた。
 とっさに身をひるがえし様彼は、ぬきはらった刀で突きをいれた。真っ白な雪のうえに相手の忍びの、これまた純白の衣装がまぶしくひかった。そのせいか、彼の突きははずれ、再度放った突きもまたかわされた。大きく後方に飛び下がった小弥太の耳に、雪をふみしめる、かすかな気配が迫ってきた。一人、二人、三人┄┄┄┄┄┄
 いきなり雪を蹴ちらせて何人もが襲いかかってきた。その瞬間爆発がおこり、炸裂する炎、ふきあがる黒煙とともに、忍びたちが身をのけぞらせてはじけ飛んだ。
 数メートルはなれた松の影から、小弥太は顔をのぞかせた。くぐつの術は成功した。着物に木と雪と、その中に仕掛けた火薬を包みこんで作った身代りを自分とまちがえた敵たちは、まんまとふきとんだ。
 だが彼は、油断のない視線を辺りになげかけた。まだ一人、さっき自分に攻撃をしかけたやつがいる。
 だがいくら四方をみまわしても、雪の上にはなにもみえない。おそらく相手は、雪の中にふせて、その顔をこっちにさとられないようにしているのだろう。
 小弥太はまった。相手がこちらをうかがうために、顔をあげるのを。
 彼の額にじんわり、汗がにじんだ。たしかに敵はちかづいている。だが、なにもみえない。みえるはずの、覆面の中の顔が、いつまでたっても雪の上にうかびあがってこなかった。
 風を切る鋭い刃音がきこえたとたん、小弥太は飛び上がった。
 なおもその彼をねらって斬りかかってくる相手に、空中で身をひるがえした小弥太は、肩のあたりに刀の一撃をくわえた。
 短い叫び声から、女だとわかった。
「くの一か」
 いまの一撃で覆面がほどけ、透き通るまでに白い顔があらわれた。眉もそり落としたその顔は、まさに雪とみわけがつかないまでに真っ白だった。
「道理でわからなかったはずだ」
 小弥太は傷ついたくの一の胸元をつかんで、顔をひきよせた。傷は深くはなかった。相手は黒々とした目で、彼をにらみつけた。とどめを刺すには惜しいような美貌だった。だが、このままかえすわけにはいかない。
「覚悟しろ」
 小弥太はくの一の喉もとに、刃先をおしつけた。
 そのとき、女が声をあげて泣きだした。忍びが泣くなど、ありえない話だが、ここではそうではないのかと、あらためて彼は相手の顔をのぞきこんだ。
 するとその目から、大粒の涙がこぼれおちるのがみえた。一瞬小弥太の、女の襟元をにぎる指から力がぬけた。
 女がはげしく首をふったのはそのときだった。
「うっ」
 小弥太はおもわず目をつぶった。なにか鋭いものが肉眼に刺さった。
 だがもっとつよい痛みが胸をえぐったのはその一瞬後のことだった。彼は苦し気なうめき声をあげながら倒れた。
 その彼から刀をひきぬくと女は、いま彼の目を射た、まだ自分の瞳にはりついている凍りついた涙の粒を手の甲でぬぐった。
「北の忍びをあまくみたね」
 それだけいうと、たちまちくの一は雪野原のなかに消えていった。


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このストーリーに関するコメント

14/06/16 gokui

 読ませて頂きました。
 忍び同士の戦闘シーンに絞り込んで、うまいことまとめましたね。くノ一のあり得ない忍術に某時代小説を思い出しました。

14/06/16 W・アーム・スープレックス

gokuiさん、コメントありがとうございます。

某時代小説が何か、気になるところです。
読んでいただいてありがとうございました。

14/06/17 かめかめ

女の涙には勝てないというやつですな

14/06/17 W・アーム・スープレックス

文字通り、女の涙に小弥太は敗れました。修行が足りないということでしょうか。

14/06/18 W・アーム・スープレックス

上から10行目、諸大名に散在―――散財のまちがいです。失礼しました。

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