1. トップページ
  2. たんぽぽ

裃左右さん

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

5

たんぽぽ

14/06/12 コンテスト(テーマ):第五十八回 時空モノガタリ文学賞【 転がる石のように 】  コメント:8件 裃左右 閲覧数:1151

この作品を評価する

妻はたんぽぽのように逞しい女だ。

夫である俺が単身赴任しているのにも関わらず、きちんと子育てをしている。

一方、俺は目立たないような人間だ。
昔からろくに目立ったことがない。
せいぜい、習字のコンテストで一回だけ銅賞をとったことぐらいだ。

実際のところ、今の妻と結婚できたのも奇跡みたいなもんだ。
付き合っていた頃は、デートのたびに赤くなってくれたもんだが今じゃ見る影もない。
たぶん、冷静になったんだろう。
俺はそのへんの道端に転がっている石ころみたいなもんだ。

真面目さと、周囲を見渡してフォローする部分だけが評価され、仕事じゃそこそこの立場にいるが目立ちはしていないだろう。
そんな誰かの目に止まらないような俺でも、誰にも譲れない大切なものがある。

それは家族だ。

妻や子供たちの声や姿、それが俺に生きる力や仕事を頑張る活力を与えてくれる。
でも、今は本当にそれが不足して辛い。

毎日、夜になったら寂しくて泣いている。
目覚めるたびに、週末までの日数を数えながら、ため息をついている。


出来るなら、毎晩自宅に電話したい!

一人、夜に布団の中で泣きながら、妻や子供たちの声を聞きたいのを我慢してさえいる。
電話で毎日声を聞けるなら、離れていてもきっと頑張れる。
そう思ったから出張したのに。

だが、実際に毎日毎晩電話したら、妻に怒られてしまった。
とうとう着信拒否までされている。

その後、折り返し電話は帰ってくるけど、用事がない場合なんか事務的で冷たい。
声が聞きたかっただけなのに……。


それでも週末だけは自宅に帰って家族の顔を見れるので、それだけが楽しみだ。
昼は弁当で節約し、外食を控え。

夜に飲みに行くこともなく、お金をなるべく節約している。
節約しないと、週末に自宅に帰る金がなくなるからな。
おかげで職場の連中には、付き合いが悪いと言われるけど仕方ない。
だって、俺には家族がいるんだから!

だいたい自宅に帰ると、妻と子供をドライブがてら遊びに連れていく。
内心は、たまには家族とのんびり家で過ごしたいのだけど、それも我慢している。
家でゴロゴロしていたら、「ろくに家にいないのに、子供を遊びに連れてきもしない」と責められるからだ。

トイレ掃除とかを手伝ったらそうも言われないのだが、それはできれば遠慮したい。
毎週、自宅にトイレ掃除しに帰るのかと思うと悲しすぎるし。
でも、俺は仕事の疲れも我慢して頑張るのだ!

妻と子どもの笑顔のために!


しかしだ、こうして一人で毎日食事を食べていると悲しくなる。

朝はおにぎり、インスタントの味噌汁、それに野菜ジュース。

昼は、冷凍食品だけを詰め込んだ毎日同じメニューの弁当。
子供の頃から、好きなオカズが食べれるのは嬉しいけど。

夜は缶詰と、インスタントの味噌汁、あとタイムセールで安くなったお惣菜。

毎日、ほとんど変わらんメニューだ。
家に帰った時くらい、手作りのオカズが食べたい。
でも、妻は外食に連れてけとせがむ。

「たまには、貴方の手料理が食べたいな」

なんて言ってくれるのも嬉しいけど、俺はお前の料理が食べたい。
でも、それも我慢する!

食事時の唯一の癒しは、冷凍食品に応援メッセージのおみくじがついていることだ。
きんぴらごぼうを食べると、毎日違うメッセージがついてくる。

「あなたのがんばりを、私は知ってるよ」

なんてメッセージが出てきた時には、俺は本当にひとりじゃないんだと嬉しくなった。


週末がようやくきて、また家族に会いに行ける嬉しい。
……先に電話を掛けようかな。
もちろん拒否されているので出てもらえないが、空いた時間に電話を入れてくれるはずだ。

ほら、きた!

「わたしだけど、わざわざ電話入れてどうかした?」

ここで「これから帰る」とだけ言うと、「大して用事もないのに」と冷たくされる。
だから、こう言うようにしている。

「今から帰るけどね、何か必要なものはあるかい? ケーキでも買って帰ろうか?」

こういうと少しだけ優しくしてくれるのだ。

「あら、じゃ今子供たちに食べたいケーキ、聞いてみるわね。 二人ともきなさい、お父さんがケーキ買ってくれるって!」

「えっ、ほんとっ!」

ああ、幸せな時間だ。
俺の1日のお小遣い、500円くらいだけど全然ケーキくらい頑張れる。

電話を切って、ほくほくとした気分で電車に乗る。

俺は道端に転がる石のように、その辺にいくらでもいそうなつまらない男だ。
決して人生の主役になれもしないし、誰かにその価値を認めてもらうこともないかもしれない。
それでも妻がいてくれるなら俺は幸せだ。

道端に転がる石の傍に咲く、逞しいたんぽぽ。
俺はそのたんぽぽがいつまでも咲いていることを願っている。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/06/13 糸白澪子

拝読しました。
〈俺は道端に転がる石のように、その辺にいくらでもいそうなつまらない男だ。〉
と言っているけれども、そんな理想のお父さんはまず居ないと思うとなんだか微笑ましいです。

14/06/13 裃左右

感想、ありがとうございます。
情けなく弱い生き方に見られたりするかもしれませんが、逆にある面でとても強いからこそ出来る生き方なんだと思っています。(^_^)
周りにもこういう方、まずいないですね。

14/06/16 光石七

拝読しました。
まさにこの主人公のような男性を先日テレビで見ました。
単身赴任で毎日冷凍食品のお弁当、週末だけ家に帰る。いつも同じ冷凍食品を入れるのは、応援メッセージがついてるから。電話しすぎて奥さんに着信拒否されるところも同じでした。
家族を愛し大事にしているお父さん、頑張れ!

14/06/16 裃左右

もしかしたら、そのテレビの方もモデルかもしれません
知人にそういう方の話を聞いて感銘を受けたんです
聞いた話や見た出来事、実体験を混ぜ合わせているので、たくさんのモデルの方がいます

結果、原型を留めているかは不明ですw
ここまでの方はまず見たことないですが、家族のために頑張るお父さんにはがんばって欲しいです! 

感想ありがとうございました!

14/06/17 かめかめ

いいなあ。
こんなお父さんが欲しかったです

14/06/17 麻帆

家族のために色々と我慢して
仕事を頑張るお父さん
かなり理想です。

奥さんが逞しくなるのは
旦那さんや子供がいるからだろうなと
納得しながら読ませてもらいました

14/06/18 草愛やし美

裃左右様、拝読しました。

こういう方も現実におられますよねえ、希少価値ありと思える、いい旦那さまですねえ。奥さまは、きっと旦那さまが良すぎて、その良さが当たり前になってしまっているのでしょうか。失って初めて知るもの、価値というものは当たり前すぎるとわからないのではないかと思います。
こんな素敵な旦那さま、大切にしないと。でも、ある種、一緒にいると、「濡れ落ち葉」状態に感じられてしまっている可能性もあります。

我が家も、長い間、単身赴任などのあった経験者ですが、「亭主元気で留守がよい」のは世の常。亭主が、いないことのほうが家族にとって当たり前にならないことを、祈ります。

14/06/18 裃左右

感想ありがとうございます。

このお話の主人公ですが、理想のお父さん像だと私自身は思っております。
ですが、この主人公の未来について考えるに、あまりいい想像が出来ない部分があります。

残念ながら、その『たんぽぽ』がいつまでも転がる石の傍に咲いているかはわからないのです。
ですが、私もその『たんぽぽ』がいつまでも傍で咲いていることを願いたいですね。

ログイン