ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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14/06/06 コンテスト(テーマ):第五十九回 時空モノガタリ文学賞【 ON THE ROAD 】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:1096

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武藤誠一が自宅に帰宅すると、妻の悦子が台所の床に座り両手で顔を覆って泣いていた。周りは争った跡が色濃く残り、食器などが割れて散らばっていた。
「ただいま」
「あなた、智樹を何とかしてよ」
顔を両手で覆ったまま、悦子は涙声で言った。
「智樹は2階か?」
うん、と悦子は頷いた。
誠一は背広姿のまま、2階へと続く階段をゆっくりと上った。上がりながら、なぜあの優しかった息子が家庭内暴力を振るうようになってしまったのかと、何度考えても答えのでないことを改めて自分に問うた。家庭内暴力を振るうようになったのは、智樹が中学2年に進級してしばらく経ってからだった。学校で嫌なことでもあるのか聞いても、智樹は何も答えず、暴力という形で家の物を壊すようになった。学校の担任に悦子が相談に行くと、担任の教師は「学校ではおとなしいあの智樹君が? きっと反抗期なんだと思いますよ」と言われて帰ってきた。
誠一も担任の教師が言ったように、智樹は反抗期真っ盛りの時期なんだと自分と妻に言い聞かせて、無理やり納得しようと思ってきた。しかし、日に日にエスカレートする息子の家庭内暴力は、もはや一家を奈落の底に叩きつけるまで、不穏で沈んだ気持ちにさせていた。一度、ゆっくりと智樹と話し合わなくてはと思ってはいたが、智樹はそれには応じず、部屋をノックしてドアを勝手に開けると、サバイバルナイフを振り回して暴れた。
階段を上りきり、部屋のドアの前に立った誠一は、今日こそは絶対に話し合おうと腹を据えてドアをノックした。
「智樹、父さんだけどドアを開けるぞ」
「開けたらぶっ殺すぞ!」
「智樹、父さん今まで黙って見過ごしてきたけど、もうオマエの家庭内暴力を見過ごすことはできない。一度、父さんとじっくり話さないか?」
何の返答も返ってこず、誠一は鍵のついていないドアを開けた。
「テメー、なに勝手に開けてるんだ!」立ち上がった智樹の右手には、サバイバルナイフの刃が光っていた。
「ナイフをしまいなさい」
「マジで刺すぞ!」
「もう父さん、腹を据えた。オマエと話し合うまで今晩は寝ないぞ」
そう言って、向かい合う智樹の右手からナイフを奪おうと手を出したら、ナイフが手の甲をかすめた。
手の甲から滲み出る血を見つめたあと、自然に智樹の頬を強く張った。頬を張りながら、今まで息子をぶったことなど一度も無かったなと思った。
自分が甘やかして育てたから家庭内暴力を振るう子供になってしまったのか、もう今からでは手遅れなのではないかと、父親として失格だった自分を心の中で責めた。
智樹は初めて父にぶたれたことに驚いたのか、サバイバルナイフを右手で握ったまま、俯いていた。
「智樹、外に出かけないか?」
「……」
おとなしく後ろをついて来る智樹を連れて、川沿いの車がほとんど通らない道路を歩いた。夜空には月と星が輝いていた。
「あれを見てごらん」と言って、夜空の一点を指さした。サバイバルナイフを握りしめたままの智樹が、父親の指さす方向を見た。
「ヘール・ボップ彗星だよ。綺麗だな」
去年から見えていたヘール・ボップ彗星は、1997年の今年に入るとその明るさはさらに増し、4月の今月は太陽に最も近づく近日点を迎えていた。
「あのヘール・ボップ彗星は今世紀最大の彗星らしい。彗星核が50kmもあるんだ。太陽に近づき反射した光によって、こうして肉眼でハッキリと彗星を見ることができるんだ。次にこんな大きな彗星が肉眼でハッキリと見えるのは、数十年後らしい」
誠一は道路の上に仰向けに寝そべった。
「智樹、オマエも寝そべって彗星を観たらどうだ。どうせ車なんか来やしない」
智樹は持っていたサバイバルナイフを地面に放り投げた後、父と同じく仰向けに寝そべった。
「なあ、智樹、いったい何が不満で家庭内暴力を振るうんだ?」
「……」
「父さんと母さんに不満でもあるのか?」
「学校……」
「学校? 学校で何かあったのか?」
「イジメられてる……。もう学校に行きたくない」
彗星を見つめたままの誠一の耳に、啜り泣く智樹の声が聞こえた。
「それが原因だったのか。ごめんな、父さん気づいてやれなくて。学校なら行かなくてもいいぞ」
「本当にいいの?」
「ああ。心におった深い傷は生涯傷跡が残る。もう智樹の心には大きな傷ができてしまったかもしれないけど、その傷が少しでもよくなるまで家にいなさい。来年は高校受験の年だけど、高校にも行きたくないなら行かなくてもいい。人の数だけ生き方はあるんだ。もし高校に行かずに、でも大学に行って学びたいことが出てきたら、大検に合格すれば大学受験ができる」
車のいっこうにやって来ない道路上で、父と息子は無言で明るく長い尾を夜空に描きだしているヘール・ボップ彗星を見つめていた。
もう父と息子に言葉はいらなかった。彗星が二人の口を閉ざさせた。


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このストーリーに関するコメント

14/06/07 クナリ

世界の根底に他者肯定が地下水のごとく流れていることが偲ばれる、良作ですね。
ただ、最後で息子が急に素直になった印象があったので、息子の荒れているあたりの描写を減らして、親子の絆を印象付けるような伏線を盛り込んだほうがいいかな、と思いました。
ああでも、わざとらしくなっちゃうかな…。

道の上で、同じ空を眺めながら分かり合おうとする親子の図が、いいですね。
息子さん、「行かなくていい」と言われたのに逆に勇気を出して学校に行きだす光景がなんとなく浮かびました。
無私で味方してくれる人が一人でもいれば、人間はがんばれるのかもしれないなあなんて。

14/06/07 ポテトチップス

クナリさまへ

コメントありがとうございます。
親子の絆をもっと中心に書くべきだったと、クナリ様のコメントを読んで思いました。

文中に出てくるヘール・ボップ彗星は、私が中学3年生の時に出現した巨大彗星です。
テレビでも大きく取り上げられ、1997年の4月にもっとも肉眼でハッキリと見ることができました。
私にとって、とても印象深く思いでに残る彗星の一つです。

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