1. トップページ
  2. 中間宿主から終宿主まで

五助さん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

5

中間宿主から終宿主まで

14/06/06 コンテスト(テーマ):第五十九回 時空モノガタリ文学賞【 ON THE ROAD 】 コメント:3件 五助 閲覧数:1652

時空モノガタリからの選評

左目に入り込み、左の視覚と脳を支配する寄生虫の視点で、淡々と描写されているところが、なんとも恐ろしかったです。五助さんはいつも着眼点が独特で個性的だなと感じます。寄生虫の「多大なる喜びを、この脳に与える」というセリフはころはまるで狂気のカルト教祖のようです。すべて寄生虫に支配されるのではなく、カタツムリの意識が少し残っているせいで、よけいに残酷さが増していると思いました。カタツムリの台詞に括弧がないところも、両者の意識の連続性がよく出ていますね。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 空を飛ぶために私は空を見続けた。
 この木がなんという木なのかは知らぬ。ただ、日がよく当たる木であることから、この木に登れ、一番高い葉のところへ登れと、私は宿主であるカタツムリの脳に命じた。カタツムリの脳は、暑い。嫌だ、葉の裏が良いと反抗したが、私は、木の上はなんと涼しく、みずみずしいか、体が思う存分伸び上がるぞう。と吹き込んだ。カタツムリは抵抗の意志を少し見せたが、体を動かし木の上へ這い上がった。
 私とカタツムリは、木の上へ、空がよく見える葉の上によじ登った。空は晴れていてよく見えた。暑い、乾燥している。カタツムリの脳が泣き言を言ったが、私は気のせいだ。心地よい。むしむしと気持ちいいと、カタツムリの脳、右真ん中当たりを刺激しながら言った。うーん、そういえばそんな気がするなー、とカタツムリは考えを改めた。
 私は、このカタツムリの目に寄生している寄生虫である。カタツムリの腹の中から生まれ、成長し体の中を移動して、左目に入り込んだ。私の体は緑色で、私が入ったカタツムリの目は、おそらく芋虫のように見えている。芋虫を装うことによって鳥についばまれ胃袋に入り、鳥の腹の中に寄生する。それが、私の旅の目的である。

 太陽の下、ときどき、わき上がるカタツムリの反抗的意志をごまかしねじ伏せながら、私は体を脈動させ空を見上げ鳥を探していた。
 突然カタツムリが恐怖の声を発した。
 きっ、ひっひっ、に、逃げ逃げ逃げ、かく、かくっ、きぃーーーー。
 カタツムリは何かを発見したようだ。鳥ではない。もし鳥なら、私がそのような反応を起こさせない。むしろ、多大なる喜びを、この脳に与える。それとは違う何かを見つけ恐怖におびえているようだった。
 それはすぐ真下にいた。枝を揺らし、葉を揺らし器用によじ登ってきた。一匹の黒い虫、それを見てカタツムリの脳は悲鳴を上げたようだ。
 この黒い虫は一体何なのだ。体を揺り動かし逃げようとするカタツムリを落ち着け落ち着けと言い聞かせながら、カタツムリの脳の奥深くを調べてみると、この黒い虫はカタツムリを食う事がわかった。その恐怖は先祖代々遺伝的にすり込まれた記憶でどのような問題より恐ろしいものと印づけられていた。
 これは、カタツムリに寄生している私としても大いに困る。私はカタツムリに、この場から逃げるか、殻に隠れるか、どちらかするように命じた。
 そんな時、影が通りすぎた。上を見る。大きな影が空を舞っていた。鳥だ! 私は喜びに震えた。その感情をカタツムリにも伝えたが、反応はいまいちだった。それどころか、目の前に鳥がいるにもかかわらず、己の殻に閉じこもろうとしていた。
 困った。私の目的地である鳥が上空で旋回をしているというのに、カタツムリは黒い虫におびえ殻に入ろうとしている。確かに、この黒い虫に食われるのは困るが、鳥に食べられるという機会を逃したくはない。私はカタツムリに、このまま、とどまり続けるよう働きかけた。この虫がカタツムリを食べ終えるまで幾分かの時間がかかるだろう。それまでに、私が鳥に見つかり食べられればいい、そう考えた。
 しかし、カタツムリの恐怖が強すぎるのか、コントロールが効かず、カタツムリはその柔らかい体を殻の中に収め始めた。さらに困ったことに、私がカタツムリの左目に入り込んでいる所為で、左目が殻に収まりきらず半分ほど殻の外に出てしまっている。このままでは、真っ先に私のいる部分が食われてしまう。黒い虫は殻に足を乗せた。
 虫は私を見つめ、しばらく考えるそぶりを見せ、私を素通りして殻の奧へ、その細長い体をつっこんだ。私の体がおいしそうに見えなかったのだろうか。鳥に食べられることを至上の喜びと考えている私としては少し複雑な気持ちである。
 激痛が、カタツムリの脳内で起きた。なにやら得体の知れない液体を注入されたらしく焼けるような感覚をカタツムリは感じている。
 おわりだおわりだ。カタツムリの意識は絶望と痛みに支配されていた。私はその絶望感に働きかけ、どうせだめなら殻の外に出よう、痛みだって外に出れば収まるかもよ。と脳の右脇をやさしく撫でながら語りかけた。そうかな、そうなのかな、でででるか、いでででみるか。カタツムリは体を徐々に出し始めた。黒い虫は待ってましたとばかりに、がぶりとかぶりついた。
 いたいー、だめじゃん、いたいじゃーん。カタツムリは叫んだ。だが中に入ろうとしても、虫にかぶりつかれているため身動きが取れない。
 私は、肉を食われる感覚と空へ向かうことのできる希望を感じながら、脈動を繰り返し、早く来い、この身がすべて食べられてしまう前に、鳥に向かってカタツムリの目を振り続けた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/06/07 クナリ

ああッ、あの寄生虫ですね…ラストの、脈動するところのインパクトときたら。
どこでどう、あんな能力を身に着けたのでしょうか。生命ってすごい!
ところどころでカタツムリの意識も描写されているので、カタツムリ主観でイメージしてみましたが…狂気過ぎて無理でした…。
面白かったです。

14/06/08 草愛やし美

五助様、拝読しました。

どこから出てくるのでしょうか、この狂気の発想。気色が悪いと思いながら、一気に読み進み、大きな溜息をついて読み終えました。
寄生虫ですよね、この画像といい、胃の辺りが気持ち悪くなってしまいそうな……、だけど、皮肉な運命を呪わず、千載一遇の出会い(こんな場合には使わないでしょうが 苦笑)のように考え賭ける彼(寄生虫)に応援したい気持ちです。切なさまで感じるのは、自然界で生きることがいかに過酷かと感じずにはいられないからでしょうね、面白かったです。

14/06/25 黒糖ロール

淡々とグロくて、魅力を感じます。
ラストとかほんと気色悪くて素敵です。

ログイン