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FRIDAYさん

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今ではただの小さな小石

14/05/30 コンテスト(テーマ):第五十八回 時空モノガタリ文学賞【 転がる石のように 】  コメント:5件 FRIDAY 閲覧数:1800

時空モノガタリからの選評

参観日の放課後、何気ない親子の会話とそこに広がる緩やかな空気感、息子の詩をめぐる「俺」の思いが活き活きとしていてとても魅力的でした。作文の描写によって「俺に似」ていて「周囲からやや浮いて」いる息子の性格がよく伝わってきました。「ここぞというときのキメ台詞」「変な言葉」を教える「おかーさん」もなかなかの強者のようで面白かったです。「深い考えがあって‥…作ったわけではないだろう」息子の詩ですが、母に「うまいこといいくるめられ」る父の姿を子供ながらに観察していたのかも、とも思わせるところがありますね。息子の詩は同時に「俺に似た」彼自身の将来を暗示しているようでもありますね。

時空モノガタリK

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【ころがる石のように】 三年二くみ 久米木・みき也

ごろごろごろごろころがる石は
生まれたころはかどだらけで
でかくてえらそうな石だった
それも今では小さな小石

でかくてえらそうだったころは
いつもなんだかいばっていて
みんなのきらわれものだった
おれにちかづくとけがするぜって
かっこつけたりしていた
でもころがりはじめてからは
あっちこっちでぶつかって
あっちが欠けてこっちがわれて
たくさんいろんなだれかに会って
たくさんいろいろかんがえて
すりきれてすりへって
いろんなものをなくしていった

むかしは大きな石だった
むかしはかどだらけの石だった
それも今では小さくて
つるつるのまるいただの小石

 ●

「………ほーぉう」
 感心したように低い声を出した。
 『三年二組』というナンバープレートのある教室の廊下、そこにある掲示板の右端には【こどもたちの自由作文・テーマ:ころがる石のように】という題が、担任の先生の手書きらしい達筆でペン書きされていて、その横から四段組みでずらずらと原稿用紙が一枚ずつ並んでいる。
 その中の一枚と向かい合って、ポケットに手を突っ込んで猫背で立っている男は唸っている。
「………まあ、なんだ。うちの息子は詩人だな」
 顎を撫でながら、男はつぶやいた。周囲には誰もいない。放課後だ。参観日であったのだが、生徒らはとっくに保護者とともに帰宅している。男はといえば、しかし手には子供のものらしき黒のランドセルを提げているから子供を待っているところらしいが、
「まぁた腹でも壊してんのか? なっげートイレだな。………そういうとこも俺に似たのか」
 哀れ、と渋い表情になった。顎を引いたついでに、他の生徒の作文をざっと眺める。
 拙く読みにくい字でマスを埋め尽くされた原稿用紙が几帳面に並んでいる。そうしてざっと俯瞰しただけでも、彼の眺めていた作文はいささか異彩を放っていた。
 拙くて読みにくい字であることは同じだが、字数もおよそそろった短文の羅列であるという点で、その作文は周囲からやや浮いている。
 んー、とさして真剣味もなく男は眺めていたが、
「書くことがなかったのか………ありえるな。俺も昔やったことある気がするし」
 血は争えんなあ、と呟いて顎を撫でる。
「あ――――‼」
 不意に廊下に悲鳴のような絶叫が反響した。ああ? と首をめぐらす間にも声の主はどたどたと足音を鳴らしながら疾走してきて、
「なに見てんだよぉクソオヤジィ!」
「誰がクソ親父だバカ息子。どこでそんな言葉覚えてんだよ」
 言っている間にも息子は父の手からランドセルをひったくって荒々しく背負い、びっ、と父を指さして、
「クソオヤジは、ええと、ジョシショーガクセーのモジをなぞって、えと、ハァハァこーふんしてればいーんだよ!」
「マジで誰にそんな言葉習ったこのクソガキ‼」
「おかーさん」
「……あの女ァ」
 息子のつむじを指圧しながら、逆の手を握りしめる。脳天を押さえられた息子は、おお、と父の手を掴んで暴れる。
 暴れる息子を、父はしばらく黙って見下ろしていたが、やがて暴れつかれた息子が空気が抜けるように力尽きたのを見てため息をつき、指を外した。
「おかーさんに教わったそーいうのは全部忘れろ。いいな」
「えー。でもいっぱい覚えたんだよ。ここぞというときのキメ台詞とかさぁ」
「……言ってみろ」
 頷いた息子は、やおらこちらに背を向けて、横顔だけこちらに見せると、
「やめておきな。お前にも待ってる誰かがいるんだろう?」
「忘れろ」
「えー」
「いつキメる台詞なんだよそれは……帰ったら家族会議な」
 帰るぞ、と言いながら生徒玄関の方へ歩き出す。すぐに息子もちょろちょろと駆けてきて横に並んだ。
「おとーさん、腹減った」
「帰ったらなんかあんだろ……ああ、いや、時間的に晩飯食えなくなるから何もなしだ」
「えー、こっそり何か買ってよ。ツケで」
「ツケの意味知らねーだろお前。変な言葉ばっか覚えやがって……」
 半眼で吐息した。帰ったらマジで家族会議だ。しかし議論であいつに勝ったことないんだよなあ……どう巡っても最終的になぜか俺が論破されているというか、うまいこと言いくるめられているというか。
「……今ではただの小石、か」
「あ、なに?」
「何も」
 素っ気なく答えつつどこかへ走り出そうとする息子の首根っこを摑まえ、その後頭部を見下ろす。
 まさか何か深い考えがあって、あの詩を作ったわけではないだろうが。
 ただ、なんとなく。
 彼は、自分の人生を振り返っていた。


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このストーリーに関するコメント

14/06/16 光石七

拝読しました。
書いた詩と話す言葉のギャップにやられました。
でも、子供って鋭いし、大人がハッとするような言動を無意識にしますからね。
主人公はどんな人生を歩んできたのでしょうか。

14/06/16 FRIDAY

光石七さん、コメント有り難うございます!

屈託なく言ってくれるから深く刺さるんですよね。不思議なことに。

主人公の人生は、きっと転がる石のような人生を生きてきたのだろうと思います。……昔は角ばっていたけれど、今ではすっかり丸くなって愉快な嫁と愉快な息子がいる、と言う感じの。
人生ですね。

14/06/18 そらの珊瑚

FRIDAYさん、拝読しました。

つるつるになった石、それはそれで幸せな在り方かもしれないなあと思います。
冒頭の詩も、いかにもこどもが書いた風なのに、味わい深くて良かったです。

14/06/18 FRIDAY

そらの珊瑚さん、コメント有り難うございます!

なくしていったものも多かったのだろうけれど、そうなったからこそ得られたものもたくさんあったのだろうと思います。

とっくに童心を忘れ去った私がこどもらしい詩を書けるのか悩ましかったのですが、評価いただけてうれしいです!



14/07/14 FRIDAY

凪沙薫さん、有り難うございます!

いえいえいえ! 私自身あまりに驚いて飲みかけの牛乳を噴いてしまいました。
私もまだまだ勉強中です。こちらこそ宜しくお願いします。

私も感想文の類は苦労したクチです。必死でひねり出したはずなのにあたりさわりない感想しか書けていないのが不思議でした。

父も父ですが母も母で、本当に、なかなか末恐ろしい子供ですね。生意気盛りですし。
大成できたらいいですよね。

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