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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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冬来たりなば春遠からじ

12/06/12 コンテスト(テーマ):第七回【 結婚 】 コメント:3件 そらの珊瑚 閲覧数:3200

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 ぶるぶるっ。冬は寒い。あたりまえか。ぼくは毛皮を着ているからいいけど、銀次は冬でもぺらっぺらっの木綿の単衣。どんだけ寒いかって思うよ。でも寒いって江戸っ子が言うのは野暮だと思ってて「はーくしょい。今日はばかにあったけいな。もう春か」なんて強がり言ってんだよ。風邪引く前に綿入れすればいいのにね。
 申し遅れましたが僕は犬の『くろ』。人間の言葉をしゃべる不思議な犬だよ。豆腐屋銀次はぼくの飼い主。
 あっ向こうからお花ちゃんが、おっかさんのお美代さんと連れ立ってやって来た。内緒だけど、お美代さんは銀次の想い人なんだよ。
「銀ちゃん、おはよう」
「お花ちゃん、おはよう。今朝はおっかさんも一緒かい」
「銀次さん、いつも美味しい豆腐をありがとうございます」
お美代さんは五年前に亭主を流行り病で亡くしてから、女手ひとつでお花ちゃんを育てている。
「そうだ、お花ちゃんにお土産があるんだった。この間くろと吉田神社の酉の市に行ったって思わず買っちまった。はい、どうぞ」
 それは竹細工の風車だった。お花ちゃんはちらっとお美代さんを見た。その顔はもらっていい? と聞いているようだった。
「あらあら、いつもすみません」
「ありがとう、銀ちゃん」
 お花ちゃんはまんまるのほっぺをぷうっと膨らませて、風車に息を吹いた。からからと回り、いかにも楽しい音がした。
「そうだ、銀次さん、お礼に着物に綿を入れさせてもらえないでしょうか。大分寒くなってきたことだし。是非やらせて下さいな」
 最初は断っていた銀次だったが、お美代さんがあんまり強く言うので、負けてとうとう着物を一枚渡した。
 
 数日後、お美代さんが銀次を尋ねてきた。手に銀次が渡した着物に綿入れをしたものを持っている。ああ、なんて間の悪いことだ。銀次、留守じゃないか。
「あれ、お美代さんじゃないか」
 そこへ運良く長屋の住人登美さんが通りかかり声をかけた。
「あっ登美さん。銀次さんにお届けものがあって伺ったんですが、お留守のようで」
「じゃあ私が預かって渡しておこうか」
「お願いできますか。私明日からちょっと実家に里帰りするもので。渡していただけたらわかりますから」
 その話を聞いたぼくはある作戦を思いついた。恋の縁結び作戦だ。
 その夜登美さんがお美代さんから預かった銀次の着物を持ってきてくれた。
「すみにおけないねえ、銀次さん。でも二人はお似合いだと思うよ。幸いお花ちゃんも銀次さんに懐いているみたいだしさ」
「いや、そういうわけじゃねえよ。ただ、これは、ええっと、その……」
「まどろっこしいねえ。おせっかいかもしれないけどさ、機を逃しちゃだめだよ。私は銀次さんに幸せになってもらいたいんだから」
 そう言って登美さんは帰った。すかさずぼくは銀次にこう言った。
「ねえ、銀次、昼間お美代さんが変なこと言ってたよ。実家に帰るって」
「ええっそ、そりゃ本当か。で、いつだ」
「明日って言ってたよ」
 驚いた銀次はしばらく黙っていたが
「くろ、ちょっと留守番たのむぜ」
 そう言うと家を飛び出していった。どこに向かったかは察しがつくでしょ。ぼく、うそはついてないよね。ただちょっと省略しただけさ。頑張れ銀次!

 ──どんどんどん。
「すまねえ、夜分に。お美代さん、ちょっといいですか、銀次です」
 いつになく思いつめたような顔をした銀次。
「まあ銀次さん、どうかされましたか」
「実家にけえるって聞いて。もういてもたってもいられなくなって。お願いだ、けえらないでくれ。遠くに行かないでくれ」
「あの、ちょっと二、三日の予定なんですが、だめ……ですか」
「へっ、二、三日?里帰りいぃ?」
「はい」
「くろの野郎、はめやがったな」
「えっなんのことです」
「えっいや、こっちの話です」
「はあ……?」
 お美代さんの濡れたような黒い瞳に見つめられ、銀次は意を決してこう言った。
「おれと夫婦になってくれまいか」
     ◇
 その後ささやかに長屋で祝言が行われた。
 神妙にかしこまっている銀次の横で、お美代さんとお花ちゃんがにこにこと微笑んでいた。おめでとう! 銀次。やっとこ春が来たんだね。


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このストーリーに関するコメント

12/06/12 泡沫恋歌

拝読しました。

ほのぼのとした良い話。

しゃべる犬、くろのお陰で結ばれた二人は綿入れが要らないような
温かい家庭を築けそうです。

江戸情話も楽しいですね。

12/06/14 そらの珊瑚

恋歌さん、コメントありがとうございました。

しゃべる犬は平成の世でも、人を和ませてくれてますね♪

時代ものは単語ひとつとっても難しいのですが
江戸の庶民のお話ってなんだかほのぼのとして楽しくて好きなのです。

12/07/14 そらの珊瑚

恋歌さん
ありがとうございます。

江戸の下町を描いたほのぼのとした
お話が好きで
ファンタジーを加えてこんなお話を書いてみました。

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