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ナポレオンさん

まだまだ未熟者ですがコメントもらえると嬉しいです。 忙しくてなかなか投稿できませんでしたが半年ぶりに復活してみました。 しかし、皆さんレベルが高いです^_^;

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闇夜のマスカレイド

14/05/10 コンテスト(テーマ):第五十六回 時空モノガタリ文学賞【 結婚 】 コメント:9件 ナポレオン 閲覧数:1019

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「あなた、最近なんか私に隠してない?」
夫は玄関で靴を履く手を止めた。
「え、な、なんだよ急に」
「こないだもそう。すぐに帰るとか言って、結局深夜まで帰ってこなかったじゃない」
「あ、あの日は残業で………」
「残業?上司の方に電話したらあの日は帰ったって言ってたわよ」
私が刺すような視線を送ると、夫はあわてて靴を履き、逃げるように会社に向かっていった。
「まさか、こんなことになるなんて……」
溜息をつきながら、携帯の画面を確認する。どうやら、夫の鞄に忍ばせたGPS発信機は正常に機能しているようだった。

結婚したばかり頃。夫は誰よりも誠実な人だった。それが最近、飲み会があるだの急な残業が入っただのと遅くまで帰ってこないことが多いのだ。
近所の奥さんに相談したところ、100%浮気してるわとあっさり言われ、どこで手に入れたのか発信機まで貸してくれたのである。
最初は、あんなに優しくて誠実だった彼が浮気なんてするものかと思っていたが、試しに残業中の夫がいる会社に電話をかけてみると、電話口に立った上司は旦那さんならもう帰ったよとそっけなく言うのだった。さらに聞くと、最近の夫は会社の同僚が飲みに誘っても用事があると言って一人で帰ることが多いらしい。かくして疑惑は確信に変わり、夫の鞄に発信機を入れるという事態になったのである。

その晩、私はそわそわしながら夫の帰りを待った。夫の不貞を知ってしまうかもしれない嫌な緊張が時間の流れを遅くさせた。机上の携帯電話の画面に記された夫の居場所を示す緑色の点は会社のある位置に留まったままだった。時刻は夜の8時に近い。そろそろ会社を出るころだろうか。
そうこうしているうちに、その時は来た。発信機の情報を映していた携帯の画面が切り替わり、着信が入った。震える手で電話に出ると、電話越しの夫は申し訳なさそうな調子で言った
「ごめん、今日も残業で遅くなる」
電話が切られた後、再び映し出された画面で緑色の点は彼の務める会社を離れ駅の方へと動き始めていた。

発信機の行き着く先は、意外にも郊外の住宅街だった。月のない深夜の住宅街は暗く不気味で、街灯から街灯までの間は完全な闇が満たしていた。とても夜遊びをするような場所ではないが、こんなところで別の女と会っているとしたらそれはとんでもない事態だ。お金持ちの未亡人だろうか、それとも遊びたい盛りの若い娘だろうか、私は夫の跡を追う道すがらそんなことばかり考えていた。
この辺だろうか。ようやく私は発信機の示す地点にたどり着いた。このあたりで待っていれば、いずれ夫に会えるだろう。そう思い、私は暗闇の中で浮島のように点在する街灯の一つにそっと身を寄せた。

しばらくして、ガチャガチャと無機質な音が聞こえ、私は顔をあげた。なにやら、街灯の向こう側の暗闇に動くものが見える。
「何?」
暗闇の中、二つの光が赤々と光って見えた。それはゆっくりとこちらに近づき、街灯の中に浮かび上がる様にその奇妙な巨体をさらす。一瞬の硬直。私は自分の目を疑う。3mほどの昆虫のような姿の化け物がキシキシと全身を軋ませながら無数の手足を動かしていた。
「え?ちょっと、何よこれ」
やがて、真っ赤に光る眼がはっきりと私の方を捉え、鎌のような長い腕が私の真上に振り上げられた。街灯の明かりを反射したそのきらめきに、はっと我に返る。このままでは殺される!
悲鳴を上げ、化け物に背を向けながら走り出す私。振り下ろされた腕は私の背中をかすめ、そばにあった電柱を真っ二つに切り裂いた。架線が火花とともに千切れ、電柱が倒れる。轟音が静かな深夜の街に響く。
「なんなの?なんなのよ!」
私は泣きながら全力で駆けた。後ろから、たくさんの足がガチャガチャと音を立て追いかけてくる。もうだめだ、追いつかれる、そう思い振り返った。
――刹那。
闇を裂くように白いマントが翻り、耳をつんざく悲鳴とともに、化け物はどさりと倒れた。その額には銀の剣が突き刺さり、緑色の体液が地面に濃い染みを作っていた。
突然のことに訳もわからずその場に座り込む私に、差し出される一輪の純白のバラ。
「お怪我はございませんか?Madame」
白いスーツに白マント、そしてきらびやかな仮面をつけた男性が街灯の光を受け微笑みながら立っていた。
「あなた、お名前は?」
「名乗るほどのものではございません。それより、早くここから離れた方がよろしいですよ。」
その時ふと覗いた仮面越しに、私は誰よりも優しくて誠実な目を見た。



それからも夫の急な夜遊びは、無くなることはなかった。私は電話越しに言い訳をする夫に悪態をつきつつ、ちょっとだけ豪華な夜食を冷蔵庫にしまう。たまには夫が帰ってくるまで待っていようかな、花瓶に生けられた一輪の白いバラを眺めながら、私はそんなことを考えるのであった。


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このストーリーに関するコメント

14/05/13 gokui

 読ませていただきました。
 突然の化け物の出現に、ヒーローの登場。ヒーローの正体は夫としても、なかなか謎だらけの怪作でしたね。

14/05/14 メラ

ナポレオンさま、拝読しました。
いやはや、驚きの展開。まさかご主人がヒーローだったとは。普通の不倫話ネタかと思って読んでいましたが、かなりサプライズな物語でした。
趣味にたけのこ掘りとありますね。私も好きです。私の住む地域はもうじき収穫です。

14/05/14 ナポレオン

gokui様
コメントありがとうございます。
シュールなギャグっぽい結末にしようとしたら謎すぎる展開になってしまいました(笑)
お読み頂き光栄です(^-^)

14/05/14 ナポレオン

メラ様
コメントありがとうございます。
シリアスっぽく始めて最後に変態っぽい格好の旦那を出そうとしたら思いのほかかっこいいヒーローっぽくなりそれはそれで満足です。
当方社会人となり、配属された先がとんでもない山奥で春には美味しいタケノコがとれます。やっぱり食べ物は取れたてが一番ですね。

14/05/18 ナポレオン

凪沙薫さま
コメントいただきありがとうございます。
楽しんでいただけてこちらもうれしいです。いつも暗い話を書くことが多いのですが、今回はちょっと楽しい感じで終わらせてみました。

14/05/20 草愛やし美

えっ、残業はこれだったのですか。驚きの展開ですね。

途中、あれ、何か違う物語に突入したのか、あるいは、サブミナル効果のように、最中に餅でも入っていたのかしら?なんて、思ってしまいました。笑

恰好いい旦那さまを持たれた奥様、なかなか大変な結婚生活だと思いますが、頑張って支えてあげて欲しいなあと思います。面白かったです。

14/05/22 ナポレオン

草藍様
コメントありがとうございます。
一気に訳の分からない展開にするために、最初は真面目な感じで書いてみました。
結婚生活は大変なものになるでしょう。願わくば彼には家や職場では仮面&白マントを着用しないでもらいたいですね。

14/06/05 かめかめ

……タキシード仮面さ(げふんげふん)

14/06/09 ナポレオン

かめかめ様
コメントありがとうございます。
……そうです。いわゆる彼です。それは言わないお約束なのに。

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