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タックさん

何を書いても平凡なのが悲しい。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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夜が更ける、子供たちのパレード

14/05/02 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:10件 タック 閲覧数:1532

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 なんとなくそんな気がしたから――――少年は家を出る。
 
 頬をなぶる夜の冷たい風。ドアを閉めれば人気のない玄関は無音で消え失せ、少年はどこか他人行儀な家を振り返ることなく歩いていく。住宅街は静寂、街灯の光もなく、灰色の塀や電柱が薄闇にひっそりと佇んでいる。足取りに呼応して少年ひとりの靴音だけが遠く遠く響き、さびしさを、幾分と含んで戻ってくる。見上げれば、空には大きな月。星々を押しのけて明々と煌々と輝いている。少年は圧迫感という言葉を知らなかったけれど、月が与える威容はまるで世界を埋めつくさんばかり。頭の上から怖くなる心を落ち着け、少年はゆっくりと、自分の予感が指す方向へと歩を進めていく。

 視界が大きく開けた空間、街の大通りで、少年は足を止める。目に映るのは住宅街と同じ暗さ。信号も、街灯も、光という光がすべて飲み込まれたように沈黙していて、人影もなく、同等に注ぎ込まれる淡い月光だけが通りを照らしている。

 ぞわぞわと湧き上がる感覚。少年は通りに立った瞬間、自らの予感がささやくのを感じていた。ここだ、と心の中のだれかが騒ぎたてるのを聞いていた。
 その、透明なだれかに従って、暗い歩道の上、待ち続ける。――すると待望に答えるように、わずかな音が周囲を震わせ始めた。大通りの向こうからやってくる気配が、少年の体を静かに圧迫し始めた。

 少年は押されるように車道へと駈けだし、目を凝らす。遠くから、大通りは徐々に明るくなっていた。ビルや歩道から、闇が少しずつ締めだされていた。白光の元が、肉眼でも確認できる位置まで近づいてくる。その正体に、わあ……という嘆息がもれた。車道いっぱいに広がっていたのは、目にもあざやかな、豪華絢爛のパレードだった。妖精、動物を模したキャラクターたちが大型の車に乗り、狂喜乱舞、本当に愉快そうに歌い踊っていた。少年の顔が満面の笑みに輝き始める。思わず走り寄ろうとしたところに、わあ、という歓声が背後から聞こえ、少年は振り向いた。気がつけば大通りには、たくさんの子供たちが溢れていた。

 マナブ、と少年の背中が叩かれる。同級生のコウジが横に立っていた。

「ああ、コウジ。コウジも、きたんだ」

「うん、なんか予感がしてさ。気づいたら、ここにきてた」

 歩道へと戻った二人は肩を並べ、パレードを見つめた。はなやかで、すべての心配を吹き飛ばすようなその景色は、眺めるだけで心が穏やかになるものだった。コウジが小さく言葉を発する。その顔には生気がなく、病的な白さが際立っていた。

「……マナブ、オレさ、最近野球やってても全然面白くなかったんだよ。結果は出ないし、監督には怒られるし、夜も眠れなくてさ、……死にたいって、思ってたんだ。でも、これ見たら、なんかどうでもよくなってきた。すっごい、幸せな気分でさ。ずっとここにいたいって思えるよ」

「……実は、ぼくも。陰でいじめられててさ。毎日、死にたい、死にたいとしか思ってなかった。でも、あのパレード見てたらなんかふわふわして、あったかくて、すごく元気がわいてきたんだ。……僕も、ここにいたいな。学校とかもう、行きたくないよ」

 ゆっくりを保ったパレードは通りを進み、その速度に応じて、先々で子供たちの嬌声があがる。二人は恍惚した表情で光景を見つめ、通り過ぎた余韻を草原の空気のように味わい、体に留めていた。
――二人の、視界の外れ。パレードの通り過ぎた跡地は、見通せないほどに黒々とした闇を抱え始めていた。そこにいた子供たちの姿もいつの間にか失われ、元の、コンクリートの支配した風景がそこには広がるだけだった。それに気づかぬ二人はうっとりとパレードを目で追い続け、そして、闇へと、飲み込まれていった。








 
 小学校の校舎裏。三人の少年が一人の小柄な少年を囲んでいる。壁際でうつむく少年は、微弱に体を震わせていた。

「マナブくんさあ。なんで、学校きてんの? お前いると、ベンキョーする気なくなっちゃうんだよね、おれたち」

 嘲りの色を隠そうともせず、にやにやと三人は意地悪く笑む。その三人には、窺い知ることができなかった。下を向く少年の瞳には、意思を感じさせる小さな光が宿っていた。

「そんなマナブくんからは、なにかいただくことにしまーす」

 一人がランドセルをつかみ、手繰り寄せようとする。その手が、強く払われた。

「……ろよ」

「……え?」

「やめろって、言ってるんだ」

 面を上げた少年は、強く毅然とした態度で三人を見すえた。その、今までになかった反抗に、実は根の弱い三人は驚き、少しの間の後、ぐずぐずと言葉を吐いてその場を去った。残された少年の胸は、急に湧いた勇気に鼓動している。なぜか、感謝を告げるべきとの思いが膨れ、少年はどこかに向かって、ありがとうと呟いた。


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このストーリーに関するコメント

14/05/03 光石七

拝読しました。
少年が見たパレードは幻想だったのでしょうが、勇気を出す力になったようですね。
前半の不思議な世界、自分が吸い込まれそうな感覚になりました。
読後感が爽やかです。

14/05/03 泡沫恋歌

タック 様、拝読しました。

少年はあのパレードを見たことで、内側から変わっていったのでしょうか?
勇気を貰えたパレードに感謝ですね。

前半の描写が詩的でとても美しいです。

14/05/03 そらの珊瑚

タックさん、拝読しました。

夜の異次元性が際立つような前半の美しいパレードの様子に、
悲しい結末を予感してしまいましたが、
それが裏切られてほっとしました。

パレードはもしかしたら「変わりたい」と無意識に思っていた少年の想いが
生み出した幻想なのかもしれないと思いました。

14/05/04 草愛やし美

タック様、拝読しました。

少年の見た幻影?現実?あるいは、想像? でも、このパレードは、確実に弱い少年の心に、灯をともす力があったことは確かなことなのですね。
あまりにも辛いと、人は非現実的な世界を構築し、そこへ入り込むと聞いたことがあります。不思議なパレードが、彼にとって楽しいものでパワーをもらえたのはよかったとおもいました。

14/05/09 タック

光石七さん、コメントありがとうございます。

前半部分は不思議に、別世界さを出せればいいなあと思っていたので、光石さんのお言葉は本当に嬉しいです。
あまり、書いたことがない種類の話でしたので不安でした。これからもなるべく、読後感が良いものを増やしていければと考えています。
ご一読、ありがとうございました!

14/05/09 タック

泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

少年の勇気は内側から湧き出たものなのか、外側から受け取ったものなのか、そこはほっぽりだす形でぼやかしております。想像し、展開していただけたら……と、皆様にお任せする感じになりました。
詩的で美しい、というお言葉は涙が出るほど嬉しいです。泡沫恋歌さんをはじめ、少しでも皆様に近づけるよう頑張ります。
ご一読、ありがとうございました!

14/05/09 タック

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

夜の異次元性、どこか突き放されたような感じを出せれば、と考えていましたので、お言葉をいただけたことは本当にありがたいです。
悲しい結末を予想していただけたら……、と少しだけ苦心して書きました。ほっとしていただけたなら幸いです。
ご一読、ありがとうございました!

14/05/09 タック

OHIMEさん、コメントありがとうございます。

OHIMEさんの卓越した読解力に頭の下がる思いです。そこまで読み取っていただけるとは……、と作った自分としても虚ろにしか考えていなかった部分にお言葉をいただき、本当に嬉しく思いました。
OHIMEさんはじめ、素晴らしい書き手の皆様に少しでも追いつけるよう、頑張ります。
ご一読、ありがとうございました!

14/05/09 タック

草藍さん、コメントありがとうございます。

パレードは現実だったのか、幻想だったのか、内部だったのか、外部だったのか……、あまり確かには考えておらず、完全におんぶにだっこ、委ねる形となりました。もし、面白いと感じていただけたなら、これほど嬉しいことはありません。

もう少しパレードを克明に書ければ良かったかな、とも思いましたが、いろいろな関係で(字数……ゴニョゴニョ)結局短くしてしまいました。皆様のように、短く、しかし効果的に物語を書ければいいな、と考えています。
ご一読、ありがとうございました!

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